第66話 第一回プタルカをぶっ飛ばそうぜ会議
「第一回! プタルカをぶっ飛ばそうぜ会議~! ハイ、拍手、拍手」
翔太郎はノリでそんなことを言い始めた。『ドンドンパフパフ』などと言わなかったことは空気を読んだのか、それとも自分のキャラに合わないと思ったのか。ここにはAIしかいないのでどちらにしても受け入れてくれるだろう。拍手してくれたのはロボット形態の船長、ゴブさん、メイコの三人だけだったが。
翔太郎は若干気まずげに艦長席に座りなおす。会議といってもわざわざ会議室に移動する必要はない。時代はリモートだ、と言いたいわけではないが、AI同士瞬時に意思疎通ができて、しかも翔太郎の脳に埋め込まれているチップを経由すれば翔太郎もどこにいてもAIとの会話ができるからである。
実際はそんな理屈よりもさっさと方針を決めたかっただけだったりするが、それはさておき、会議は真面目に行うようだ。
「わーさん。アーたんからは細かい指示は出てないのか?」
『はい。大半は悪神に対する愚痴ですが、姿を現さないことに業を煮やし、オーナーに先陣を切ってもらって悪神の出方を見る、そのようにしか読み取れませんでした』
「囮ってのは間違いなさそうだな。だけど、それならいっそのこと、アーたんたちが突撃すればいい話じゃないのか? 派閥の神サマたちを集めてるんだろ?」
『それですと、悪神は逃げに徹する可能性が高いのです。事実一度逃げられていますので』
「ああ、そのせいで俺は待機中、みたいなことになってるんだよな。しっかりしてほしいよな、SF派の神サマたちもよ。天網恢恢じゃないのか?」
天網恢恢、疎にして漏らさず。天の網は穴だらけに見えて、実際はどんな小さな犯罪も見逃さないという例えなのだが、人間相手ならともかく、神同士ではザルのままのようだ。
『僭越ですが、我が創造主様も色々と手は打っておられるようです。敵派閥に根回しをして今回の件で全面戦争にならないようにと。ここで下手を打って再び悪神に逃げられ、敵対派閥の神を強引に巻き込んだりすることになると、宇宙そのものがヤバイです』
「……わーさんの口から『ヤバイ』とか聞くと本当にヤバイ気がしてくる……わかった、囮でも何でもやってやろうじゃねえか。だけど、俺相手はともかく、アーたんたちが出てきたらやっぱり逃げ出すんじゃないか? ああ、そこら辺もプタルカが逃げ出さないように作戦考えろってことか。ったく、いくら派閥のスタンスだからって、人間サマに期待しすぎじゃないか?」
『オーナー。我々も全力を出しますので』
主幹AIがそう宣言すると、リアクションのできるロボットたちは皆頷いた。
「ああ。頼もしいな。よし、方針は決まったな。じゃあ、次は具体的な作戦なんだが、俺の頭じゃ今んところ二つの策しか思いつかない。わーさんでドーンと突っ込んで結界をぶっ壊すか、惑星に忍び込んでコソコソ魔力を消して回るかの二つだ。どう思う?」
『オーナーの安全を考えれば当然前者を選ぶべきなのでしょうが、それですと悪神が姿を現すかどうか……』
「ああ、そうか。それだとアーたんたちが突っ込んで行くのと変わらない結果になるのか。じゃあ、忍び込むか?」
『それしかないでしょう。ですが安全のためオーナーには要塞内部にいてください。作業はロボットが行います』
「わーさん、過保護が過ぎるぞ。そりゃ一人で惑星全部の魔力を除去なんかできっこないからロボットたちの手は借りるけどさ、俺が出張らない手はない。何てったって囮だからな」
『ですが危険です』
「危険は承知の上だ。何も一人っきりになるわけじゃない。ちゃんと船長たちに護衛してもらうさ。今は乗っ取りの対策はしてるんだろ?」
『はい。AI自体にも機体にも何重にもプロテクトをかけております。分体レベルでは手も足も出ないとは自負しておりますが……』
「プタルカ本体が隠れてるんなら俺は堂々とアイツの縄張りを荒らしてやるさ。罠だと思って引き篭もってるならヤツの魔力を根こそぎ奪ってやるし、堪らず本体が出て来たらこっちの思うツボだろ? ま、アーたんたちと連携が取れてるのが前提だけどな。俺の心配するならソッチを気にしてくれよ。わーさんからアーたんに連絡は取れるのか?」
『はい。いいえ、双方向の通信回線は確立しておりませんが、今回の作戦においていくつかの暗号コードはいただいておりますので、それを全周囲に発信すれば創造主様たちが動く手筈になっております』
「へえ。ちゃんと考えてるんだな。しかし、それって『狼煙』みたいなもんだよな? 神サマのくせに、えらく原始的じゃね? そこまで人間との接触を避けてんのか? いくら派閥のスタンスだからって、それでタイミングを外したらどうするんだ? また逃げられて今度は宇宙大戦争なんてことになったら目も当てられないぞ?」
『そこは神々たちも対策していると信じるしかないかと……』
「そこで神頼みか……信じる者は救われるって、シャレにもならんな。わーさん的に勝率は?」
『データ不足の現在では、悪神本体が姿を現したときの勝率は89%、本体が姿を現さないまま逃亡される可能性が50%です』
「戦力的には勝ってるけど、逃げられる心配の方が強いってことか。50ってのはどうなるかわからんってことだろ?」
『申し訳ありません。データ不足ですので』
「ああ、それはしょうがないさ。プタルカを誘き寄せるためにもデータ収集しないとな。これでますます突撃かますわけにはいかなくなったな。わーさん、プタルカに気付かれないように結界を抜けて進入できそうか?」
『慎重に実験を行う必要がありますが、転送機能が通用する可能性が高いと思われます』
「マジ? 結界を破るの結構苦労したんだけどな。うーさんのエネルギーほとんど使ったし」
『打ち消すのではなく、通過するだけです。おそらくですが、あの結界には穴があると考えられます』
「どういうこと?」
『あの結界は完全に空間を遮断しているのでも、次元をずらして亜空間になっているわけでもないと思われます。効果としては『光化学迷彩』と同じ原理だと推測します。そうでなければ恒星の光だけでなく重力の影響も遮断してしまうことになり、未だに公転軌道上にあることと矛盾します。魔法に関してはデータ不足のため断言はできませんが』
「あー、アレね。こっちからは向こうが見えるけど、向こうからはこっちが見えないってヤツ。プタルカもさすがに惑星ごと引越しはできないみたいだな。いや、しないだけ? 見つからない自信がある? それとも見つかっても負けるとは思ってないのか? ま、その辺はアーたんが考えることだな。じゃあ、わーさん。実験とやら、よろしく」
『はい。では、衛星の裏側に隕石が落として反応を見たいと思いますが、よろしいでしょうか』
「すべて任せる」
『はい。自然な落下に見せかけるため遠距離からの発射になります。到達までしばらくお待ちください』
翔太郎はAIに言われたとおり人工隕石の落下を待った。
もちろん待っている間にどうやってプタルカを誘き出すかについて話し合ったりもしたが。
『オーナー。まもなく隕石が衛星に到達します。スクリーンをご覧ください』
小1時間も経った頃、ようやく最初の実験が始まったようだ。
最悪、これでプタルカが飛んでくるかと思うと身が引き締まる思いのする翔太郎だった。なにしろ一度直接殺されかけたのだから。
『結界に接触するまでおよそ10秒前。8、7、6、5、4、3、2、1……結界通過しました』
最早後戻りはできない。果たしてプタルカは出てくるのか。
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