第84話 洗脳よりはマシだと信じたい
「ま、魔法のほうが簡単だ……そ、それに、魔法は火をつけるだけじゃねえ。水も出せる。明かりを出すこともできる……」
翔太郎のプレゼンはエンドの心を掴むことはできなかったようである。魔法使いを倒して国を引っくり返そうという意気込みはあるが、魔法そのものを否定しているわけではなかったのだ。
もちろんAIの報告からそのことは何となくわかっていた。
例えていえば、現代日本人に『明日から電化製品を使わず、江戸時代レベルの生活をしよう』とPRしているようなものだ。どこぞの国にはそんなコミュニティーがあるらしいが、ほぼ100%の日本人が拒否することだろう。
エンドたちも生まれてから当たり前にある『魔法』を捨てることに拒否感を覚えることに何の不思議はないのだ。
では何故わざわざコスプレまでしてプレゼンしているのかと言うと、近い将来この惑星から魔力がなくなり、結果的に魔法が使えなくなるのは決定事項だからである。無論プタルカの討伐が成功すればという条件はあるが、AIの分析でもほぼ間違いなさそうで、例え翔太郎が『剣と魔法の世界のほうがいいなあ』などと意見したところでSF派のコンセプトとしては受け入れてもらえるはずもない。
惑星の再生を任されたことをいいことに、魔力の除去を敢えてしなかったとしても、惑星アーテラスでは100年周期でプタルカが魔力を補充していたことを考えると、もともと自然に魔力を発生させている環境でない限り、いつかは魔力が枯渇するだろう。SF派の神たちが補充してくれるはずはない。なにしろ放置・観測がコンセプトなのだから。人類が全滅しないように翔太郎に再生を任せるだけでも特別なことなのだ。
惑星の魔力の枯渇するまでのタイムリミットは100年かそこらであろう。それまでに翔太郎はこの惑星の生物の遺伝子を正常に戻さなくてはならない。
そして、最大の目的である『プタルカの誘き出し』の作戦を組み込んだのだ。
魔法、つまり魔力への依存が高すぎる国が自然発生したクーデターで政権が変わる。それに乗じて『魔力に頼らない国造り』のモデルケースにしようというわけだ。
これは実質『神の恩恵』の拒否にあたる。プタルカが激怒して出てくれば作戦は成功だ。
もしプタルカが無視したとしたら、この国を足がかりに『魔力に頼らない国造り』活動を広げるだけである。そして次の狙いは宗教国家だ。そこで『ニセ』の神託でも出し、『本物の神』が復活したと触れ回る作戦だ。プタルカは創造主を騙った『邪神』である、とでも煽りまくる。何のことはない。プタルカが惑星アーテラスで行った行為をやり返すだけである。見え透いた作戦だけにプタルカに冷静に対処されると困るが、『エサ』としてはこれ以上の挑発行為は思いつかない。あとは神サマ同士で何とかしてほしいところだ。
といっても、一ヶ所目で躓いている場合ではない。プタルカの勝ち誇った顔が目に浮かぶようで腹が立つ。
しかし、短絡的に謎科学による『洗脳』は使いたくはない翔太郎はジレンマを感じていた。
「気持ちはわからないでもない。誰だって慣れ親しんだ力を失いたいわけがないからな。しかし、何かを得たいなら、何かを失うことも覚悟するべきではないかな?」
翔太郎はロボットに命じて、さらに新たな物品を取り出させた。30センチほどの金属の箱で、上部にあからさまに怪しい真っ赤なボタンが付いている。
「……今度は何だ? 水の魔道具か?」
「いや。これは魔力を消してしまう装置だ」
翔太郎の発言の後、一瞬静かになった室内がざわめく。エンドは引き攣った表情になり、その部下たちはへっぴり腰で剣を向けてきた。
「説明しただろう? 廃村で魔力の使わない生活の実験をしていると。その実験のための装置だ。これを作動させると一定範囲の魔力がなくなる。数を揃えれば村どころか国全体から魔力を奪うことができる。どうだね? これを使えば革命もカンタンだとは思わないかね?」
「そ、そんな物使ったら、俺たちまで魔力枯渇になっちまう……」
「だから協力者には薬を飲んでもらうのだ。今後魔法が使えなくなる代わりに、魔力がなくても普通に生きていける。この国は生まれ変わるのだ。文字通りな」
「も、もし、断ったら……」
「その時は仕方がない。他の、差別意識が少ない協力者を探すことになる。或いは、時間がかかるが、廃村の子供たちを教育し、為政者にするという手もあるな。どちらにしろ、この国から魔力を消し去ることは決定事項だ。賢い選択を勧める」
「あ、悪魔かよ。クソッ、なんてヤツに目を付けられちまったんだ……」
「悪魔とはヒドイな。事前に説明してやってるだけ親切だとは思わんかね?」
「お、親分! どうします? ヤッちまいますか?」
「お、落ち着け、お前ら! もしコイツの言ってることが本当だったら……」
エンドの目はテーブルの上の『魔力除去装置』に釘付けであった。
「脅すような展開になって心苦しいが、信じられないようなら、一度装置を作動させてみるか? もっとスムーズに話し合いがまとまるとよかったんだがな」
翔太郎はジレンマの末、脅迫という手段にシフトした。洗脳よりはマシだと信じたい。
「親分! ハッタリだ! そんな魔道具があるわけねえ!」
「そうだぜ! ヤッちまえ!」
エンドの部下たちは恐怖に耐え切れなくなったのか、翔太郎が装置を作動させるのを阻止しようとしている。ただし、エンドの指示無しに暴走する者がいなかったのは、それなりに統率が取れていたといってもいいのかもしれない。
そしてエンドだが、どうやら決断したようだ。
「やれっ!」
翔太郎がボタンを押す前に取り押さえれば、装置は作動しない。実に一般的な理論だ。
エンドの掛け声で翔太郎一行を取り囲んでいたチンピラたちが一斉に襲い掛かってきた。
翔太郎は心の中でボタンを押す。
「(ポチッとな)」
バタバタと手下たちが倒れていく音が聞こえる中、エンドもまた全身から力が抜けていく感覚を味わっていた。
「ど、どうして……」
その一言を残し、エンドは意識を失うのであった。
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