第64話 わーさん、出撃
『オーナー。創造主様より連絡がございます』
それは翔太郎が正式に『惑星級超巨大宇宙要塞』の所有者になってから2ヶ月余り過ぎた頃のことであった。
その日も翔太郎は開拓に精を出していた。といっても汗水流しての肉体労働ではなく、現地に赴きAIに要望を伝えて、ロボットたちが働くのを眺めているだけである。
一応AIたちには一緒に働きたいと希望を出してみたのだが、家庭菜園以外はことごとく却下されたので仕方なく監督官みたいなことをしている。AIたちが完璧すぎて口を出す余地もないが。
そろそろ見ているだけというのにも飽きてきた頃のことだっただけに、翔太郎の喜びも大きい。
さっそく工事用臨時駐機場に泊めてあった小型エアカーに戻り、アーテラスの連絡とやらを聞くことにする。ロボットのAI経由でも聞けないことはないが、雰囲気というものがあるし、映像を伴う場合、設備のスペックが高い方が何かと便利だ。
それに、直接アーテラスが話しかけてくるのは、今まで二回あったが、どちらも翔太郎が眠っている状態だったので、今回もそうなら、せめてソファーぐらいは必要だと思ったからだ。
「わーさん、連絡って、本人? それともメッセージ?」
『メッセージです』
エアカーの、まるで応接室のような座席に座り、翔太郎は空中に話しかけた。
さすがにもう慣れたが、即時返答がなければ痛い人である。
「そのメッセージは長いのか?」
『およそ1時間です』
翔太郎は以前のアーテラスからの、何故かリアクション対応可能なメッセージを思い出した。そこを突っ込むと『神だから』で話が終わってしまうので、聞くだけで疲れそうだ。
「……じゃあ、わーさんが聞いて、要点だけ教えてくれ」
『了解しました。要約しますと、オーナーは先行してプタルカの惑星に侵入し、魔素の除去を開始してほしいそうです』
「……そんなことしたらプタルカのいい標的じゃないか? ひょっとして、どころじゃなくて、俺に囮になれってか?」
『はい。どうやらそのようです。迎撃の準備は出来ているので恐れることなく、遠慮なくやってほしいそうです』
「遠慮なくねえ……まあ、プタルカのヤツはブチのめしてやらないと気が済まないし、アーたんの依頼も引き受けてしまってるからな。いわれたとおりにはするさ。だがな、それでプタルカは出てくると思うか? これってアレだろ? アータンたち派閥の神サマが探してもプタルカの本体が見つからないから俺に囮になれって言ってるんじゃないか? プタルカも腐っても神だから、俺でも予想できる策なんてバレバレだろうしなあ。またぞろ『ムシケラごとき人間を相手にするのには分体で十分だ』とか言うだろうし、そもそも俺たちで分体をヤレるか? ほら、うーさんが空間に閉じ込められた大きい方の分体をさ。わーさん、そこんトコ、どうよ?」
『ご安心ください。中型宇宙戦艦一艘では不可能でしたが、今回は全戦力を投入しますので、計算上は悪神プタルカ本体であっても互角に戦えます。少なくとも創造主様の参戦まで時間を稼ぐのには十分だと思われます』
「……わかった。どちらにしろ行くことは決定だ。わーさんがそう言ってくれれば鬼に金棒だよ。よし! アーたんが痺れを切らしても困るからな。さっさと出撃だ。わーさん、すぐに出られるか?」
『いつでも出撃は可能です。あとはオーナーのご命令があれば』
「相変わらず優秀だな。じゃあ、すぐに出撃だ」
『了解しました。惑星級超巨大宇宙要塞、コードネーム・わーさん、出撃します……ただいま亜空間を航行中です。目標地点到達まで連盟標準時間で残り5分40秒……』
「は? 5分? 早いな、おい!」
出撃が決まり、これから要塞の司令室のようなところに移動して、ロケットの打ち上げのような手順を踏んで宇宙に出るんだろうな、と翔太郎は考えていた。アニメからの知識もそうだったし、事実惑星アーテラスでの宇宙船発進時や惑星脱出時はブリッヂでカウントダウンを聞いた。
だが、翔太郎の耳に聞こえてきたAIからの報告はとんでもないものだった。
既に亜空間航行中? しかも、あと5分で到着? 驚くよりほかにない。
『敵本拠地惑星の座標はすでに創造主様より知らされておりますので』
「そういう問題なのか? もっと、こう……」
翔太郎が今いるところは、開拓地の飯場のようなところ、しかもエアカーの内部はコックピットらしさも戦艦の艦橋らしさもない、ちょっとゴージャスな応接室感がある。場違いじゃなかろうか?
