第79話 勘のいい中年はキライだよ
「我々はグループを二手に分けて検証することにした。一つはこの石版の内容が真実か全くのデタラメかということを。もう一つは、仮にこれが真実だとしたら、魔力がなくなったとしたら、どう対策を取るべきかということを、だな」
翔太郎はそもそもデタラメな内容を、いかにも研究者らしく扱っているように演技した。内心では転げまわりたいぐらいである。
「……こんな『天が落ちてくるのを心配する』ようなことを真面目に研究してるのか?」
「確かに一笑に伏す内容ではある。だが、言ったように明確な反論材料はない。さらに、これはまだすべてを教えられないが、遺跡で発見したのは何も石版一つではない。他にも魔力を使わない文明があったことを示唆する遺物が多数見つかったのだ。信憑性も増そうというものだ」
「そうなのか?」
「まだわからん。だが、もし石版の警告を軽んじて何の対策も取らずにいて、魔力が消え去ったとしたらどうなる? 貴公も『魔力枯渇』の苦しみは知っているだろう?」
「当たり前だ。だからこそ信じられん。世界から魔力がなくなる? そんなわけ、あるはずがない」
エンドは『魔力枯渇』と聞いて、嫌そうな顔をしていた。
翔太郎も『魔力枯渇症』については惑星アーテラスで半日講義を受けた程度で、実例はアンドンがミニメカ○ジラに魔力を吸収されて人事不省になっていたが、魔力を完全排除した船内では全く回復しなかったということを知っているだけだ。他の騎士や兵士は通り魔的に魔力を吸収して放置なのだから詳しいデータはない。
だが、AIの検証とエンドの表情から、ここ惑星プタルカでも同じ症状だろうと確信を深めた。まあ、AIは信用できるし、同じプタルカの支配下だったのだから当然と言えば当然だ。
「はず、などと確固たる証拠もなく口にしないのが研究者というものだ。古代からの警告を知らなかったのならともかく、半信半疑であっても既に知ってしまった我々は、その万一が起こったとき対策の一つも取っていなかったとしたら、後悔という言葉だけで済むものではなかろうな」
「……俺にはどうしてそこまでのめり込めるか、わからん。もしこれに書かれていることがウソだったらどうするんだ? それまでの研究とやらがムダってことになるじゃないか?」
「危機意識が高いか低いかの違いだな。『転ばぬ先の杖』というのを聞いたことはあるか? 行商人は護衛を雇うだろう? アレは必ず魔物や盗賊に襲われることがわかっているから雇うのか? 違うだろう? あくまでも万が一に備えてだ。安全対策にかける金銭を、万が一が起こらなかったら無駄だと言ってケチる人間もいるが、往々にしてそういう人間が魔物や盗賊に襲われるのがお約束だ。貴公はどちらのタイプかね? それに、貴公のやろうとしている『革命』、復讐のためだけでなく、本気でこの国をよくしようと考えているのなら、万一革命が成功しても、結局人々の差別意識が変わらず、新たな支配者が生まれるだけに終わるのだとしたら、それこそ無駄ではないのかね?」
「てめえ! 俺のやっていることが無駄だって言ってるのか!」
「何事も考え方次第だと言っているのだ。否定ばかりの人生はつまらないだろう?」
「……ちっ……今は誤魔化されてやる。で? 結局お前たちの研究とやらは俺に何の関係がある? 手伝えって言われても、仲間は研究のけの字も知らん連中だぞ? まさか、魔力枯渇の実験を俺たちでしようってんじゃねえよな?」
「まあ、そういきり立つな。想像逞しいのは結構だが、本題はこれからだ」
「勿体ぶるなって言ってるだろうが! さっさと言いやがれ!」
「わかった、わかった。先ほども言ったとおり、私の担当は、万一魔力が消失した場合の対策だ。そこで、まずは『魔力枯渇症』にかからない薬を作った」
「なんだと!? そんなモノが本当にあったら大騒ぎだ! 特にこの国の魔法使いたちが挙ってほしがるぞ!?」
「いや、魔法使いにとっては、そんなにありがたみのあるものじゃない。むしろ毒だと思われるかもな。もっとも、この薬は魔法使いのために作ったものじゃなくて、魔力が消失した世界のために作ったものだ。要件は満たしている」
「毒?」
「そこはいずれ詳しく説明してやる。続けるぞ? 『魔力枯渇』の件は何とかなった。だが、それだけで人類は魔力のなくなった世界で生き延びることができるだろうか? 今の世の中は魔力に依存しすぎだ。『ステータス』を筆頭に、戦闘も生活も魔力がなければ何もできないんじゃないか? それは魔法使いだけの話じゃない。貴公、魔法や魔道具に頼らず火を点けることができるか?」
「……」
「沈黙は肯定ととるぞ? そういうことだ。我々は魔力に頼らない社会について研究した。幸いなことに、遺跡には魔道具ではない、つまり魔力を使わない道具が多数あったので、それも研究した。しかし、薬や道具は研究室でできるが、人間社会を対象にすると手狭どころではない。よって外に飛び出したわけだ」
「やっぱり研究とやらの実験台になれってことじゃねえかよ。勿体つけやがって」
「大枠ではそれで間違いないが、まあ、最後まで聞いてくれ。始めは当然小規模な、村レベルから実験を開始した。とある廃村に秘密裏に人を集めて、魔力を使わない生活をしてもらっている。これが成功といえる段階に至ったら、次は規模を大きくしての実験だが、そうなると廃村はいくらでもあるが『廃国』などというものは滅多にない。周りの国に併合されて終わりだ。我々のグループはどこかの国の紐付きなどではない。そういう柵が嫌で国を飛び出して研究に専念したいタイプの集まりだ。今回はそれが災いして国に協力を求められないし、内容からいっても逆に犯罪者扱いされかねない。ならばどうするか? 自分たちで『廃国』を作り出せばいい。だが、我々は研究で手一杯だ。とてもじゃないが統治にリソースを振り分ける余裕はない。ならばどうする? やはり協力者が必要だ。しかも、『魔法』に執着しない『支配者』がな」
「……なあ、アンタ。今の話に出てきた『秘密裏に人を集めた』っての、アレは最近ここのスラムからガキどもが消えたことと関係があるのか?」
「……」
「沈黙は肯定、なんだよな?」
翔太郎は一本取られた。
実は、『勘のいい中年はキライだよ』とでも言うべきか迷った結果、ネタが通じないだろうし、キャラに合わないと思って自重しただけだった。
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