第65話 ギャフンと言わせてやるぞ
「わーさん、今戻ってきた。通常空間に出てもいいぞ……あ、出た瞬間、プタルカにバレて襲われたりしないよな?」
中型宇宙船うーさんのメインブリッジ艦長席に腰掛けると、間違いなくモニターしているはずの統括AI・わーさんに声をかける。
『出現地点は敵本拠地惑星より恒星に近い惑星軌道上に設定しております。敵惑星からは恒星の光に隠れて肉眼では見えないはずです。そして、仮に悪神プタルカに発見され、攻撃されたとしたら、それこそ創造主様の目論見どおりかと』
「ああ、そうだったな。最終的に見つかるのが囮の仕事だな。心の準備ぐらいはさせてほしいが……ま、わかった。予定通り通常空間に出てくれ」
『了解しました。惑星級超巨大宇宙要塞・わーさん、通常空間に出ます……出ました。スクリーン正面に敵本拠地惑星、仮称・惑星プタルカが見えるはずです』
「え? どこ?」
スクリーンには星空が広がるばかりであった。
「わーさん、拡大してもらわないと人間の俺じゃ見えないんだが……」
SF派の神・アーテラスに依頼されたプタルカ討伐への協力。囮役としての参戦だが、アーテラスから開戦の連絡をもらってから10分と経たないうちに敵本拠地付近までやってきた。
すぐに出陣の命令を出したのは確かに翔太郎なのだが、それでも早過ぎないかと納得が行かない様子である。心の準備がー、と言いつつも亜空間から通常空間に移動する指示を出した。もしプタルカに行動を読まれていたら即戦闘となっても不思議ではない。
幸い、神といっても全知全能ではないので、翔太郎の乗った宇宙要塞が出現しても攻撃はないようだった。
ホッとしながら、翔太郎はAIが映し出したスクリーンを見る。
AIによると、プタルカの惑星が映っているらしい。
しかし、どこをどう見ても惑星、翔太郎の勝手なイメージの地球のような星は影も形もなかった。
そしてハタと思いつく。
内径軌道というからには、まさか月ほど近いわけではあるまい。地球と金星の関係に近いのであればどちらからも数ある星の一つにしか見えなくて当然だ。
そう考えて望遠の拡大を頼んだ。
するとAIから思いもよらぬ答えが。
『申しわけありません。すでに最大望遠で、本来ならばスクリーン中央に見えているはずなのですが、どうやらオーナーの報告にあった「結界」が張られているらしく、可視光線の波長では姿を捉えることはできませんでした。ただちに調整します』
「ほう? 結界ね?」
翔太郎は惑星アーテラスのことを思い出していた。
プタルカが乗っ取った後結界を張ってSF派の神たちの目を誤魔化すこと千年。よくバレなかったと思うと同時に、たった2ヶ月でよく本拠地を発見できたなと感心する。どちらも腐っても神というところだろうか。
そのことをAIに何となく聞いてみると、『あるとわかって探すなら難しくはない』とのことだった。なるほどと納得しつつ、今度はどうやって結界を突破しようか考えた。
今度も、いってみれば囮役である。人知れず進入し気付かれないように少しずつ魔素を消滅させたとしてもそのうち気付かれる。それならいっそ、宇宙要塞のスペックにモノを言わせていきなり結界をブチ破る、という手も使えるだろう。激怒したプタルカが出てくれば儲けモノだ。
だが、その方法は翔太郎が矢面に立つことになってしまう。アーテラスたちが迅速に救援に来てくれればいいが、相手は神の時間感覚を持っている。神の『まだ間に合う』は人間にとって『もう手遅れ』かもしれない。神々との綿密なブリーフィングなど期待できない。メッセージ一本あっただけでも御の字だ。これも『神託』だったのかと苦笑する翔太郎。神々しさなど欠片もないからだ。
「お? これがプタルカの惑星か……地球そっくりだな……」
翔太郎が突撃の方法を考えていると、カメラの調整が終わったのかスクリーンに青く輝く惑星が映し出された。