それはまだしも、どこにあるかは知らないが、他所の惑星に移動するのに5分はないだろうと呆れている。翔太郎が惑星アーテラスから宇宙要塞のあるこの星系にやってくるのにだって苦労したのだ。最後は食べるものさえエネルギーに変えて飢え死にも覚悟したほどである。それが5分とは。
『出撃手順はオーナーの意向どおり時間優先のため省略しました。やり直しますか? それとも、移動時間が短いことに疑念がお有りでしょうか? おそらく中型宇宙船と比較しているのでしょうが、こればかりはエネルギーの保有量とスペックの差としかいえませんが』
優秀なAIは翔太郎の考えなどお見通しであるようだ。
謎科学の存在自体には理解し始めている翔太郎だったが、価値観はまだ庶民レベルを抜け出せないようである。つまり、今更謎技術を否定したりはしないが、スケールの大きさに度肝を抜かれっぱなしだ、ということだ。
これでは目指すべき『鋼の精神と肉体を持った宇宙海賊』には到底なれないだろう。前途多難なことだ。
「わかった、わかった。このままでいい。てゆうか、もう到着するんじゃないか?」
『はい。そうですね。まもなく到着します。残り10秒。カウントダウン始めます。8、7、6……』
翔太郎がウダウダ言っているうちに5分はあっという間に過ぎた。
そして、優秀なAIは、必要もないのにカウントダウンを始める。気遣いがうれしいやら情けないやらの翔太郎であった。
『3、2、1……目標地点に到着しました』
どうやら着いたらしい。スクリーンが展開しているわけでも、座っているソファーが振動したわけでもないので実感が全くないが。
その件に関しても優秀なAIが説明してくれる。
『敵本拠地の星系に到着しましたが、現在はまだ亜空間に留まっている状態です。通常空間に出現しますか?』
「あー。それは後で。とりあえず、ここじゃなんだから、うーさんのブリッジに移動していいか?」
『はい。オーナーのご自由に』
「よし。じゃあ船長、うーさんのところへ帰ろう」
「はい。わかりました」
翔太郎はお付のロボットに声をかける。すっかり体制が固まった三人、メイドロボのメイコと船長ロボ、ゴブリンロボだ。
ここ2ヶ月のルーティーンとして、朝崖上のマイホームから近くに停泊している中型宇宙船うーさんに出勤し、そこで第三層の開拓計画を立てたり修正したりして、その日の予定を決め、エアカーで現場に向かう。そしてマイホームの地点が夜になると戻ってきてうーさんに開拓状況を報告する、という毎日だった。
実は、こんなことはマイホームから一歩も出ることなくモニターを通じてAIたちに命じれば済むことなのだが、よく言えば行動派、悪く言っても庶民的、な翔太郎は身体を動かしていないと不安になるタイプなのだ。
名目上は待機中であるが、宇宙要塞内部にいる限りどこにいても同じことなのでAIも翔太郎の自由にさせているフシがある。AIが偉いのか、それとも過保護なのか、意見の分かれるところだろう。
それはともかく、翔太郎の乗ったエアカーはルーティーンどおり中型宇宙船うーさんに戻ってきた。
そして艦内の転移装置を使ってメインブリッジに移動する。
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