第82話 決して『ハイ論破~』などと自慢できる内容ではない
「どうした? 理解はしたか?」
「ふ、副作用……魔法が使えない……」
エンドは再起動したかに見えて、混乱中のようだ。
「副作用とは言ったが、それは魔法使いからの視点だ。そもそも魔力がなくなった世界のための対処方法だ。魔法が使えなくて当たり前だな。貴公も魔法使いの横暴に耐えかねて革命を起こすのだろう? 安心しろ。これから魔力のない時代が来る。魔力が使えなければ魔法使いも只の人だ」
「ま、魔法が使えないって、明かりの魔法も、種火の魔法も、飲み水の魔法も、どれも使えないのか!?」
「そうだ。一切の魔法が、だ」
「ま、魔道具は!? 魔道具はどうなんだ!?」
「それは使用者の魔力を流して使うタイプなら無理だろう。魔石などを利用するタイプなら、今のところは使えるんじゃないか? といっても、結局は世界から魔力が消えるのだから、魔道具のすべてが使えなくなると思ったほうがいい」
「そんな……それでは民の暮らしが……」
「(ちょいちょい貴族っぽいセリフが出るんだよなあ。俺と同じでキャラ作りで苦労してるのかね? それより、わーさん。思ったより拒否反応がデカイ。シナリオの直しを頼む)……なるほど。貴公はやはり民衆のことを思って革命を志したのだな。やり方は違うが、方向性は我々と同じはず。協力関係を結ぶのに障害はあるまい?」
「じょ、冗談じゃねえ! 魔法使いが威張ってる世の中は御免だが、魔法が使えねえ世の中はもっと御免だ! 出て行け! 誰が協力なんかするか!」
エンドは翔太郎の再度の勧誘に怒り心頭、椅子を蹴飛ばすように立ち上がり吼えた。
今まで静観していたエンドの部下たちも、話し合いはここまでと判断したのか、隠し扉からのみならず、翔太郎が案内されてきた入り口からも侵入してきて翔太郎一行を囲んだ。手にはそれぞれ武器を持ってる。
翔太郎一行は、ナノマシンによる監視で状況の推移がわかっていたし、そもそも見た目ではない実際の戦力比を把握しているので全くといっていいほど動じていない。僅かに翔太郎が冷や汗を搔いたぐらいだ。その後『俺もまだまだだな』と一人反省会するまでがセットである。
「……歓迎会ならうれしいが、送別会だったらまたにしてくれ。まだ話しておきたいことがある」
「こっちは聞きたくもねえよ! 手下たちが暴れださない内にその金塊を持ってさっさと出て行きやがれ!」
「ほう。高潔なところも評価対象だな。だが、子供たちのことはもういいのかね?」
翔太郎のまるで脅迫するようなセリフを聞いてエンドの部下たちがざわりと呻き、何人かが襲いかかろうとした。
それをエンドが手を振って押し留める。だが、それは翔太郎の身を案じてのことではないのはエンドの表情を見ればわかった。
「き、汚えぞ! 人質か!」
「あまり人聞きの悪いことを言わないでくれ。私は疑問に思ったことを聞いたまでだ。それに、交渉ならこの程度は常識の範疇だと思うがね? それに、子供たちの待遇はここより遥かにマシだと教えたはずだが?」
「信じられるか!」
「先ほども言ったはずだ。人は自分の信じたいモノしか見えない。都合のいいことしか信じないのは悪手だぞ? エンド殿、貴公は何故そこまで激高しているのだ?」
「ああ? 当たり前ぇだろうが! あんな話聞かされてよ!」
「あんな話とは、魔法が使えなくなるということかね? だが、それで激高するということは、すなわち貴公が私の話を信じたということではないかね?」
「あ?」
「もし私の話を全く信じないのなら、単なる与太話。笑い飛ばせばいいのではないかね? 逆に、信じているのなら、子供たちが安全に生活していることの何が不安なのかね? 貴公の態度は一貫しておらんぞ?」
「……」
エンドは翔太郎の言い分に思わず黙ってしまったが、翔太郎自身は、自分が適当なことを言っているのがわかっていた。矛盾上等、感情的に何を信じて何を信じないか、いいじゃないか、人間だもの。
エンドが反論できないのは、翔太郎の論理が正しいからではない。ヤクザ者に囲まれても微動だにせず、堂々と議論を吹っかけてくる眼帯をした偉そうな男と、主の危機だと慌ててもおかしくないというのに、これまた微動だにしない付き人たち。たった4人でこの人数に勝てるとでも思っているのか? エンドは疑心暗鬼に陥っている。
つまりはコスプレと大物ムーブの勝利だった。
決して『ハイ論破~』などと自慢できる内容ではない。
それに、翔太郎はマウントを取りたいわけではない。話の主導権を握りたいだけである。似て非なる概念だ。
「確認するのだが、貴公は魔法使いは排除したいが、魔法は使いたいというんだね?」
「あ、当たり前ぇじゃねえか! この国の魔法使いは貴族かそれに阿ってる連中ばかりだ! 民の害にしかならねえ! それと魔法を使えなくなるのは別だろうがよ! 民の暮らしにだって小さな魔法は必要だ! 俺は! 魔法使いどもに民のために魔法を使ってほしいんだよ!」
どうやら魔法使いとはある程度大きな魔法を使える人間のことのようで、一般人でも小さな魔法は使え、それが生活の一部であるらしい。
「ふむ。別に私が故意に魔力を消して魔法を使えなくしようとしているわけではないのだがな。日が昇れば必ず沈み、雨が降ればいつかは晴れる。それらと同じく、魔力もいずれは消える。自然の摂理なのだよ。我々は消えてしまった後のことに備えて活動しているわけなのだが、そもそも、たかが魔法が使えなくなるだけで、そこまで恐がることはないだろう?」
「こ、恐がってなんかねえ! 大体、魔法は『たかが』じゃねえだろうが!」
散々勿体つけておいて『たかが』と魔法を軽視する翔太郎に、エンドは再び吼えるのであった。
翔太郎も『気持ちはわかる』と内心同意していた。
だが、AIには敵わないだろうな、とも思っている。
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