第67話 実験から
『対象隕石は結界通過後も速度及び軌道に目立った変化はありません。衛星の引力、遠心力による影響も予測の範囲内です。今衛星地表に落下しました』
ついに翔太郎による惑星プタルカへの侵攻が始まった。
といっても、最初はできるだけこっそり忍び込みたいので、まずは結界を越える実験からだが。
中型宇宙戦艦・うーさんのブリッジには翔太郎のほかに数体のロボットが集まって、揃って前方のスクリーンを眺めている。
複数に分割されたスクリーンは、それぞれ、現在翔太郎のいる恒星側(地球でいうと金星のポジション)からの望遠映像、惑星プタルカを挟んで反対側(地球でいうと火星のポジション)からの映像、並びに北極、南極方向(距離は十分取ってある)からの映像となっている。
これは、いつの間にかAIが衛星級巨大宇宙要塞えーさん、びーさん、しーさんを送り出していたようで、発見されないように光学迷彩と亜空間通信で対策済みだそうだ。もちろん謎科学の力である。
その映像からは複数の角度で隕石の突入の様子が見て取れたが、衛星の表面に土砂を噴き上げるほどの衝撃を与えたものの、しばらく待ってもプタルカが現れる様子はなかった。
念のため、時間を置いて、何度か隕石落下の実験を繰り返したが、やはり何の反応も見られないようであった。
AIが次に提案して来たのは、転送装置による隕石の空間転移である。
魔法の転移と科学による転送、翔太郎には区別すら不可能だが、プタルカにとってはどうなのか。魔法なら感知しそうなものだが、科学由来ならどうかというコンセプトだ。
もしこれがダメなら、翔太郎には特攻する以外に潜入方法はないということだ。アーテラスに緊急連絡を入れ、プタルカの出現or逃亡に備えてもらうしかない。
AIのカウントで実験が始まる。
映像はとても地味なものだった。
翔太郎はロボットたちに解説してもらわないと、衛星の表面に音も立てず、土煙も上げずに出現した隕石の姿は見分けられなかった。衛星の表面も隕石も似たような色だったので。
この実験も数度、時間間隔と出現場所を変えて繰り返されたが、顕著な反応はなかった。どうやらプタルカの結界は謎科学による転送を阻害することはできないようだ。向こうが逆に翔太郎を誘き寄せようとでもしていなければだが。
その辺は駆け引きになる。腐っても神。翔太郎は毛嫌いしてはいるが決して舐めてかかるつもりはない。負け=死となる確率が高く、この件に関してはAIたちが翔太郎を出撃させまいとするのを過保護とはとてもいえない。
だが、いずれ決着はつけなければならないのは優秀なAIは理解している。であるのでデータ収集に励んでいるのだ。
『次は隕石に代えて、人工物の転送で反応を見ます』
人工物、例えば宇宙船やロボット、は直接結界を越えさせる実験は満場一致で却下された。自然物の隕石ならともかく、さすがに宇宙船の侵入を見逃すプタルカだとは思えない。結界に接触する物体を瞬時に感知してそれが何か分析する『魔法』があってもおかしくないのだ。すべてわかって見逃す可能性もないことはないが、危険は冒さないことに越したことはない。
だが、科学による『転送』は魔法で感知できるのか。それは予想できない。結界表面にだけではなく、結界内部すべてを感知する魔法があるとしたら翔太郎たちの行動は筒抜けだ。逆に、翔太郎を虫けら扱いしていたプタルカのことだ、すでに存在すら覚えていないかもしれない。そんな虫けら相手の対策を取っていないという可能性もある。五分五分だ。ゆえに実験あるのみなのだ。
『まずは隕石にナノマシーンを付着させ隕石ごと転送してみます。ナノマシーンには各種センサーのほか、自壊装置も組み込んでありますので、万一捕獲された場合もこちらの情報が流れる可能性はないはずです』
AIの説明のあと翔太郎が了承し、実験が行われた。
やはり、先の実験と同じく衛星表面は翔太郎の目では変化が見られない。
だが、わかりやすい変化がスクリーン自体にあった。
『実験は成功です。この画像はナノマシーンからの映像です。このほかに衛星表面の様々なデータが送られてきております。後ほど解析してご報告します』
そういうことらしい。
AIの追加の説明によると、ナノマシーン――翔太郎はフィクション作品ではよく見聞きしていたが実態は知らない――には通常のロボットたちとほぼ同じ機能が組み込まれていて、最大の目玉は『超超小型魔力吸収装置』と『亜空間通信装置』であり、おそらく魔法による探査は通じないと考えられている。
「普通のロボットじゃん! スゲーな、どうやって作ったんだ?」
肉眼では見えないので拡大してナノマシーンの外見を見せてもらったときの翔太郎の感想である。
翔太郎は、ナノマシーンといえばウイルスがメカっぽくなったり、多脚の昆虫型を想像していたのだが、謎科学のナノマシーンは完全に人型だった。どんな形状もOKといわれれば確かにそうだし、汎用なら人型が便利だからともいわれれば理解もできる。ただロマン成分が足りないと感じただけだ。人型ロボットもロマンだったはずだが、慣れてしまったのだろうか。
そしてナノマシーンの製作過程にも興味を持つ。小さなものを作るのは案外と高い技術を必要とするのだ。日本のTVではその手の特番もあるほどだ。
翔太郎は小説などから製作方法を想像する。まず人間が半分の大きさの工作専用ロボットを作り、そのロボットがその半分の大きさのロボットを作る。これを繰り返せば2のn乗分の1サイズのロボットが理論上際限なくできるはずだ。
AIの答えは、無情にも、『3Dプリンターで一括製造』というものだったが。
なんでも、強度の問題で材料の選別には時間をかけたが、製作自体は専用の装置があるということらしかった。素材を投入しデータ入力、後はボタンを押せば無限にロボットが出てくるというわけだ。
それを聞いた翔太郎は『……さすがだな……』とスンとした表情になったのだった。
翔太郎たちは何も無駄なおしゃべりをしていたわけではない。その間にもナノマシーンたちは衛星地表で様々な実験を行っていた。重力制御による飛行、魔力および物質崩壊の実践とエネルギー吸収など、これから惑星プタルカで必ず行うことになる機能の確認だ。
その機能を行使した場合プタルカに感知されないか、それが最大の問題だ。
幸いといっていいのか、それとも肩透しされた感じなのか、プタルカからの反応は全く見られない。
『次は転送する物体のサイズを大きくしてみます』
実験は続く。ウイルスサイズのナノマシーンだったからプタルカが気付かなかった可能性もある。だが、人間サイズだったら?
翔太郎が惑星プタルカで行動するなら避けて通れない問題だ。
AIは実験用に一体のロボットを用意する。
翔太郎の、『AIはバックアップがあるからといっても使い捨てにしたくない』という意見を取り入れてリモートコントロール専用のロボットを転送することにした。
しかし、AI制御のロボットによる実験はいずれにしろ行わなければならないことも翔太郎に伝え、了承も得た。じゃあ俺自身も実験しなければならないな、という意見には全AIが反対して、渋々引き下がらせたが。
『転送成功しました。悪神の襲撃に備えてください』
スクリーンは二分割され、通常視覚用は何の変化もないが、特殊センサー用のスクリーンにはハッキリとロボットが衛星地表に降り立った映像が映し出されていた。
さて、実験の結果は?
【作者からのお願い】
「面白かった」「続きが読みたい」と思われた方は下記にある【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。




