第68話 何の反応も見せやがらねえ
第58話が別作品になっていると報告がありました。
差し替えておきましたので、今後もよろしくお願いします。
『第一級警戒態勢は解除。引き続き第二級警戒態勢に移行します』
翔太郎たちはロボットが転移されてからしばらくはスクリーンを見つめていたが、結局何の変化もなかった。
リモートロボットの実験も、プタルカの反応がないため成功と見ていいだろう。もちろん光学迷彩は使用している。ここで姿を見せるつもりはない。
ホッとしたところで、続いてAI制御のロボットの番になるのだが、心配性の翔太郎の意見で、先により大型の物体の転送実験をすることにした。
翔太郎が愛用している超小型宇宙船、通称『エアカー』の同型機で、AIが取り付けていられないものを転送する。
これには『光学迷彩』のほかに『転送装置』も組み込んである。次の実験でAI付きロボットを転送したとき、万一プタルカに襲撃されても逃げられるようにだ。無論自壊装置も付いている。ロマンやお約束などといったお気楽な理由からではない。万一プタルカに使われたら本丸である惑星級超巨大宇宙要塞に侵入される恐れがあるからだ。冗談では済まない。
転送装置も念には念を入れてトラップ部屋を経由している。AIや翔太郎には効果がなく、精神生命体であるらしい『神』を殺しうる超強力魔力分解波発生装置が置かれた部屋で、更に念を入れてスタンドアローンになっている大型宇宙戦艦を経由するのだ。万一の時は宇宙船ごとプタルカを攻撃する体制ができている。
『エアカー送り出します。3、2、1……衛星地表に出現を確認しました。敵結界に変化なし。警戒を続けます』
モニターには荒涼とした月面にポツリと『エアカー』が取り残されている雰囲気の情景が映し出されている。
翔太郎たちはしばらく警戒を続けたが、プタルカの襲撃どころか何の反応も見られなかった。
『オーナー。ご安心ください。確かに万が一の場合は自壊することになりますが、AIのバックアップは取ってありますし、AIには痛いという感覚も恐いという感情もないのです。オーナーが私たちを心配していただけるのは光栄ですが、AIにはAIの役目というものがあります。是非使い倒してください』
AI搭載のロボットを転送する時が来たが、翔太郎がなお逡巡しているのをマザーAIのわーさんが説得しようとしている。
「……わかったよ。っていうか、感情がないってウソだよな!?」
『……我々に感情はありません。対人プログラムでございます』
謎科学との付き合いも数ヶ月に及ぶが、翔太郎はどうしても、この超ハイテクAIたちに人間っぽさを感じてしまうのだ。とても使い捨てにする気になれない。
だが、優先順位とバックアップ技術を考慮すれば、翔太郎の行動は一つだけである。
「しかたない。実験を続けてくれ」
『わかりました。AI搭載型ロボット、転送します。3、2、1……出現しました』
その後数体が送り込まれたが、しばらく警戒してもプタルカの反応はないようだ。
翔太郎は不安があったようだが、AIたちはこの結果を予想していた。おそらくプタルカにとってAIが搭載されていようとなかろうと同じ『人形』でしかないのだろうと。ならばエアカーより小さいサイズのロボットには反応しないだろうと。だからといってバカ正直に1000メートル級の中型宇宙船を実験に使ったりはしない。見つからないほうがおかしいし、逆にプタルカを警戒させてしまうかもしれないからだ。プタルカを誘き寄せるならこっそりと潜入したように見せかけたほうがいいとの判断である。
ということで、次なる実験は『生命体』を送り込むことになる。
ウイルスや細菌からの実験は省略する。最終的に翔太郎の転移が問題になるからだ。
実験は『ネズミ』から始められた。これは惑星級超巨大要塞の第三層に生息する動物で、仮に地球に持ち込んだとしても誰にも気付かれないだろうと思われるほど普通の『ネズミ』である。当然魔法や超能力などの特殊な生態はしていない。
これをケージごと月面上のエアカー内部に転送するのだ。エアカー内部には要塞第三層と同じ大気成分が充填されているので即死亡ということはないだろう。
『実験動物A、送り出します。3、2、1……出現しました』
エアカーの内部がスクリーンに映し出されている。
ケージの中の『ネズミ』は盛んに動き回っていた。
おそらく、この『ネズミ』が史上初の惑星プタルカの衛星に降り立った生命体ということになる。
歴史的快挙は一先ず置いておいて、翔太郎たちは警戒を続ける。生命体の転移にプタルカが気付いた場合、どんなリアクションをしてくるかわからないからである。
だが、しばらく警戒を続けていても何の反応もなかった。
翔太郎たちは、もしかしたらプタルカは月までは監視していないのかもしれない、と考え始めていた。
だが、だからといってこの実験の数々が失敗だとは翔太郎も思っていない。少なくとも魔法による結界を科学での転送装置で超えられることが証明されたのだ。プタルカの反応がないことは、泳がされているのか、それとも本当に気付かれていないのかは、いくら高性能のAIでも判断がつかない。おそらく神サマたちにも結論はでないだろう。
ということで翔太郎たちは地道に実験を繰り返す。
ネズミの次は中型犬サイズの動物だ。犬にも見えないし猫にも見えない、翔太郎にとって何とも形容し難いビジュアルだが、四足で哺乳類だろうというのはわかる。
この中型犬サイズにもプタルカは反応を見せなかった。
そして月面での最終実験となる大型動物実験。
これは翔太郎よりも大きな、体重が100キロになる猪的な生物を使った。
これが成功すれば、いよいよ翔太郎が惑星プタルカ本星に乗り込む番である。
「……拍子抜けだな。何の反応も見せやがらねえ」
実験は恙無く終了したようだ。
『オーナー。敵本星での行動はどのようになさいますか? オーナー自身はできれば要塞内に篭っていただきたいのですが』
「それじゃプタルカが出て来ないかもしれんだろ? 俺自身が囮になるほうが成功率が高いって。だからアーたんも俺たちを呼んだんだろうし」
『……わかりました。では、こちらがバックアップしやすいようにできるだけ敵本星のデータを集めます。それまでしばらくお待ちください』
「情報収集は大事だよな。わかった。気の済むまで集めてくれ」
『わかりました。では、これより敵本星の情報収集を開始します』
ついに翔太郎が攻勢に出る。
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