第58話 初めて生で見た
すみません。差し替えました。
翔太郎がマイホーム建設予定地に戻ると、少し状況が変わっていた。
すべての重機が作業を止めて翔太郎の乗ってきたエアカーの周辺に集まっていたのだ。作業用人型ロボットもまた同様である。
彼らはまるで翔太郎を出迎えるように整列していた。いや、まるで、ではないのだろう。翔太郎はこの宇宙要塞のオーナーなのだから。
「……ごくろうさん。完成まで頼むぞ」
翔太郎はオーナーらしくロボットたちに労いの言葉をかける。社畜だったからこそ、上に立つ人間の真似事ぐらいはできるのだ。
翔太郎はこの作業用ロボットにどれだけ高度なAIが組み込まれているかは知らないものの、これまでの経験で地球人には想像できないレベルであろうとは思っている。その予想が当たっているのか、ロボットたちは一糸乱れぬ動作で一斉に敬礼をもって翔太郎の言葉に反応したのだった。
「おうふ……すげーな……ところでメイコさんや、うーさんはまだか?」
AIたちが優秀なことについては今更であったので、深く追求せずに今知りたいことを聞く。
「まもなく到着予定だそうです」
AIらしからぬ、なんとも曖昧な答えだが、一昔前の出前じゃあるまいし、AIがまもなくといったら本当にまもなくなんだろうな、と素直に受け取る翔太郎。
その言葉通り、まもなくして変化が訪れた。
遠くからゴゴゴゴと幽かに低い音が聞こえてきた。
例えていうと、雷がなった直後の反響音。或いは、翔太郎は実際に見たことはないが、火山が噴火する直前の地響き、といった感じか。
「……この音がうーさん? 俺が乗ったときは聞いた記憶がないが……エンジンかマフラーを改造でもしたのか?」
「わーさん様から回答がございました。エンジンに相当する各ジェネレーターは無音処置してありますので音は伝わりません。また、オーナーが惑星アーテラスで乗艦していたときはおそらくステルスモードだったので同じく音は伝わらないはずです。現在は隠れる必要がありませんので通常大気圏航行モードになっております。空気抵抗による振動が音となって伝わっているのでしょう。ご不快ならステルスモードに切り替えますが、どう致しますか? だそうです」
「あー、なるほど。戦艦が飛ぶとこんな音がするのね。いや、これはこれでカッコいいからこのままでいいや。ところで、第二層の出入り口は遠いのか?」
「はい。いいえ、第三層の上空に存在するスクリーンはすべて隔壁にもなっていますので、どこでも開くようになっております。今回は『うーさん』の再構築の工場とオーナーの決定された第一セーフティハウスの位置が偶然離れた場所にあったためにこのような仕儀になってしまいました。第二層の外側を移動してここの直上から降下する案もあったのですが、距離を比較しますと第三層経由の方が比較的早いという計算結果が出ましたので計画遂行速度を優先いたしました。ご報告すべきだったでしょうか?」
メイコ、おそらく宇宙要塞AIのわーさんからの答えだった。
翔太郎は一瞬『報連相がなってないな』と考えたが、言葉にはしなかった。なぜなら、もしここでそんなことを言ったら、今後はあらゆることで報告が翔太郎に一極集中する。どうでもいいことから謎科学に至るまでだ。その処理が単なる一般人の翔太郎に出来るわけがない。仮に将来できるようになったとしても、それでは只のシステムの一部に組み込まれるだけだ。ブラック企業で苦労した翔太郎は更なるブラックな環境になりたくて神の遺産を受け取ったわけではないのだ。
「いや、かまわないぞ。優秀なAIたちがいるんだ。任せたんだから後から文句言うような真似はしないさ。ま、よきに計らえ、ってとこだな。あー、でも、秘書みたいなのは要るかな? メイコでできるのか? それとも専用の秘書ロボットがいるのか?」
「はい。AIの設定を調整すればどの機体でも可能です」
