第77話 程々にしておけばよかった
翔太郎が自分史を書くとしたら、現在の章は『激動の時代』とでも銘打つべきか。
いや、言葉ではとても言い表せないと悩むだろう。それほど、人間目線で短期間のうちにショッキングな事件が立て続けに起こったのだ。
始まりは、実際は幼少の頃頭を打ったことも一因らしいが、翔太郎から言わせると『癌宣告』に端を発している。
その日のうちに『オヤジ狩り』『異世界召喚』に遭う。ギャップがヒドイし、後にわかったことだが、その前に『宇宙人に攫われてチップを埋め込まれ、何気に隠れた脳腫瘍の治療もしてもらっていた』らしい。
そこで終われば、めでたく勇者として第二の人生が歩めたかもしれないが、ほとんど日を置かず『奴隷落ち』からの『捨て駒』となり、癌宣告以来何度目かの『死の危機』を感じた。
そこで翔太郎の命を救ったのが自称『神』というのも驚きを通り越して呆れるほどだった。そして神アーテラスは翔太郎に取引を求め、本来なら人間が関わることのない神々の世界に首を突っ込むことになったのだ。
ここまで、移動時間を含めても、わずか十日ほどである。『激動』にもほどがあるだろう。
翔太郎にとってメリットといえば、宇宙要塞セットを手に入れたことと、健康体になれたことだ。収支は一見黒字超過だが、それは生き残ったからいえることで、死の恐怖を何度も味わった、精神的苦痛を計算に入れると黒字か赤字か判断に迷う。しかも、将来確実に面倒ごとが付随しているのだ。能天気に『盆と正月とクリスマスが一遍に来た』などと喜んではいられない。
黒字かどうかはともかく、健康体になったのは脳腫瘍の完治も含まれている。これは肉体だけでなく精神にも影響を与えた。内向的でネガティブな思考が前向きでポジティブなものに変わったようだ。大袈裟に言えば『蒙が啓けた!』『エウレカ!』のような感じだ。
だからといって、生き方がいきなり180度変わるわけではない。物心がついてからの30年近い人生経験が枷となっている。特に息苦しくブラック気味な社会人時代の経験がである。
ゆえに翔太郎は、地球という狭い世界から実質解放はされていたが、広く自由な宇宙にはまだ旅立てないでいる状態だ。時間が解決してくれると楽観視はしているが、現在は葛藤中である。
何故長々と翔太郎の『激動の時代』を語っているのかというと、その葛藤ゆえに、何か新しい行動を起こそうとすると、意識して演技しなければ、つい弱小サラリーマン的ムーブになってしまう、ということを翔太郎自身が知っているからである。
だからして、『プタルカ誘き出し作戦』において『シンラ魔導王国』でキーマンに対面しようとしている場面ではがんばって大物ムーブをかましているというわけなのだ。
実は、騒ぎの核となるキーマンに接触する手段は他にも候補があった。偽の『勇者召喚魔法』の魔道書を入手させて、形だけの召喚魔法を行わせ、転送装置で翔太郎を送り込むとか、未発見の先史文明の遺跡を捏造し、偽の古文書で誘導し探索させ、コールドスリープ風に適当なカプセルで寝た振りをしていた古代人(翔太郎)が現代に蘇って、古代の強力なゴーレム(ロボット)を自由自在に操るとか、である。
だが、一手間も二手間もかかる上、翔太郎には勇者や古代人の演技力も求められる。いくらポジティブになっているとはいえ、元々庶民的思考の翔太郎には荷が重いと却下された。
ゆえにストレートにキーマンに突撃訪問して謎の人物を演じることにしたのだ。これなら『秘密があるのはお互い様』と言って都合の悪いことは黙っていればいい。
突然翔太郎に呼びかけられた覗き部屋のエンドが驚きで固まってしまったという実況報告を受けた翔太郎は、さらに声をかけることにした。
「どうした? まだ観察は終わらないのか? では、こちらからプレゼンしよう」
翔太郎はわざとらしく大袈裟にロボットたちに手招きをした。
シナリオどおりなので、言葉にしなくてもロボットたちは行動に出る。
ゴブリンロボが所持していたカバンから金のインゴットをこれでもかと取り出し、テーブルの上に積み重ねていく。どう見てもカバンのサイズよりも量が多い。
いくらでも取り出せるが、これ以上は下手をするとテーブルか床が壊れそうなのでジェスチャーでストップさせた。
「これは挨拶代わりだ。革命の資金の足しにはなるだろう。必要ならいくらでもくれてやるぞ?」
翔太郎は覗き穴に向かってそう告げると、再び身体の向きを元どおりにして無言になる。
そうしてしばらく時間が経ったが、翔太郎は覗き部屋の中のことは逐一知らせられているので笑いを堪えるのに必死で、暇と感じる暇もなかった。
その、覗かれているどころか中継放送されている覗き部屋の中では、キーマンことエンドがうろうろ歩きまわっていた。まるで罠を警戒して目の前の美味しそうなエサに食いつくかどうか迷っている動物のようである。まるで、ではない。正に罠を警戒しているのだ。
『虎穴に入らずんば虎子を得ず』という慣用句がこの世界にあるかどうかは翔太郎は知らないが、エンドはその気になったらしく、覗き部屋に通じる隠し扉が開かれて、エンドが翔太郎の前に現れた。
「始めまして。エドワルト殿。それともエンド殿と呼んだほうがいいかな? 俺のことはタローと呼んでくれ」
「……エンドだ。言っておくが、この部屋は手下に囲ませてある。誰の紹介か知らんが、おかしなマネはするんじゃねえぞ」
エンドは警戒心マックスのようだ。
翔太郎は、ハッタリも程々にしておけばよかったと内心反省するのであった。
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