第71話 パフォーマンス
『実験艦の出現を確認しました。第一級警戒モードに移行します。各員、悪神の襲撃に備えてください』
中型宇宙船が地上へ転送されると同時に警戒警報が発令された。
実はこれ、翔太郎一人に聞かせるためのもので、AI同士であればわざわざ声に出さなくとも常に謎科学技術で通信できているのだ。
何故ここまで大袈裟にするのかといえば、それもやはり翔太郎のためを思ってである。宇宙要塞の統括AIには実際に人間とコミュニケーションをとった経験は創造主であるアーテラスが人間だった時ぐらいしかないが、アーテラス自身が集めた膨大なデータと知識がある。それによると、人間とはストレスに弱いものの、ストレスが全くないのも精神上よろしくないとのこと。要はメリハリが大事なのである。よって適度に緊張させることもオーナーを長生きさせるために必要だと判断したのだ。ぶっちゃけるとイベント扱いである。
そうとは知らない翔太郎は艦長席で固唾を呑んでスクリーンを見つめていた。
脳波心電図はAIがそれとなくモニターしている。警戒態勢は、無論本当にプタルカの襲撃があるかもしれないので水面下では続けっぱなしだが、翔太郎の精神に負荷が掛かり過ぎそうになるまで続けられる予定である。過保護だ。
『……悪神、あるいはそれに類するエネルギーを感知できず。警戒を一段引き下げます。オーナー、惑星上への中型宇宙船転送実験は成功と見てよろしいかと』
実験艦が転送されてしばらく、まるでフリーズしてしまったようなスクリーンの映像を緊張を持って見つめていた翔太郎だったが、流石に飽きてきたところでAIが安全と判断した。
「そ、そうか……しかし、単純に喜んでいいもんだかわからんな。気付かれているのか泳がされているのか、区別が付かん。囮としては早くプタルカ本体に出てきてほしいところだが、罠とか不意打ちが恐い。エサだけ盗られるヘボ釣師の気分だ。俺がエサなんだがな」
『ご安心ください、オーナー。防衛体制は整えてあります。我々が悪神を倒すに至らずとも、少なくとも神々が攻勢に出るまでは持ちこたえることができるでしょう』
「いつの間に……じゃねえな。この数ヶ月そのために準備して来たんだったよな。悪い。弱気になってた。クソッ。これもそれも、みんなプタルカのせいだ。絶対ギャフンて言わせてやる。人間サマを舐めんなよ」
『その意気です、オーナー。ところで、実験開始の指示をお願いしたいのですが』
「あ? ああ、そうだった。よし、わーさん。実験開始だ。早く俺があそこに行けるようにしてくれ。頼んだぞ」
『わかりました。これより地上での各種実験、検査を始めます』
翔太郎の指示により実験が行われる。AI的には念には念を入れてという意味合いしかないが、人間、それも技術レベルが何段階も低いままの翔太郎に納得させるためのパフォーマンスでもあった。
無人島にステルスのまま接岸した実験艦からこれもまたステルス状態の重機が多数送り出され、無人島は開拓されていく。
特殊なフィルターを通したスクリーンならともかく、肉眼で現場を見ていたら、勝手に木々が倒れ、地面が掘り返されている光景を目にしていることだろう。
このおかしな現象が原因でプタルカに見つかっても、それはそれで構わないとAIは判断している。ならば重機をステルス状態にしなくてもいいのではないか、とも考えられるが、それもパフォーマンスだとAIは答えるだろう。誰に対するパフォーマンスなのかは言葉にしないが。
今回の開拓は恒久的な堅牢性は必要ないので、ある程度地盤を強化した後すぐに実験用の施設が建設された。前以って実験艦内部で建造されていた建物なので、謎のトラクタービームで運んで固定するだけだ。ちなみにこの建物もステルス仕様である。
施設内には転移装置がセットしてあり、繋がっているのはスタンドアローンの大型宇宙船だ。プタルカの逆探知対策である。
スタンドアローンといっても、翔太郎の本陣となる宇宙要塞とダイレクトに接続していないという意味で、途中に同じような大型宇宙船が何機も中継基地&罠として配置されている。しかも通信及び転移装置は船体の前後に分けて設置されており、その間の情報及び物体の移動は数キロに及ぶ船内の物理的移動となっている。
これは、仮に通信網や転移装置をプタルカに乗っ取られ、例え神の力で瞬間移動できたとしても、大型宇宙船内を移動する際タイムラグが発生すること間違いなく、謎科学のAIならばその瞬間に察知し通信網並びに転移装置を停止させることができるという寸法だ。
無論、相手は仮にも神であるので、それだけで宇宙船の中に閉じ込めたとは言い難い。すぐに宇宙空間にでも逃げられるだろう。ゆえに、転移装置を停止するだけでなく、プタルカごと宇宙船を一切のエネルギーを通さないバリヤーで囲むのだ。謎科学的結界である。
さらに大型宇宙船が自爆攻撃的に万物崩壊波をプタルカに照射する手筈になっているという。
「……わーさんの時は、まんまと船長が乗っ取られたんだが? わーさんだって魔力のチェックはしてたはずだぞ? それでもダメだったんだ。基本、やり方は変わらんように思えるが、大丈夫なのか?」
自爆攻撃というところで翔太郎は引っかかるものがあった。AIは生物ではなく、バックアップもあり全く同質の物が再現できるとわかっているのにだ。これが理解はできても納得がいかない、という感情なのだろう。素人目線ながらも作戦への不安をもらしてしまう。
『オーナーの不安はもっともです。ですが、コードネーム・わーさんからの情報によりますと、襲撃を許してしまった原因はスペック不足とデータ不足にあると解析されました。悪神プタルカの分体は神を名乗るだけに通常の魔力とは違うようです。今回の作戦では、そのときのデータと、創造主様にいただいたデータを元に、観測装置のスペックを上げております』
「だが、それは向こうも同じだろう? 機械的なセンサーに何か対策しているかもしれない」
『そのために中継船を多数用意いたしました。一つ二つ抜けられることは織り込み済みです。本陣に辿りつくまでに、必ずや発見してみせましょう』
「……考え方がダンジョンみたいだな……すると、俺がラスボス? いや、ラスボスはアーたんだな。俺はダンジョンマスターってところか。なるほど、ダンジョンが階層を増やす理由がわかった気がする……フラグにならないだろうな、これ……」
やはり自分はファンタジー思考が似合ってるな、などと考えながら、惑星上での実験が映し出されているスクリーンをぼんやりと眺める翔太郎であった。
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