第86話 俺の演技何点くれる?
「……なあ? 本当に魔力がなくなるのか? 失わなくちゃならないのか?」
エンドが叫んでも手下たちは目を覚まさず、酒場にも聞こえなかったようで新たな乱入者もいなかった。
しばらく呆けたようになった後、エンドは諦めきれないとばかりに質問して来た。いや、もはや愚痴であろう。
「断定はできん。我々は最悪に備えて行動しているだけだ」
翔太郎はしれっと如何にもな答え方をする。まさか、神々のケンカのせいで惑星改造は決定事項だ、などとは口にできない。
「逆に問おう。本当に魔力というものが必要なのかね? 魔力がないと社会が成り立たないとでもいうのかね?」
「それは……」
魔法使いの一派に国政を牛耳られ、そのせいで国民が圧政に苦しんでいる。だからそんな体制を破壊しようとしているエンドにとって翔太郎の質問は答えにくいものであった。確かに魔法というモノがなければこんな状況にはなっていなかったかもしれない。
だが、魔法がなければないで別の形で圧政が行われていた可能性もある。魔法は武力の一つに過ぎない。
そういう反論もできないことはない。
だが、その反論では魔法は必要不可欠なものではない、他のモノで代替できるということを認めることになるではないか。
魔法使いどもを退けて革命は為したいが、魔法そのものを失いたくはないエンドはジレンマに陥るのだった。
「……確かにいきなりの提案だ。悩むのは当然だろう。だが宣言しておく。貴公がこちらの提案を蹴ったとしても、この国から魔力を消去するのは決定事項だ。貴公が何を言っても我々は実験をやめることはない。協力者が一人もいなければ、残念だが国民には一度魔力枯渇になってもらい、その後強制的に治療させてもらう」
「畜生! やっぱりテメエは悪魔だ! 何で俺なんだよ! なんでこの国なんだよ!」
魔力を消し去るという装置が本物かどうかという疑念は今もあるが、エンドを含めて十数人を一度に意識を失わせる力は実際に持っている。力で抵抗できそうにないことがハッキリした今、エンドは悪態をつくことしかできなかった。
「我々への評価は後にしてもらいたい。人間は慣れる生き物だ。いずれ魔力などがなくても普通に生活できるようになるだろう。それでこの国を選んだ理由だったか? それも言ったはずだがな。どこでもよかったが、ちょうど革命の素地があったからだよ。恩を売れば国政や面倒なことは任せられそうだからな。こちらの要求も通しやすくなるだろうし。だが、こうして交渉が難航するとは。いやはや、人間というのは難しいものだな」
「……時間をくれ。俺だけじゃとても決められん」
「よかろう。だが、革命を決行するために時間がほしいというのならたっぷりと時間をかけても構わないのだが、協力するかどうかを決めるためと言うのなら、そこまで時間をかけてほしくはない。一日だ。明日またこの時間に訪ねよう」
「……ゴネても無駄なんだろうな。わかった。明日までには答えを出す」
「実りある返答を期待しよう。我々が本気だということの証明としてこの装置と説明書は置いていこう。ああ、仲間内で使ってみたいなら結局治療が必要だな。薬も置いていこう」
立ち上がった翔太郎は、ロボットに命じて小瓶をいくつかテーブルの上に乗せた。
「覚悟が決まったら飲むといい。魔力枯渇にならなくなる。或いは、仲間の中には魔法など使ったことがないという者もいるだろう? そういう人間ならデメリットもない。試してみることだな。ああ、そうだ。そこの部下たちはまもなく目を覚ますだろう。では、これにて失礼」
それだけ言うと、翔太郎一行は隠し部屋を出て行った。鍵をかけられていたが、ロボットたちにとって何の障害にもならないようで、まるで自分の家であるかのごとく開け閉めしていた。
「……畜生、当たり前みたいに出て行きやがって、バケモンが……こりゃ本気でどうするか決めないとならないな……」
エンドは翔太郎たちが出て行った隠し扉を見つめ一人ごちた。
そして、翔太郎の言ったとおり手下たちが一人二人と目を覚ましていく光景を目にして、一層翔太郎に対しての恐ろしさを感じるのであった。
一方、人知れず畏れられている翔太郎といえば、酒場の隠し扉から秘密の通路を抜け、スラム街の裏路地とでも言うべきところに来ていた。
レーダーで翔太郎一行を見張っている人間がいないことを確認したあと、成層圏で光学迷彩状態で待機中の小型船に転送装置を使ってもらい帰還した。
「うわー! 俺、何のキャラなんだーっ!」
小型船に戻った途端、翔太郎は装備(コスプレ衣装)を脱ぎ捨て、更に床を転げまわった。
ロボットたちはそんな翔太郎に特に何も言わずに脱ぎ捨てられた装備品を片付けていく。
「……なあ、わーさん。俺の演技何点くれる?」
一頻り愚痴をこぼした後、床に大の字になったまま、遥か遠くで待機中の宇宙要塞AIに脳内通信でくだらない質問を投げかけた。
『もちろん100点でございます』
「……それって、100点満点で? それとも1000点満点?」
『オーナーのお望みのままに』
「……わかった。今度からは演技なしでいくから。くそ、ハードボイルドの道は遠いな……今日は精神的に疲れた。もう休む」
『はい。オーナーの意向どおりに』
「あ、プタルカの反応は?」
『残念ながらございません』
「そっか。あの野郎、何してやがるんだ? ちゃんと覗き見してるんだろうな?」
小型船は、無論プタルカに対する罠だが、兵器の数もロボットの数も少なく襲撃するには絶好の機会のはずだ。
それを十重二十重に『魔力レーダー』で監視し、発見次第プタルカごと空間転送で翔太郎たちが有利な戦場に移す予定だ。
もしそれが叶わなくても大型戦艦を逆に送り込んでもいい。惑星が戦場になってしまうが、SF派の神々が参戦するまで持たせればいいのだ。
だが、翔太郎たちの罠を察知したかのようにプタルカの反応はない。
長期戦も覚悟しなければならないな、と考える翔太郎であった。
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