第69話 あれはウソだ
「攻勢に出ると言ったか? あれはウソだ!」
『オーナー。誰に向かって説明しているのですか?』
現在翔太郎はまたもや待機中である。
「もちろん神に対してに決まっている。アーたんは当然としてプタルカも実は始めっから俺たちに気付いている上で泳がせているかもしれんからな。手のひらの上というのは実に気に食わんな」
『ステルスには自信があるのですが。それに敵方の戦法である「魔法」も神の力も、結局はエネルギーであることに変わりはありませんから、一方的に覗かれることはありえません』
「……そこまで自信があるのか? 神相手に?」
『はい』
「……そうか……アーたんめ、なんてモノ創ったんだ。ますます自分がちっぽけに思えてくるぜ」
『ご安心ください。オーナーが文字通り所有者ですから』
「そういう問題じゃないんだが……ま、死ぬまでにはわーさんに見合う、器のでっかい男になってみたいものだな。それはともかく、進行状況はどうなってる?」
『はい。ナノマシンの散布は惑星全域に達しております。言語解析は50%を超えました。生態系調査はダンジョンを除き完了しました。惑星固有のウイルスや細菌がオーナーに影響があるかどうかの検査が終了すれば惑星での活動は可能です』
「わかった。それまで開拓しながら待ってるよ」
惑星プタルカの衛星上での実験が終了したあと、勢い込んで敵本星に乗り込もうとした翔太郎だったが、直前である問題が発覚した。
それは言語と未知のウイルス対策である。
当然謎科学の極みであるAIはその問題については気付いていたが、翔太郎が気付いていない、ということまでは気が回らなかったようだ。
このギャップは如何ともしがたい。
翔太郎は宇宙要塞の新米オーナーだし、神々の派閥的には『SF派』だといっても、翔太郎自身はガチのSFではなく、もっとふわっとしたファンタジー的なSFが好みだ。レーザーが精神力で曲がる!? アンドロイドの相棒と冒険!? どこの惑星の住人とも会話が成り立つ!? それがいいじゃないか!
実は上記の翔太郎の好みは半分はクリアしている。『SF派』である星間連盟の勢力圏においてだけだが。
裏を返せば連盟の範囲外では制限があるということだ。
現実はシビアである。
言語、文化、政治、宗教、地理、気候、生物などなど、多方面に渡って一から情報を集めて対策を練らなければならないのだ。
そのために、優秀なAIたちは戦力となる宇宙戦艦を突貫で製造する傍ら情報収集用のナノサイズロボットを無数に作成してあり、現在、兆や京の単位で敵惑星に送り込んでいる。
あとは結果を待つだけだ。
「あー。開拓地に造りたい施設があるんだが、製造所に余裕はあるか? なかったら、うーさんの設備でちょこちょこ造るから気にしなくていいぞ?」
『オーナーの意向が最優先されます。何を創られるのですか?』
「ちょっとした建物だ。いや、場合によっちゃ、千人、万人単位で必要かも」
『それは、要塞内部に他人を収容する、という意味でしょうか?』
「マズイか? 一時的なつもりなんだが……」
『いえ、オーナーの意向が最優先なので、命令には従います。ですが、詳細を教えていただければこちらからもアドバイスできます』
「あー、孤児院的なものを造りたいな、と……」
『孤児院、ですか?』
「ほら、アーたんの惑星じゃ、奴隷落ちイベントとか修行パート、脱出、逃走みたいなハードなイベントはこなしたけど、住民とのふれあいイベントが全然じゃん? まともな知り合いが奴隷仲間のアンドン一人って悲しいだろ? だからこそだよ」
『だからこそ、ですか?』
「そう! 異世界といえば孤児院、孤児院といえば異世界。テンプレだよ、テンプレ」
『オーナー?』
「実体がないのにジト目で見られてる気がするな……いや、まあ、あれだ。わーさん、アーたんとプタルカの戦い、わーさんの予想ではどっちが勝つと思う?」
『敵側に神々の増援があった場合は単なるAIの処理能力を越えますので、敵側の神がプタルカ一体のままだと仮定してお答えします。単なる勝利ということであればお味方の勝率は99%を越えます。しかし、勝利条件が悪神プタルカの完全消滅だとすれば70%ほどでしょうか。神々の包囲からの逃走が前例にありますから』
「まあそうだろうな。でな、アーたん側が勝ったとしたら、この惑星もアーたんのモノになるだろ? 俺に惑星再生なんて依頼して来るんだから」
『はい。そう聞いております』
「でな、そうなると魔力を除去して普通の惑星に戻すってことだろ? そうすると魔法が使えなくなるだけじゃなく、魔物もダンジョンもなくなる。あるか知らんが、魔道具とかも使えなくなるよな。この星の社会、どうなると思う?」
『演算装置にかけるまでもなく、大混乱に陥ると予測できますね』
「な? 地球でいうと、いきなり原油が枯渇したようなもんだ。第三次世界大戦が始まって人類が滅亡しても不思議じゃない。幸いというか、ファンタジー世界じゃ大量破壊兵器もなさそうだし、魔法が使えなきゃ戦争も原始的なのが救いか。どっちにしろ上の人間は戦場に出ないで奴隷や平民を戦わせるんだろうがな。農民まで駆り出したら食糧生産性が落ちるって気付かないほどバカな為政者もいるだろうし、地獄だろうな」
『的を得た推測だと思いますが、孤児院というのはどんな関わりがあるのでしょうか?』
「社会が混乱すれば、弱い人間から順に死んでいく。つまり、保護者のいない、小さな子供だ。為政者がまともなら庇護も受けられるかもしれんが、ファンタジー世界だろうがSF世界だろうが、そんな連中に期待などしていない。この惑星の再生を任されるんだったら、フライングだろうが俺に責任があるってこった。俺は確かに心の強い人間を目指しちゃいるが、子供の死体を目の前にしてウキウキと惑星改造に勤しむのは何か違うと思ってる。俺の精神衛生のためだと思ってくれていい」
『わかりました。孤児を保護するのですね? ウイルス、細菌の解析が終わり、医療関係のデータが揃い次第、その項目も最優先事項に設定します』
「ああ、頼む。地球じゃ1秒に何人の子供が死ぬんだったか……この星は地球よりも人口が少ないといっても、救助が間に合わないヤツもいるだろうな……早く解析が終わってくれよ……」
着々とデータが送られてくるスクリーンを見つめながら、翔太郎はそう呟いた。
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