第85話 もう一回だけ説得してみる
「あ~あ……結局こうなっちゃったか……わーさん、これって失敗? それとも想定の範囲内?」
翔太郎はテーブルに突っ伏したエンドや床に死屍累々の有様で倒れているチンピラたちを見渡しながらこの場にはいないAIの統括者に質問をした。
『想定の範囲内です。少々強引でも治療を施してしまえば後戻りはできないのですから』
脳内通信で答えが返ってくる。
この場には意識のある人間は翔太郎しかいないので独り言のように見えても気にせずに宇宙要塞のAIと会話する。
「でも、それって今までの演技やらプレゼンが無駄ってことじゃないか? だったら始めっから強引に治療した方が話が早い……ああ、そうか。わーさんたちが『洗脳』を推してたのを却下したのは俺だったな。悪い悪い」
そうなのである。強引な手といえば始めから提案がなされていて、それを却下したのも翔太郎であった。現作戦はあくまでも翔太郎の心理的負担を軽くするために立案されたものであって、効率などは二の次なのである。翔太郎が梃子摺るのも当然だ。
「……わーさん。もうちょっと付き合ってくれ。もう一回だけ説得してみる。それがダメだったら、その時は『洗脳』でも何でもして作戦を進めるからさ」
『オーナーのお言葉どおりに。我々はオーナーのために存在しているのですから』
いつもどおりといえばいつもどおりの、ご主人サマ至上主義な答えである。
このAIに意思がないなどという定型のセリフも翔太郎はまるで信じていない。大概の日本人、娯楽作品に慣れている人間なら、機械生命体やら意思のあるロボットやらはよく聞く言葉だ。実際に存在したとしても、技術的なことはともかく、不思議だとは思わないだろう。
「いつもすまんな。じゃあ、こいつらを治療しないままで起こしてくれ」
『了解しました』
翔太郎の目には見えないが、魔力が一旦除去された空間に再び充填されていく。
『まもなく覚醒します』
待つこと数分、エンドの身体に取り付いているナノマシンからバイタル情報が送られているのか、AIが予告してくる。
その言葉どおり、エンドが身じろぎする。
「……俺は……」
顔を起こしたエンドが翔太郎と目を合わせた。
「て、てめえは……」
慌てて身体も起こし、周りを見渡すが、手下たちは床に倒れたままである。どうやらAIはエンドだけを覚醒させたようだ。
そしてエンドはテーブルの上に置かれている『魔力除去装置』を目にして自分の身に何があったか思い出したようで、顔を真っ青にしている。
翔太郎は経験はないが、魔力枯渇というものはかなり苦しいもののようだ。
「調子はどうかね? 寝起きのところ悪いが、もう一度私の提案について考えてもらえるかな?」
翔太郎はエンドが正気を取り戻したと判断し、話を再開する。
「……《火を灯せ》……対処薬とやらは飲ませられていないようだな……」
エンドは翔太郎の提案を思い出し、自身の魔力がなくなっていないか確かめた。指先に小さな炎が生まれ、エンドはほっとしている。
「当然だ。再考する猶予ぐらいは与えてやろう。次はないがな」
「そ、それは脅しか?」
「一面だけを見れば、それは否定できないな。だが、片手落ちだ。どんな駆け引きにもそれは言える。政治など其の際たるものではないかね? 貴公の仕事も、有形無形の力をチラつかせてこそ成り立つのでは?」
これまで他人を何度も脅してきた身のエンドはぐうの音も出ないようだった。
「ま、どうでもいいことだが。それよりも、この装置の効果、どうだったかな? これさえあればどれだけ強力な魔法使いだろうが簡単に無力化できる。すでにこの国は落ちたも同然といっても過言ではないな」
過言も過言であるが、大物ムーブ継続中の翔太郎は両手を広げたオーバーアクションを決める。
そしてエンドも、実際に魔力枯渇させられたばかりであったので、バカバカしいと笑い飛ばすこともできないでいる。
「……俺はどれだけ気を失っていた?」
「ん? 10分も経ってないぞ?」
「そんなバカな。魔力枯渇がそんなに早く治るはずがない! その魔道具、ホンモノなのか? 魔力枯渇に見せかけた麻痺の魔道具じゃないのか? いや、そもそもお前、魔道具に触ってもいなかったじゃないかよ。麻痺の魔法をかけたんだな!? だから手下どもは麻痺したままなんだな!?」
どうやらエンドは魔力枯渇に関して翔太郎とは違った知識を持っていたようで、装置自体を疑い出した。ひいては翔太郎のすべてを否定したいようである。
「回復が早かったのは魔力をピンポイントで元通りにする機能も付いてるからだ。貴公の部下たちはその範囲外だ。触らずとも作動したのは、仕様だ。私たち全員がスイッチを握っている。私一人を倒そうとも無駄だぞ?」
脳内台本のおかげでスラスラと答えることができる。
だが、エンドにとってはそれが逆に胡散臭く感じられるようだ。表情に出ている。
「質問をいくつ重ねても信じたくないものは信じられないものだ。時間の無駄に過ぎない。そもそも本題はそこではないのだよ。エンド殿、我々に協力するかしないか、決断してもらえないかね?」
「もし断ったら……」
「安心しろ。別に死ぬわけではない。革命の主導権は貴公たちには与えられないというだけだ。指を咥えて見ているがいい」
「くっ……じゃ、じゃあ何で俺たちの協力が要るんだよ? 勝手にやりゃあいいじゃねえかよ!」
「ふむ。説明が長すぎて肝心なことが零れ落ちたか? 言ったはずだが、我々の目的は実験なのだ。政治など手間のかかることに長く関わりたくはない。この国のことはこの国の人間に任せたいと考えてもおかしくはないだろう? ただし、我々の実験に反対する人間はお断りということだ。当然だろう?」
「俺たちの魔力をそのままで協力、というのは?」
「それでは実験の意味がない。革命は手段、全国民から魔力を除去する過程に過ぎないからな」
「畜生! 俺にどうしろって言うんだ!?」
エンドの、どうもこうもない、ただの癇癪でしかない叫びが隠し部屋に虚しく響くのであった。
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