第61話 閑話7 惑星アーテラスでは……
ブレスト王国王宮にて
「陛下。大氾濫は鎮まったようです」
「そうか。よろこんでいいのか、嘆いたらいいのか、わからんな……」
「今は喜ぶべきでしょう。我が王都においては人的被害がほとんど出ておりませんゆえ。いえ、各都市もほとんどが無傷です」
「……それで被害が出たのは教会だけだってか? シャレにならんな。神官たちはどうしてる?」
「各都市の教会と連絡を取ろうとして必死になっておりますな。命が助かった神官は王都だけのようで、他の神殿は予告も無しに瓦礫にされておるようです。中にいた者はおそらく……」
「王都の神官たちはあのアンドンって奴隷に五体投地して感謝するべきだな。アイツが反乱を起こしてなきゃ神殿ごと潰されてたろうよ。それとも、異端の勇者サマに感謝した方がいいのか? 結局アレだろ? あの勇者がメタルドラゴンを使って魔物を倒したってことだろ。教会は自業自得だな」
「陛下。言葉にはお気をつけください」
「だってその通りじゃねえかよ。オマケに先史文明の神なんてシロモノも出てきたんだぞ? 今の教会を盲目的に信じまちっていいのか?」
「神々のこと、人如きが口を出していい話ではありません」
「わかってるよ。結局は勝ったモンが正しいってことはな。問題は、今回の一件、どっちが勝ったかだ。教会は何て言ってる? それから他の国はどうなった?」
「教会は先ほど報告したとおり混乱しております。どうやら本山も壊滅状態とか。再建には時間がかかるでしょう。陛下のたわごとですが、どちらにしろ面の皮が厚い神官たちのこと、どちらが勝っても神として崇めるのでしょう。そのほうが周りも混乱せずに済みます。陛下もこれ以上要らぬことを言わないようにしてください」
「たわごとってよう……」
「ああ、それから各国についてですが、まだすべての国の情報が集まったわけではありませんが、大体が我が国と変わりがないようです。氾濫した魔物はいつの間にか倒され、神殿が瓦礫になる。ある国では神が神殿と神官を犠牲にして民を守ったなどと噂されておりますな。事実を話したところで受け入れてもらえるかどうか……」
「神の威光はまだ健在ってワケか。こりゃ、もう一波乱ありそうだな。ウチの防衛体制はどうなってる? 異端じゃない勇者たちとアンドンとかいう奴隷とその仲間はどうなった?」
「報告したとおり、我が国の騎士、兵士に人的損害はありません。ですから防衛体制に問題はないと思います。それで、勇者たちですが……王都に戻っていますが、勇者としての能力が使えなくなっているそうです」
「は? どういうことだよ、それ?」
「わかりません。レベル相応の力は残っているようですが、勇者として神に与えられたというギフトスキルが発動しないとのこと。急遽老師に頭を下げて調査してもらっているところです。このままですと戦力としては新米の騎士程度でしょうな」
「げ。爺さんが来たのかよ。何言われることやら、頭痛えな……勇者の能力が使えねえって、アレか? やっぱり神が関わってるのか?」
「わかりませんと言っているでしょう。老師の報告待ちですな」
「聞きたくねえな、お小言付きの報告なんてよ。で? アンドンって奴隷は?」
「はい。あの日、負傷者の搬送を請け負った見返りとして、要求どおり衣服と食料を渡しました。急には全員分用意できなかったので半分は貨幣で手を打ちましたが。それよりも、奴隷解放と冒険者ギルドへの推薦の件です。大氾濫の最中ゆえ一人一人の手続きはできかねると申しましたら、一筆書かされました。騙すことも捕縛することも可能でしたが、メタルドラゴンの大群のことが頭にチラつき拒否できませんでした。申し訳ございません。あの書付があればどの奴隷も私の名において解放されることになります。たとえ犯罪奴隷であっても……」