「そうか……ま、誰にするかは後で考えるか。それより音がだんだん大きくなってきたんだが……」
「オーナー。南西に『うーさん』が見えました」
「え? どこどこ?」
翔太郎はメイコが指差す方角を見たが、海しか見えない。幽かに糸のようなものが見えるが、あれはエレベーター支柱のはずだ。
しかし、見付けられなかったのは一分にも満たない時間のことだけで、すぐに翔太郎にもわかるようになった。
水平線の上に小さな影が見えたと思ったらだんだんと大きくなってきた。
「おー。見えた。アレか。あれ? 音が消えた? ステルスモード?」
船影が大きくなるにつれて飛行音も大きくなっていたが、突然音が小さくなった。
「はい。いいえ、減速に伴い空気の振動音も減少したのです」
「ああ、減速ね? そりゃここまで音速で来られても停止するのが大変そうだ」
「はい。緊急停止は可能ですが、それに伴う衝撃波までは完全には緩和できませんので。念のための処置です」
「なるほど。出来るんだ……おお! これがうーさんの本体か。初めて生で見た……」
正面から小島に飛んできた中型宇宙戦艦『うーさん』はいつの間にか方向を変え、回り込むように小島に接近していた。おかげで翔太郎は横から船体を見ることができた。
惑星アーテラスにいた頃は、地下ドックが瓦礫に埋もれて肉眼で船体を見ることが叶わず、脱出した後もプタルカとの戦いがいつ始まるか戦々恐々だったため、観光気分には慣れなかったのだ。
モニターで船体データは見たことはあるが、改めて実際に見てみると一般人の翔太郎にとって感動モノである。日本に、いや、地球にこれだけの船が存在するのか。翔太郎が知っているだけで比較できそうなのはメガフロートか宇宙ステーションくらいなのだが、それとて実際に目にしたことはない。豪華客船ですら聞いたことはあっても見たことはないのだから。
そして外観は、大和や武蔵などの『戦艦』系ではなく、どちらかというと新幹線やスペースシャトルをもっと横に広げた、基本流線型の、まさに『未来の宇宙船』である。兵器格納庫かブリッジの部分がいくつか盛り上がっているのも戦艦っぽいし、ちゃんと上下と前後がハッキリわかるところもポイントが高い。色は暗い銀色。謎科学で簡単に変わりそうだが、これはこれでメタルっぽい点がSFしている。どうやらアーテラスのセンスは翔太郎と似通っているらしい。ショッキングピンクなど極彩色は勘弁してほしいとくだらないことまで考えていた。
翔太郎が感心しながら眺めているうちに、中型宇宙戦艦『うーさん』は小島の第一セーフティハウス建設予定地の崖に接触するのではないかと言うところまで接近していた。
こうなると全景が見えなくなる。それほど『うーさん』は大きかった。これで中型だと言うのだから大型や超大型となったら一体どれほど大きいのだろうか。
翔太郎は恐く感じながらもワクワク感が湧いてくる思いであった。
「おーい! うーさーん! ひさしぶりー!」
翔太郎はうれしさに、思わず大声で呼びかけた。
どうやって返事してくれるかはわからないが、向こうが見えている、聞こえているのは確実だ。そこは実際に乗船していたから知っている。
「(オーナー。歓迎してくださるのは感謝しますが、オーナーが下船してから、データでは三日も経っておりません。久しぶりというのは如何なものかと……)」
「おお、久しぶりの脳内念話……いや、こっちも色々あってな。環境が激変して、何もかもが皆懐かしい、って感じなんだ。それより、船長やゴブさんは? 直ってるんだろ?」
「(……今送ります)」
うーさんの返事の後、二つの人影が翔太郎の目の前に出現した。
「おお……転移魔法か」
「(オーナー。転送は科学です)」
とことんSF派のAI、『うーさん』であった。
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