第72話 翔太郎なりの哲学、信念、理想
「思いのほか時間がかかったな」
翔太郎の素直な感想だった。
神同士の因縁はともかく、わけのわからない御神託とやらで奴隷にされて殺されそうになったことは恨み骨髄であるプタルカに是非とも一矢報いたいと思っていた翔太郎は、後援者的な神サマであるアーテラスの誘いに乗り、囮として戦力に加わったものの、いざアーテラスのゴーサインで敵本拠地に押っ取り刀で駆けつけてはみたが、その勢いで惑星に乗り込むことにはならなかった。
過保護なAIが調査・検査が終わるまではダメだと許可しなかったためである。宇宙要塞の主人として強制することはできたが、翔太郎もそこそこの大人である。その上何度もプタルカに殺されかけた経験があるため、割と素直に部下の提案に従った。勇敢と無謀、慎重と怯楕の違いはわかる。
無論、翔太郎が自ら惑星に乗り込むなどと我が侭を言わず、宇宙要塞の奥に引き篭もって指示だけ出すのであれば、敵惑星到着とともにロボットたちの殴り込みができたかもしれない。
だが、一度仲間と認識してしまったAI、ロボットたちを使い捨てにするメンタルは翔太郎にはなかった。己の因縁である。自らの手で始末を付けたかったのだ。
効率面でも安全面でも最悪の選択だが、謎科学の超高性能AIは不本意ながらもそれを良しとした。勝算はあるからである。ただし、念入りな準備は必要だった。それが惑星の調査・検査なのである。
AIはじっくりと準備を進める。敵側の神も味方の神も何の反応も見せないことに翔太郎は不安を感じたが、AIにとってはどうでもいいことである。AIらしく予定をこなしていくだけだ。
敵惑星上での宇宙要塞産の動物を使った治験が完了したのはアーテラスからのゴーサインが出てから約一月後だった。何しろ惑星中から未知の細菌・ウイルス・寄生虫を仮拠点に集めての実験だ。いくら謎科学でも一朝一夕にはいかない。むしろ地球であったら100年かかっても早いといわれるだろう。
その後その実験結果をもとにバージョンアップされた治療槽に翔太郎は放り込まれることになった。翔太郎の身体もバージョンアップされるのである。といっても翔太郎の我が侭で病気耐性に関してと左腕の義手だけだが。
治療槽から出た翔太郎は、今度こそはとばかりに号令をかける。
「わーさん、うーさん、船長、それにロボットのみんな! プタルカをギャフンと言わせてやろうか!」
『「「「はい。オーナーの思うように」」」』
流石は高性能AI。返事がきれいに揃っている。
そして既に準備が完了していた惑星侵攻が始まる。
と同時に、翔太郎が気にしていた作戦も開始される。
「……俺が手を拱いていた間に死んでしまった子供も大勢いたんだよな……」
翔太郎の健康が保証されるまで宇宙要塞に未知の病原体を持ち込むわけにはいかない。そして中途半端に現地で治療するわけにもいかず、ストリートチルドレン救済計画は実行に移されないままでいた。
その間、翔太郎はモニターで絶えず上がってくるデータを見ることしかできない。AIの気遣いなのか、画像は見せられなかったが、ナノマシンが捕捉していた子供の人口数値が変動しているのがわかるのだ。数値が減るということは死亡したということである。
『オーナー。僭越ながら申し上げます。AIの私が言っても奇妙に思われるでしょうが、それは運命だったのでしょう』
「……運命か……確かに人間は必ず死ぬな。だが、それでも助けられるはずの命が失われるのは心が痛む。いや、わかってるさ。もらい物の力だってことも、その力が凄そうに見えても宇宙の広さに比べればちっぽけなものだってこともな。遥か過去から理不尽な目に遭い死んでいく人間は大勢いたはずだ。遥か未来までそれは変わらないだろうよ。俺がもらい物の力で助けられるのはその長い時間の中のほんの一瞬で、狭い世界の中でしかない。神どもも人間一人一人を助けようなんてこれっぽっちも考えちゃいないしな。俺が命を永らえたのは神の慈悲でもなんでもない。お互いの利害が一致しただけだ。助けてもらえなかった人間からズルいと言われても仕方ないぐらいの幸運だった。確かにチートだろうよ。だが、だからこそだ。俺の目の前の理不尽を、偶然にしろ必然にしろ手に入れた力でぶっ飛ばしてやる勝手は許されるだろう?」
翔太郎は、アーテラスたちSF派の影響下にある星間連盟の世界に比べれば文明度の低い世界で生きてきた。しかし、二十数年それなりの経験を積んできた上、長年脳を圧迫していた腫瘍を取り除いてもらって思考がクリアになった後で何度も死を覚悟したことにより、未だ朧げながらも翔太郎なりの哲学、信念、理想というものが形成され始めているのだ。
拙いながらも、ソレを翔太郎は言葉にしていた。
『オーナー。先ほども申し上げましたが、オーナーの思うようになさってください。私たちAI一同は全力でサポートいたします』
「ああ、頼んだぞ。俺はいまだに手に入れた力がどれほどのものかさえわかってないんだ。アーたんは神にも悪魔にもなれるって言ってたが、このまま引き篭もりじゃ宝の持ち腐れだからな。使えるものはドンドン使ってやろう。わーさんたちも積極的にアドバイスしてくれ」
『わかりました。では早速ですが、提案を。本来の任務である悪神プタルカを誘き寄せる手段として敵惑星の全人類を洗脳し強制的に改宗させることをお勧めいたします』
「それ、前にも言ったが、却下で」
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