第60話 丸くない
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週一投稿になります。
「そういえば衛星級宇宙要塞ってのはまだ見てないな」
そんな一言からスケジュールが変わることもある。
といっても現在翔太郎は待機中だ。スケジュールなどと大袈裟なものはない。
待機中であるのは、そもそもはSF派の神を名乗るアーテラスの依頼を受けたことが原因だが、細かい契約書を交わすタイプの依頼ではなかったことで終わり時がわかりにくい。惑星アーテラスの結界は壊して依頼者の神・アーテラスを脱出せしめたことで一応は依頼の完了と看做してはくれたが、問題のファンタジー派に属している神・プタルカの討伐にまで至っていない。情けないことに数人? の神たちで囲んだにも関わらず逃げられたのだ。
未来を見通すような全知全能の存在ではないとアーテラス自ら言っているように、逃げられるとは思っていなかったらしい。予定が狂ったというわけだ。
そして翔太郎自身もプタルカに思うところがあったので、その結末は見届けたい。だからアーテラスの依頼の延長というか、追加の依頼というか、それを引き受けることにしたのだ。
現在の翔太郎の懸念は、神サマの言う『しばらく待機』の『しばらく』とは一体いつまでなのだろうか、という点である。惑星アーテラスでも『しばらく潜伏』という状況になったが、幸いなことに数ヶ月で済んだ。しかし、今回は一年になるか、十年になるか。神サマ目線では千年でもそこまで長くないらしいので不安である。
折角健康体になり、宇宙船やら宇宙要塞を手に入れたのだ。本当なら冒険の旅にでも出かけたいところだ。
故郷の地球に凱旋して、地球より大きな宇宙要塞を見せびらかすのもいい。
惑星アーテラスに戻ってアンドンの様子を見ながらザマアの続きをするのもいい。
逃亡中にプタルカから助けてくれた、星間連盟とやらの宇宙人たちを探して是非お礼も言いたい。
したいことは山ほどある。
だが、今はトレーニングに汗を流すしかない。でなければ新築のマイホームで惰眠を貪るか、である。
社畜時代の翔太郎なら一も二もなく後者を選択したことだろう。それほど病んでいた時期だった。
しかし、今の翔太郎は脳を含めた身体が健康なものとなっている。特に精神は積極的な傾向が強くなっていた。それに加えて庶民的な価値観が無駄を許さない。贅沢は敵だ! というヤツである。
トレーニングで身体を鍛えることは時間の無駄にならないのか。
これについては、すでにエネルギー問題は解決しているので、AIは手っ取り早く医療設備での肉体改造を勧めているのだが、翔太郎の男の矜持とやらが拒否している。どうしても自力で鋼の肉体を獲得したいらしい。
AIたちは、それならばと、協力的である。オーナーの要望なのだから当然なのだが。
しかし、いくらAIの完璧なサポートがあったとしても、凡人が24時間トレーニングしっぱなしということはありえない。
適度な休憩を挟むのだが、その時間も暇なことこの上なかった。
かなり後になって、AIが星間連盟を通じて地球のネットにアクセスできることを知るまではだが。そのときの翔太郎の表情といったらなかった。
AIに何故今まで教えなかったのか訪ねると、『創造主様からサプライズだから指示があるまで内緒』と言われていたらしい。きっとその創造主とやらは指示することを忘れているのだろう。本気で神を呪いたくなった瞬間だった。
それはともかく、待機中の翔太郎はストイックにトレーニングに励んでいた。
休憩中も、自身のものとなった宇宙要塞の見学や新たな土地の利用法を模索していた。とりあえず家庭菜園は作ってみたようだ。
そして、夜の第三層の空をふと見上げて思いつくことがあったようだ。
「この空って映像だよな? 月が見えるけど本物じゃないよな?」
AIからの答えは『イエス』だった。アーテラスの故郷の惑星から見える夜空をもとにして再現した映像、いわゆるCGだそうだ。
このような翔太郎からの疑問はよくあることだ。
