第83話 魔法は絶対に必要だと思うかい?
「貴公はアレだな、魔法を特別視しているのではないかね? それでは貴公が嫌っている魔法使いと大差ないのではないかね?」
「一緒にするな! あいつらは権力に取り付かれてるだけだ!」
「そうか。権力のことは我々は興味がないのでどうでもいいが、魔法使いがいなくても国が成り立つと言うのなら、魔法がなくても生活はできる、とは思わんかね?」
「それとこれとは別だって言ってるだろうが」
「では、簡単な例を挙げてみよう。諸君も身近なことだから想像してみたまえ。そうだな、貴公たちは毎日パンを食べるだろう? そのパンは魔法で作るのかね? 呪文を唱えるとポンと目の前にパンが現れるような?」
「そんなわけねえだろう……」
「それはよかった。もし『できる』と言われたら困っていたよ。それはそうだろうな。無から、或いは石ころをパンに変えるようなマネができるのは神か神の子だろう(ウチの船の調理器モドキはできるんだよな……あ、神の創った船か)。ではどのようにパンが出来上がるか知っているかね? 農家の人が畑に麦を撒き、精魂込めて育て収穫する。魔法が必要かな? その麦を粉屋が粉にする。その時魔道具を使うかもしれないが、それは高級品になるんじゃないかい? 庶民の口に入るのは、おそらく人力か水車で挽いた粉のはず。その後パン屋が粉を練ってパン窯で焼くのだが、これも魔道具の窯で焼いたパンは高そうだ。庶民用のパンは薪で焼くのだと思うが、どうかな? パン窯に火を点ける時に魔法が使われそうではあるが、それはどうしても魔法でなければならないのか、よく考えてみてほしい」
途中何度かエンドや部下たちに問いかけたが、反論はなかった。
「パンは一例に過ぎない。皆が着ている服、手にしている剣。それらを作るのに、本当に魔法が必要かね? あれば便利かもしれないが、なければ何もできないというほどのものではない。単なる一手段、道具の一つに過ぎないと見るべきだ」
「だ、だが、いきなり魔法が使えなくなったら……」
それでもエンドは抵抗感があるようだ。組織の上に立つものとして主導権を握ろうとしているだけかもしれないが。
「そうの通りだ。いきなりでは混乱が起きよう。そうならないように、我々は魔力に頼らない文明の研究を行っているのだよ。おおよその目処がついたのでこうして出向いて来たというわけだ」
ここでやっと翔太郎が長々と説明して来たことについて理解が及んだのか、エンドは口を閉ざし考え込むようになった。
「魔力に頼らぬ文明。口で説明しても信じられないだろうから、その一端をお目にかけよう。ああ、テーブルの上のモノが邪魔だな。すまないが隣の部屋にでも持っていってくれまいか?」
「……おい、運べ。ちょろまかすんじゃねえぞ。場合によっちゃ叩き返してやるんだからな」
「へ~い……うわ、重っ! 黄金ってこんなに重いのかよ……」
エンドの部下たちは、身なりはチンピラそのものだが、『殺して奪い取ればいい』などと言い出す者はおらず、素直にエンドの指示に従っていた。
10人もいればテーブルの上にあった金塊の山はあっという間に片付けられる。
翔太郎はロボットに指示を出す。
数点のアイテムが片付けられたテーブルの上に並べられた。
『本日ご紹介しますのは……』などと、ストレスの溜まっている翔太郎はシリアスな空気をぶち壊したかったが、寸でのところで思いとどまり、大物ムーブを継続して解説し始める。
「これらは着火の道具だ。魔法、魔力は一切使われていない」
この世界は誰もが魔力を持っていて、簡単な着火の魔法なら誰でも使える。また、少し高価ではあるが、着火用の魔道具も作られている。逆に原始的な着火装置は知られていないようだ。
翔太郎はおもむろに火打石を打ち鳴らした。気分は親分さんを送り出すおかみさんである。
いきなり火花が散ったことでエンドたちは驚いていた。中には剣を向けて来た者もいる。だが、これが着火のデモンストレーションであることを思い出したのか、最悪の状況に至ることはなかったようだ。
「この半透明の堅い石に鋼をぶつけると火花が出る。あとは燃えやすい糸屑などに引火させてだんだんと火を大きくすればいいだけだ」
まず火打石セットを説明した。火打ち金と火打石である。デモンストレーションのため宇宙船で火打ち石の練習はして来たが、何せ現代日本人のこと、一発で着火させることは難しい。ゆえに火花の段階で実演を終えた。
石と鋼はエンドたちに渡してみた。
誰もがカチカチと打ち鳴らしては不思議そうな顔をしている。
「そしてこれが今の原理を利用して作った着火装置だ」
ジャリッと音を立てると火花が飛ぶ。火打石セットよりも火花の量が多く、何よりも一定方向に飛んでいた。
その装置とやらは、言ってみれば大型の100円ライターの上部分そのものだ。回転ヤスリとバネで支えた発火石(火花が出やすい合金)の組み合わせである。当然ガスはない。
大型にしたのは、AIの考察で、この世界の技術レベルでも何とか作れるようにしたためでもある。小型化や大量生産方法についてはこの世界の未来の人類に丸投げでいい。
陶器の皿をかまどに見立て、エンドに用意させた糸屑、紙切れなど、いわゆる火口に着火する。こっちの実演は、大型にした影響もあって一発で成功した。部下たちから感嘆の声があがったが、翔太郎は内心失敗しないか冷や汗を搔いていたのは秘密である。
「さて、他にもある。これは空気を圧縮することによって発熱する原理を、こちらは摩擦熱を利用して火種を作る装置だ。試してみたまえ」
次に紹介したのは、『ファイヤーピストン』と呼ばれる、二重になった筒状の道具、そしてサバイバルでお馴染みの『弓切り式発火装置』である。
エンドたちにやり方を教え試させると、何度か失敗はしたものの、比較的簡単に火種を作り出すことができていた。
「どうだね? 魔法は絶対に必要だと思うかい?」
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