第62話 閑話8 惑星アーテラスでは……その2
ブレスト王国王宮・騎士訓練場にて
「うわ! ちょ、ちょっとまて、クソッ! ファイヤー、うわっ!」
「どうした、どうした! そんなんじゃ魔物は倒せんぞ!」
髪の毛がオレンジ色の、根元は大分黒くなっているが、やんちゃそうな若者が騎士と打ち合っている。
他にも毛先が金色の若者が四人、同じように扱かれていた。
彼ら5人の若者は勇者としてブレスト王国に召喚された者たちである。
今回千年振りの大氾濫に対抗するために神託によって異世界から召喚されたのだが、役に立ったかといえば微妙である。
なにしろ勇者としての自覚が足りず、訓練は嫌がるわ座学は真面目に話を聞かないわで、ステータスが期待したほど育たない。実戦には興味を示したのでやらせてみると、こちらもほぼ遊び感覚で、戦果はダンジョンの間引きをしただけ。これではそこらの冒険者とあまり変わらない。
では大氾濫本番ではどうだったかというと、やはり冒険者たちに紛れて、とても勇者だといえる活躍は出来なかった。途中メタルドラゴンが乱入し、すべての魔物を食い尽くしてしまったのも影響しているが。
王国上層部は大氾濫は収束したと判断した。では勇者たちはお役御免か、といえばそうはならなかった。
王都でのスラムの反乱やメタルドラゴンの大群による大神殿破壊、そして各地の神殿の謎の崩壊などを考えて、今後も更なる混乱が起きると予想。それに乗じた魔族の侵攻もないとはいえない。
これに鑑み、勇者たちを引き続き防衛の切り札とし、更なる成長を求めた。
しかし、この計画は勇者たちの一言から暗礁に乗り上げた。
それは、ギフトスキルが使えなくなった、というものだった。
勇者の指導担当騎士が真偽を確かめてみたが、レベル相当の身体能力はそのままで、やっと習得できた魔法も大氾濫前と変わらないように見える。しかし、勇者固有ともいえるギフトスキルが発動せず、士気を高めたり、力を何倍にもするということが出来なくなっているようだった。
だが、担当騎士は素直に信じることは出来なかった。あくまで勇者たちからの自己申告に過ぎないからである。新米の騎士や兵士の中には仮病を使い除隊を申し出る者もいる。付き合いは長くないが、この5人の勇者たちの人となりから同じようなマネをしても不思議ではないと思ったのだ。
それでも担当騎士としての職務上報告をしなければと考え、その報告は宰相のところまで伝わった。
宰相は忙しい中、引退している前宮廷魔術師団総長フェロメール・ヒンデンを訪ね、調査を依頼した。
宰相は、思えばこの老師に相談もせず『異端者』の処置を決定してしまったことが運の尽きだったのだろうか、と半ば後悔しながら懇願する。
前宮廷魔術師団総長フェロメール・ヒンデンは複雑な思いであった。
あの日、『異端者』が奴隷に落とされ大穴ダンジョンに送られた日、フェロメールはその場に呼ばれなかった。相談も根回しもなかったことが彼のプライドを傷つけた。
後日その計画が失敗に終わり、皮肉ながらその計画のおかげで特別な能力があると判明した『勇者候補』が死んだという報告を受けたフェロメールはその場で職を辞した。
本来なら関係者に根回しして後継者や繰り上がりで出来たポストの人選などを決めて後腐れないようにしてから勇退するのが一般的な貴族のあり方だが、フェロメールはそうしなかった。突然の引退宣言。多分に意趣返しも含まれてはいたが、衝動的なものだった。
言葉通り責任を取ったわけではない。無駄死にした『勇者』を哀れんだだけでもない。フェロメールとて貴族であるし、他の人間より長く生きているのだから貴族同士の駆け引きも、国が教会に逆らえないことも理解している。
では理解していれば何でも許せるかといえば、それは別問題だ。宮廷魔術師団総長として幾多の魔術師の指導をして来た。その中には上位貴族も王族もいる。そんな自分が、知られたら反対されるからという理由でハブにされたのだ。情けないといったらない。このまま知らぬ顔してお勤めができようか。いいや、できるわけがない。そんな思いだった。
引退し王都の屋敷に引き篭もったが、悠々自適とはいかなかった。
まず宮廷魔術師団から使いが来る。副総長が仮の総長に指名されたようだが、まともな神経の持ち主で棚ボタの昇進に浮かれることなく、逆に魔術師団が混乱しているので復職してくれと矢の催促である。同じように宰相からも使いが来ていた。長ったらしい言い訳の手紙とともに。
政治の世界が急に嫌になったような気がしたフェロメールはどちらも断っていた。国王の名で相談を受けたときは渋々応じる他はなかったが。
そして大氾濫が起こる。
これには、宮廷魔術師団総長という肩書きに関わらず、一貴族、一国民として防衛に協力はするつもりであった。
しかし、蓋を開けてみるとあっけなく収束したとう。
しかも、死んだはずの、異端者の烙印を押された勇者候補であったショータローが生きて戻ってきたという報告を聞いて驚いた。それも、なんとメタルドラゴンの大群を率いてというではないか。
やはりあの男は特別なナニカを持っていたのだ。神にすら見通せないナニカを。
惜しい。
あの男を味方に付けていれば、きっと王国の発展に貢献したものをと考え、それは詮無いことだと我が身の力不足を自嘲するのだった。
そして何度目かの王宮からの相談事がやってきた。
今回は残った勇者に纏わる問題である。
勇者固有のギフトスキルが使えなくなったと聞き、それは教会の管轄だと追い返そうとした。
だが、その教会は既に壊滅状態で頼りにならず、フェロメールに縋るしかないと懇願された。
宰相自らの訪問を受け、こうまで頼まれたら引き受けるしかないフェロメールは仕方なく騎士の訓練場に足を運び調査に乗り出したというわけである。
「総長、どうですかな?」
「ワシはもう総長ではないんじゃがのう。ま、それはいいとして、これは確かに以前とは動きが違うな」
勇者たちが騎士と模擬戦をしているところを見て、フェロメールと、同じく調査に当たっていた騎士団長グレン・ミリアードは意見を交わす。
「仮病の疑いもあったようだが、奴らがここまで器用に実力を隠せるとも思えん。ギフトスキルがなくなったというのは本当じゃろうな。ステータスは調べたのじゃろ? どうであった?」
「ええ、魔術師団にお願いして調べてもらいました。しかし、ステータスに変わりはありません。ギフトもそのままでした」
「ふむ。ならばワシにいえるのは神に何かあったのだろうということだけじゃな。そして神のことはワシにはわからん。お手上げじゃな」
「……そうですか。では、これからどうするべきでしょうか?」
もともと5人の勇者に大して期待していなかったのか、騎士団長は冷静に尋ねるのだった。
「ふむ。各地の神殿が破壊されたそうじゃ。その影響で一時的に使えなくなったのかもしれん。ま、しばらくは様子見でいいじゃろ」
「わかりました。おい! 訓練を続けろ!」
「了解しました! オラオラ! 立て! 構えろ!」
「ギャーッ! ま、まだやんのかよ!」
「お、お願い……もう、休ませて……」
騎士団長の冷酷な指示で、この日の訓練は長引き、勇者たちの悲鳴が訓練場に響き渡ったという。
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