翔太郎は、SF染みた謎の超科学が現実に存在していることについては既に認めている。しかし、謎技術そのものに関しては理解が及ばないのだ。これも頑なに知識のインストールを拒んでいる弊害なのだが。ゆえに細かい部分について既存の地球レベルの技術知識との齟齬が出る。『ありえない』と拒否はしないが、『ナニコレ? ナニコレ?』とまるで子供のような反応を示す。AIたちが嫌な顔一つもせずに対応してくれることも拍車をかけているのだろう。
今日の質問は月のCGに関してだが、そこから連想して衛星級巨大宇宙要塞の存在を思い出したようだ。
『オーナー。転送装置は繋がっております。いつでも利用可能ですが』
AIわーさんから脳内通信で返事がきた。
だが、利用とかそういうことではないらしい。
「いや、考えてみればわーさんの外観も見てないし、衛星級ってのをこの目で見たいと思ってな。うーさんに乗って宇宙に出れば見えるのか?」
『お言葉を返すようですが、仮に宇宙船で要塞外に出たとしても、見られるのは光学処理した映像でございます。それでしたらCGをモニターやホログラムで見るのと変わりはありませんが』
「なるほど。じゃあそれで」
『はい。それでは、中型宇宙戦艦・うーさん上空にホログラムを出します。南側をご覧ください』
現在、ちょっとした気分転換で南側のベランダに出ていた。海が見渡せるし、うーさんの船影もちょうどいい距離に見えている。
「おおっ! でっかい!」
いくら超高性能AIでも好きなところにホログラムを投影できるわけではない。設備が必要だ。そして設備は需要があってこそ設置される。これまでそんな需要がなかったため、第三層にはエレベーター支柱以外に設備はない。今後に期待、というヤツである。
だが、オーナーの要望には応えたいのがAIというもの。幸い、宇宙戦艦はデフォルトでホログラム投射装置が組み込まれている。それを使えばいいだけの話だった。
中型宇宙戦艦うーさんの上空に浮かび上がったのは、月や太陽より遥かに大きく見える球体だった。メタリックな外見、翔太郎が想像していたとおりの、デ○スターそのものだった。
『これが私の外観でございます。およそ十万分の一に縮小投影しております。比較のためオーナーの故郷の地球を並べてみましょう』
わーさんの説明の後球体が増えた。テレビではお馴染みの、懐かしの地球の映像である。
「マジで地球よりでっかいんだな……」
第三層の地表面積は地球より小さいが、第三層内というのなら、実は地球そのものがすっぽり収まってお釣りが来る。しかも第二層、第一層とまだ外側があるのだ。
アーテラスが超巨大宇宙要塞と銘打つだけのことあはある。翔太郎は素直にそう思った。まあ、惑星といっても木星に比べれば小石同然なのだが。
『では、地球の衛星と我が衛星級巨大宇宙要塞を同時に出します。縮小比率は同じです。オーナーから見て、右から地球の衛星、あとは製造順にえーさん、びーさん、しーさん、でぃーさんになります』
「は? 待て待て!」
わーさんの宣言でホログラムが追加されるが、それを見て翔太郎は混乱した。
右の地球の月は問題ない。ウサギだかカニだかの模様が見える。次も問題はない。何か発射孔みたいなのがわーさんよりもデ○スターっぽいのがいい。
問題はびーさん以下である。
『どうかなさいましたか?』
「丸くないじゃん!」
そう。びーさんはピラミッド型、シーさんは正六面体のサイコロ、そしてでぃーさんはウニのようにトゲトゲしていたのだ。
『創造主様曰く、あくまでもサイズが衛星級であって、形なんて飾りです。それが偉い人にはわからないんです。とのことですが』
「神サマは偉いんじゃないのかい! 確かに人じゃないけどさ! ていうか、その理屈ならシンプルに丸にしとけよ!」
激しくツッコミを入れたが、その後、どうせ一つ目を作った後残りは面白半分で作っちゃったんだろうと、あのアーテラスだから仕方がないと、自己完結し、気を取り直した上で各衛星級巨大宇宙要塞の見学に向かう翔太郎であった。
翔太郎の日常には、こんな日もあるのだ。
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