第63話 開拓
翔太郎が惑星アーテラスを飛び出してからおよそ1ヶ月経過していた。
神アーテラスと仕事の契約をしているので宇宙に冒険の旅に出かけてしまうことは出来ないでいる。なので、その間翔太郎は生活環境の整備に勤しんだ。
たまに昼まで惰眠を貪ることもあったが、概ね勤勉だったといえよう。
それもこれも、ブラックな会社で嫌々働かされるのではなく、自由の身になったからだ。しかもサバイバルというわけではない。優秀な部下が無数にいて世話を焼き、ほしい物は頼めば何でも出てくる。そこに対価も説教も付いてこない、まさに天国である。逆にダメ人間になりそうで恐いほどだ。
だから翔太郎は働いた。積極的に。
まずは食料の確認。
惑星アーテラスでの宇宙船暮らしでは一万年前の保存食やら現地の魔物の肉などを食べていたが、足りない素材は謎科学で合成したものも使っていた。空中元素固定何とやらを想像した翔太郎は悪くない。
ここ惑星級超巨大宇宙要塞・わーさんに来てからも、食事は完全合成品であったが、第三層の自然(笑)を見て、天然物を無性に食べたくなったのだ。いや、天然高級品などと贅沢をいってるのではなく、出自のわからない合成品ではなく、養殖でもハウス栽培でもいいから安心感がほしかったのである。
この要望に対しAIの答えは簡単であった。十万年間停止してはいるが栽培・養殖設備はある、再稼動するか? というものだった。
翔太郎は喜んで再稼動の指示を出した。
施設は第四層にある。環境はほぼ第三層と同じだが、隔壁で細かくブロック分けされていた。これは効率と安全のためだそうだ。栽培対象によって微妙に環境をを変える必要があるし、万一バイオハザードが起きた場合隔壁内だけを焼却、消毒できるようにである。
栽培、養殖のための最初の細胞が無から生み出される。翔太郎は説明を聞いて驚いたが、この要塞には現物は保存されておらず、遺伝子データのみ保管されているとのこと。それも十万年以上前のデータである。AIはそれに手を加え、翔太郎の記憶を元に地球の動植物の細胞を作り出してしまったのだ。いわゆるデザイン・アニマルというヤツだと翔太郎は知っていた。
合成品を食べてきた身として今更食べられるかどうかの心配はしていないが、生命を創り出すなんて神の領域じゃないかと不安になった。
が、よく考えてみると、大本の施設やAIを作ったのは神サマだった。特にあのアーテラスは目的のためなら手段を選ばないタイプに思える。派閥の方針に反する行動でなければ笑って見ているだけだろうと胸を撫で下ろしたのであった。
食料事情が片付いたら次は何をしようかと翔太郎は考えた。
思いついたのは専用宇宙船の開発であった。専用も何も、この宇宙要塞に関するものはすべて翔太郎専用なのだが、そこは男のロマンというヤツだ。何しろ開発という名のパクリである。翔太郎が作りたかったのは『ター○ル号』なのだから。すでに神であるアーテラスが『ミニメカゴジ○』を作ってしまっている。封印されてたのにどうやって? という疑問はいまだ残るが、ハードルは随分下がった。こうなったら自分も好きなようにやろうと。どうせ地球で使用するわけじゃないし、仮にバレたとしても、商業ではなく個人で使う分には『イタ車』程度の批判で済むのだからと半分開き直ってしまったのだ。
そう考えてはいたが、その構想はしばらく凍結される。
何故なら、現在宇宙要塞のリソースのほとんどが『対プタルカ消滅兵器』の開発・製造に費やされているからである。
『神殺し』の理論は単純で、精神生命体=エネルギー体と考えれば、それ以上のエネルギーをぶつければいいわけである。翔太郎ですら、プタルカの分体の分体、ロボ船長に取り付いたプタルカを倒せたのだ。本体であろうと倒せないことはない。神であっても『不滅』ではないことはアーテラスも明言しているのだから。
ただ、その本体のエネルギーが一体どれほどあるのか。只の人間である翔太郎には想像もつかない。AIたちは、翔太郎の倒した分体の分体、中型宇宙船・うーさんを空間に閉じ込めた分体のデータから本体のエネルギー総量を推測。またアーテラスから一般的な『神』に関するデータももらった。
これらを総合して、予測されたエネルギー総量の3倍の出力は必要だと結論付けたのだ。
そして製造の期間も問題となる。
『対プタルカ討伐作戦』は決定事項だ。だが、開戦時期については、神サマ目線の『もうすぐ』が人の一生より長くても不思議ではないし、逆に翔太郎の時間感覚に合わせて言ってくれたのかもしれない。しかし、これをアーテラスに確認しても意味はないのだ。何故なら、アーテラスの派閥である『SF派』の協力が必要で、参加者が揃わなければ開戦も何もないのだから。
そういうわけで、『対プタルカ消滅兵器』の開発・製造は万全を期して行わなければならない。命に直結する『食料問題』ならともかく、翔太郎の『ロマン』は一時お預けになる。
では、その間翔太郎が何をしていたかというと、第三層の開拓であった。
直接『対プタルカ消滅兵器』の開発・製造に関わらない中型宇宙船・うーさんを使用するなら計画に不都合は出ない。マイホーム建築時に使った重機もそのまま残っている。使ってやらないと可哀想かな? と考えたのがきっかけだ。もちろん光○力研究所への憧れは未だ健在なのは間違いない。
実は第三層の拠点というだけなら、1万本あるエレベーター支柱が立派な拠点として使えるのだ。仮に今後住人がどれだけ増えたとしても第三層地表を開拓する必要は全く無い。逆に自然は自然のまま残しておいた方がいい、という考えもある。
しかし翔太郎は開拓を選択した。何も自然をすべて破壊して人工物に変えるつもりはない。どちらかというと開拓というより『手入れ』というべきか。折角自分の所有物になったのだから最善を尽くそうというわけだ。ジャングルは適当に間伐して日光や栄養のバランスを取る。荒野・砂漠地帯は水源を造り緑化運動、いっそ果樹園にしてもいい。
宇宙要塞の全リソースを注ぎ込めば一瞬で終わりそうな予感はするが、中型宇宙船・うーさんの戦力と翔太郎個人の労働力だけだと一生かかりそうだ。それでもいいと翔太郎は思っている。これはライフワークなのだ。
そう考えて翔太郎は行動に移した。
手始めに開拓候補地の選定。これはAIに頼るしかない。決まったところで拠点の作成。これは最低限のエアカーの発着場と重機やロボットの待機場所になる。いわゆる『飯場』的な施設だ。ロボットに休憩が必要か、という話ではない。作業内容によって順番待ちが生ずるからだ。それにこの仕事は一回で終了という性質のものではなく定期的に行われることが決まっている。オーナーである翔太郎が視察することもあるだろう。そのとき『飯場』があれば、いかにも作業中の雰囲気があってテンションも上がるというものだ。翔太郎の妙なこだわりである。
重機の数は元々マイホーム建造用だったため少なく、現在うーさんの設備で追加製造中だが、とても第三層すべてを同時に開拓するほどは造れない。ロボットの数も同じである。従って候補地を一箇所ずつ開拓しているところだ。
翔太郎の身体は一つしかないので一度に何箇所も開拓されても現場に出ることはできないのでこのペースでも問題ないと思ってる。
さて、アーテラスから開戦の連絡が来るまでに何箇所開拓できるのだろうか?
【作者からのお願い】
「面白かった」「続きが読みたい」と思われた方は下記にある【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。




