第74話 ザマァはやってみたいが、根本的な解決には程遠いな
『……わかりました。オーナーの意思に従います。ですが、それですと敵惑星の征圧に時間がかかりますが?』
何とか『洗脳』作戦を取り下げてもらったが、翔太郎には更なる課題が待っている。
「要はプタルカが出てくるまで待てばいいんだ。制圧を急ぐ必要はないだろ? 元々はアーたんが勝ってからの仕事だったんだし、嫌がらせを兼ねてのんびり惑星を改造してもかまわんだろ。あ、病気の子供たちの件は急いでくれな」
『その件であれば、すでに作戦が開始されております』
AIの言葉とともにスクリーンの内容が差し替えられる。
そこにはロボットたちによって治療槽へ放り込まれる子供たちの映像が映し出されていた。子供たちは一切の抵抗を見せていないので、どうやら意識を失わせているらしい。
「……わかってたけど、骨と皮だな……」
翔太郎は異世界モノのラノベやアニメの描写を思い出す。主人公がスラムなどで行き倒れの子供を拾ったりする場面だ。アレは娯楽作品だからか、子供たちは可愛さを保ったままだ。だから主人公も面倒見ようなんて気にもなるのだろう。
だが、今翔太郎が見ているスクリーンの中の子供たちは、そんなかわいらしさなど欠片もみられない。また一つ思い出したのは、ドキュメンタリー番組などで紹介される、地球のある地方の難民の様子だった。
この世界は、勇者召喚で連れてこられたファンタジー世界である。魔法もあるし魔物もいる。なんなら神サマだって出てくる。だが、人が生きている限り、そこは現実世界でもあるのだ。
「……チッ、プタルカを倒そうが倒すまいが、そう簡単には解決できそうにないな……」
翔太郎が思わず舌打ちしてしまったのは、この子供たちの惨状についてだけをいえば、プタルカが意図してこうなっているのではないということがわかっているからである。
プタルカも己の派閥の方針に従い、翔太郎は未だ詳細には理解していないが、意図的に魔物を増やし文明の発展を阻害すると同時に、人類にレベルアップや魔法の恩恵を与えるということをしているだけだ。そのレベルアップした中から人類を超越する者を作り出し、自分たちの更なる存在昇華を果たそうというコンセプトらしいが、その苛烈な方針の中で当然落伍する人間が出てくる。大きく割りを食うのは何の罪もない子供たち、というわけだ。
だからプタルカを排除したところで、いきなり子供の環境がよくなるとは思えない。混乱が起きて弱い子供に更なる皺寄せが行くということも十分に考えられるのだ。
こうなると、やはりAIが『洗脳』を推してきたのもあながち間違っていないのかもしれないと思われてきた。
だが、安易な方法に逃げるわけにはいかないと翔太郎は首を振る。
「わーさん。それぞれの国のデータを出してくれ。もう一度考えてみる」
骨と皮ばかりの子供たちの映像を見続けていると暗い想像しかできなくなりそうなので、翔太郎は作戦を練り直そうとする。
目的はプタルカを誘き出すことだが、望外の力が手に入ったので手段は選びたい放題である。この力をどうするかは翔太郎次第だ。封印して小市民として生きるも良し、最大限に力を使って神や悪魔のように振舞うも良し、だ。それはアーテラスにも言われていた。
だから翔太郎は考える。
幸い、強力な兵器を渡されただけではない。超がいくつも付く高性能AIも一緒だ。心強いことこの上ない味方である。ただ、合理的過ぎて『これが文字通り血も涙もないということか』と思うこともあるが、それはお互いの歩み寄り次第だ。時間が解決してくれると信じている。
「……やはり、こことここの二つからだな」
優秀なAIが既に検討していたことだ。翔太郎が何度資料を見直そうが簡単に覆るわけがない。
「でもなあ……この、いかにも異世界っぽい『ナントカ人種至上主義』の連中もギャフンって言わせたい気持ちもあるんだよな……」
数々のラノベを読み、現実の地球社会に当て嵌めたりして、以前は見て見ぬ振りしていた人間の嫌な部分を改めて考えることができるようになっていた。
具体的に言葉にもなっていないし、そこまで極端でもないが、古今東西『差別』が社会を形成しているといっても過言ではない。支配者と被支配者の構造である。『貴族至上主義』とでもいえばいいのだろうか。類似品として特定宗教の至上主義を挙げてもいいだろう。そちらには深刻な人種差別が絡むので根が深い。
時代が移り、『民主主義』だの『平等』だのと叫ばれるようになったが、要は呼び方が変わっただけである。差し詰め『権力者至上主義』『既得権益者至上主義』というところか。ぶっちゃけて言うと『上級国民至上主義』『お金持ち至上主義』『勝ち組至上主義』だ。
この構造は非常に強固で、例えば平民が貴族になりたいと思っても簡単にはなれないのと同じように、自由競争が建前の現代でも、『持たざる者』が成り上がるのは容易ではない。その上『持てる者』が徹底的に排除しようとしてくる。『成り上がることは自由なのに、何故邪魔をする?』と尋ねれば、きっと『成り上がるのが自由なら、邪魔をするのも自由だ』と答えるのだろう。
中には『1%の努力と99%の運』で入れ替わりを成功させる場合もあるだろうが、構造自体は地球でも何千年と変わっていないのだ。
では、その構造を完全に排除し、一切の差別がなくなったらどうなるのか。
脳の治療はしたが、脳改造まではしていない翔太郎に正確な答えはわからない。しかし、完全に差別のない世界は、ラノベでよく登場する『ディストピア』だろうとは思っている。
理想としては否定もできないが、やるとしたら完全隔離した宇宙の片隅か、それこそ全宇宙すべてを網羅する規模でなければ効果がない。さらに、指導者がAI並みに自己管理できる人間でなければ、地球の共産主義国のように腐敗しまくるだろうことは想像に難くない。
それに、『自由と冒険を愛する男』になりたい翔太郎にとっては『ないわー』という感想しか持てないのだった。
答えを求めるなら、未だ見ぬ『星間連盟』の星々に期待だ。
「うん。ザマァはやってみたいが、根本的な解決には程遠いな。今回は手を出さないでおこう。で、候補の二つ、どっちを先にするかだが……」
翔太郎が見つめるモニターには、二つの国のデータが流れていた。
『神聖タルカ教国』『シンラ魔導王国』
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