ちなみに翔太郎は、惑星といえば、写真で地球を含む太陽系の惑星と、さっきまで隠れ潜んでいた木星似のガス惑星しか見たことがなかった。惑星アーテラスは脱出に必至だったので全く印象になく、今回の惑星プタルカは興味深かった。
AIの説明によると、生物の自然発生と繁栄には一定面積の『海』が必要で、海水自体に色が着いていない限り可視光線の反射で青く見えるのが当然であり、人類が生存している惑星の大部分が『地球』に酷似しているそうだ。逆にいうと『地球』はオーソドックスな惑星であり、惑星プタルカもまたオーソドックスのようだ。
オーソドックスといえば、衛星の有無、つまり月も重要だとAIは説明する。翔太郎にはよくわからなかったが、惑星の自転速度にブレーキがかかって、生命の維持・発展に適したものになるとか。
つまりはこの惑星プタルカにも月があるということである。
「あの月も結界がかかってるのか?」
『はい。惑星だけ隠蔽しても意味はありませんから』
「そりゃそうか。しかし、それだとかなりデッカい結界にならないか? エネルギーの無駄じゃね?」
『詳しい結界の調査はこれからですが、どうやら惑星と衛星は個別の結界が張られているようです』
「ふーん……あれ? それだと、あの惑星にいる人たちからも月は見えなくなってるんじゃ?」
『おそらくは』
「それって、もともと見えない仕様だったのかね? それとも今回アーたんに逃げられて慌てて隠したのかな?」
『調査不足のため回答不能です。しばらくお待ちください』
「いや、それよりも突入方法を検討しよう。アーたんから何か指示はあるか? メッセージが1時間もあるんだから、さぞかし綿密な計画を立ててるんだよな?」
翔太郎は全く期待せずに確認した。
『申しわけありません。創造主様からは敵本拠地の座標と突入のGOサインがあっただけで、あとは……』
「わかった。みなまで言うな。どうせこっちで考えろってところだろ」
翔太郎とアーテラスの付き合いは短い。直接? 話したのは僅か2回だけ。あとはAIを通じての指示だった。それも何ともアバウトな指示である。
そもそも、アーテラスの派閥、SF派は人類に干渉しないのが鉄則である。アーテラスもそのスタンスを貫いているのだろう。ただ、プタルカに実質封印状態にされていたのはイレギュラーで、翔太郎に契約を持ちかけたのは苦肉の策なのだろう。名目は遺産の継承。これがSF派のレギュレーション違反になるかどうかは、正に神のみぞ知る、だ。アーテラスがどうなろうと翔太郎にとって知ったこっちゃない、であり、火の粉が飛んでこないことを祈るのみだ。当然祈る相手はアーテラスではなく、どこかにいるかもしれない、アーテラスたちが捜し求めている『大いなる存在』『本物の全知全能の神』に対してだ。
それはともかく、アーテラスが最大の危機を脱出した後は、プタルカを討伐するなり捕獲するなりすればSF派のスタンスどおり翔太郎への干渉はなくなるはずだった。だが、プタルカに逃げられるというイレギュラーが発生した。これで翔太郎は微妙に関わりを残してしまったわけだ。何しろ最初の契約が『プタルカを殺す』なのだから。人類への不干渉を理由に契約を無視するのも神としてどうなのかとでも考えたのだろう。何故か追加で依頼が来た。追加というより最初の依頼の継続だ。これはプタルカが存在し続ける限り終わらないかもしれない。
もちろん、どちらからでも契約を破棄して不干渉のスタンスに戻ることはできるだろう。
だが、翔太郎も男だ。一度始めたことは最後までやり遂げたい。たとえこの身がどうなろうともだ。
「よし。わーさん、うーさん、船長、ゴブさん。作戦会議だ。プタルカにギャフンと言わせてやるぞ」
翔太郎は少しずつ成長している。
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