「……犯罪奴隷か……その中に本当の、凶悪な犯罪者はどのぐらいいるんだろうな?」
「は?」
「アンドンのヤツも言ってただろ? ロクな詮議もなしに奴隷にされたって。奴隷の大半は貴族連中の横暴さで身を落とした奴らだ。高い税を払えなかったり、それに文句を言ったら抗命罪やら不敬罪で奴隷落ちか。ヤツが解放したいのはそんな連中だろうよ。ホントの悪人は解放しないでもらいたいが、ま、アンドンに期待するか」
「よろしいのですか? これでは秩序が……」
「いいも悪いも、俺たちは負けたんだぜ。アンドンにな。単純な話だ。生きてるだけでも儲けモンじゃねえか。でよ? その件で問題は起きたのか?」
「はい。王都の奴隷商、奴隷を多く使っている商会などが襲われ奴隷を奪われたと訴えがありました。当時王都にいた騎士や兵士は事情を知っているので、見て見ぬ振りをしておるようです。私のところまで陳情が参りましたので、後日詮議して回答すると先延ばしにしております」
「詮議するのか?」
「当然です。職務ですから」
「こりゃしばらくは落ち着かんな。そのうち貴族領にも飛び火するだろう。いっそアンドンに爵位と領地をやって解放した奴隷を引き受けてもらうか?」
「陛下、それはあまりにも下手に出すぎです。相手は元冒険者の奴隷なんですよ? 付け上がらせて、反乱の温床になるだけですぞ」
「だが、永遠に奴隷解放させておくワケにもいくまい? どこかで落としどころを見つけないとな。それに、ヘタ打ってメタルドラゴンの大群が現れても俺は驚かんぞ?」
「それはそうでしょうが……貴族たちが黙ってませんよ? 内乱になりかねません」
「そこは宰相の腕の見せどころだ。奴隷に関しての詮議は貴族たちにも及ぶだろ? 今回の騒ぎの原因が貴族にあるとハッキリさせて綱紀を引き締めさせろ。悪辣なのは降爵、爵位剥奪、領地没収、なんでもいい。少しまともなヤツは罪を軽くしてやることで味方に付けろ。折角大氾濫がウヤムヤになったんだ。これ以上の混乱はいらん!」
「……わかりました。貴族たちにも今回の反乱の責任を取ってもらうことを条件に交渉してみます。無実の奴隷が増えなければアンドンとやらも、後ろにいる異端の勇者も納得することでしょう。いいえ、必ずや納得させてみせます」
「すまんな。国王の俺が貴族どもを野放しにしていたせいだ。アンドンが俺を殺そうとしたのも当然だろうよ」
「陛下、それは……」
「見逃してもらえたのも、許したってわけじゃねえ。殺すより利用した方がいいって判断からだろうな。後先考えないバカな貴族よりもよっぽど頭が回る。貴族に取り立てても役に立つはずだ。何より、勇者の、ショータローとかいう異端者が再び現れたとき仲介役になってもらわねばならん」
「陛下、そこまで考えてのことでしたか……」
「当たり前だ。負けたとはいえ、まだ国王だ。国を守る義務がある。俺一人の首で済むなら安いものだ。で、その異端の勇者の動向は掴めてるのか?」
「いいえ。あの日以来勇者の姿はおろか、メタルドラゴンの一匹も目撃されておりません。大穴のダンジョンも人を遣りましたが、完全に崩壊して魔物の影もなかったそうです。一体どこで何をしているのか。各地の神殿崩壊は勇者の仕業でしょうが、それ以外に被害がないのが不気味です。生き残った神官たちは邪神の復活だと騒いでおりますが、何が正しいやら……」
「邪神か……その正体が先史文明の神だというんなら目的は復讐なんだろうよ。こりゃ世界が引っくり返るな。大氾濫どころの騒ぎじゃねえ」
「陛下、これからどうなるのでしょうか?」
「さてな。それこそ神のみぞ知るってやつだ」
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