第57話 小島の散策
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ショータロー大地に立つ!
などと大袈裟にいったものの、翔太郎の感覚では普通にマイクロバスから下車した感じだった。
もちろん、ここが超巨大宇宙要塞の中で人工的に創られた大地であり、アーテラスが建造してから他の人間が降り立ったかどうかは聞いていないが、少なくとも休眠状態の十数万年は人跡未踏であるのは知っている。そんな場所に降り立つことはある種の偉業なのだ。
だが、完璧に惑星を模倣されている第三層は、ここは日本にある離島だよ、といわれても違和感がないほどだ。ゆえに感動もそこまではしなかった。
どちらかというと、これから自分の別荘が建てられる、という俗っぽい感情が刺激される感じである。
それはともかく、翔太郎はエアカーから降りるとマイホーム建設予定地であろう方向に歩き出した。メイドロボのメイコも危険はないと判断して黙って付いてくる。
翔太郎の希望通り建設予定地は崖の上であり、目の前には大海原が広がっていた。すでにエアカーから見てはいたが、異世界だから、SFだからといって海が紫色だったりピンクだったりはしない。地球と同じ青く輝いていた。
「おお。いい眺めだ」
翔太郎は純粋に感動する。ここがどこだとかは関係ない。綺麗なものは綺麗なのだ。地球と違って水平線の彼方に薄っすらと糸のような支柱は見えるがリクエストどおり気にならない程度である。
支柱は翔太郎にとってはネタバレしているので風景のアクセントでしかないが、もしこの島に人類が発生していたら遠くに幽かに見えるエレベーター支柱をどのように受け取るのだろうか、想像してみると興味深い。
大抵は生まれたときから見えている風景なので気にも留めないだろう。しかし、人間の中には好奇心が強かったり想像力が豊かだったりする者がいるものだ。
『あの光る糸は何だろう?』『きっとスゴイ何かがあるに違いない』などと少年が大人たち尋ねまくって笑われたり困らせたりする。長老辺りが『あそこには神サマが住んでなさる。近寄ってはならぬぞ』などと突き放すかもしれない。
しかし好奇心溢れる少年には逆効果だ。ダメといわれるほど冒険心が刺激される。少年は大人たちに黙って探検しようとするだろう。手製の拙いイカダで大海原に漕ぎ出す。物語の主人公の誕生だ。まるで某未来少年ではないか。
そして少年はエレベーター支柱に辿りつき、主人公補正で偶然エレベーターが作動してしまう。見たこともないメカニックな要塞の内部を彷徨い、ついには休眠中の要塞AIを起動させる。これも主人公補正だろう。
神殺しの片棒を担ぐ報酬として宇宙要塞のオーナーになった翔太郎と比較しても王道なストーリーであろう。
もしかしたらアーテラスはそんな未来も視野に入れて宇宙要塞を休眠させていたのかもしれない。
「オーナー。地盤強化中ですので、それ以上先は危険です」
翔太郎が海を見ながら妄想に浸り、さらに崖の先端に近づこうとするとメイコに制止された。
「……仕方ない。森の方に行くか」
ファンタジーでもSFでも、工事中は関係者以外出入り禁止のようである。実際崖の上には見たことがあるような重機と見たこともない形状の重機が入り混じって何か作業している。人型のロボットも何体も忙しそうにしていた。所有者なんだから関係者だとゴネることは出来るかもしれないが、過保護なAIたちが許してくれそうもないので翔太郎は諦めて別のプランを立てる。
プランというほどではない。小島の散策だ。小島といっても人間から見れば大きい。大半が森に覆われている。日本の地方都市出身の翔太郎にとって初めて体験するジャングルだ。エアカーでの観光中はAIが許可を出さなかったのでスクリーン上から眺めるのみだったが、この小島は検査が終了し、危険生物やウイルスの心配はない。ならば探検気分を味わってもいいであろう。
お付のメイコも特に反対しないようである。
「……木ばっかりだな……」
全く文学的ではない感想だが事実ではある。
AIたちの優先順位はハッキリしていて、ジャングルは安全検査のために獣道ならぬロボット道ができているくらいでほぼ手付かずなのだ。
そのロボット道を翔太郎は歩いてみる。AIが安全と言い切ったので翔太郎は素直に信じた。付き添いのメイコも何も言わないのが証である。精々転ばないように足元に注意すればいい。そこまではAIたちも過保護ではなさそうだ。
歩くことしばらく。安全が保障されていると冒険気分も減少されるものだ。ましてや何の目的もない、暇つぶしの散策だ。変わらぬ景色に翔太郎は早くも飽きが来た。
「あー、メイコさんや。何か面白いものはないか?」
「申し訳ありません。私には何が面白いのか判断できかねます。わーさん様に問い合わせしましょうか?」
「わーさん様て……いや、いいや。何か大袈裟になりそうだ。あ、忘れてた。うーさんの再構築、どうなってる? 聞いてみてくれ」
「わかりました……オーナー、わーさん様が直接お話なさるそうです」
「お、そうか。わーさん、どうなってる?」
上位AIがロボットを経由して会話できることはもう慣れた翔太郎はすかさず反応した。
「はい、ご報告します。中型宇宙戦艦、コードネーム『うーさん』はすでに再構築が完了しております。現在は乗員ロボットの再構築中です。進捗率は70%を超えております」
「ほー? やっぱり優秀だな。そこまで早いとは思わなかった。うん、優秀だ」
「おそれいります」
「でだ。船長とかゴブさんは直ったのか? 先にこっちに連れてこれないか?」
「可能です。しかし、それですと計画に若干の遅れが生じてしまいます。予定していますのは、第一セーフティーハウスの地盤強化の完了後、家屋を『うーさん』で運び込む手順です。再構築後の『うーさん』のお披露目はそのときになる計画でした」
「サプライズ、ってわけじゃないんだよな? 第二層あたりで組み立て済みの建物を持ってきたほうがこっちで組み立てるより効率的ってことか? そこまで違いがあるとは思えんが、まあ、プロのやり方に反対はしないさ。おとなしく待ってるよ」
AIから報告を受けた翔太郎は今自分に出来ることを検討する。
ハッキリ言って何もなかった。
予定ではあと数時間でマイホームが完成する。『うーさん』もそのときに第三層にやってくるようだが、数時間というのがまた中途半端だ。特に日本人庶民にとってはだ。
しかもここにはテレビやネットがない。技術が遅れているという意味ではなく、現物がないという意味だ。元々は住居設備に加え娯楽設備もあったようだが十数万年のスリープモード中にエネルギーに変換されているのだ。
似たような話で、翔太郎がアーテラスから遺産を引き継いだ時点で聞かされた内容は宇宙要塞5個の他無数の宇宙戦艦も含んでいたはずなのだが、蓋を開けてみると宇宙戦艦はエネルギーに変換されていて陰も形もなかった。これは契約違反ではないかとも考えたが、データからいつでも再構築可能ということだろうと納得する。再構築の時間は神サマ目線で無視できる程度らしい。なにせ千年を「短くもないが長くもない」と言い切るのだから。
翔太郎はそれ以上考えるのは止め、再び森歩きを始める。
病気が治り、数ヶ月トレーニングを積んだ翔太郎は、線は細いままだがそこそこの体力はある。童心に返ったつもりで森の中を走ったり、初めてだったが木に登ったりもした。時折見かけるリスっぽい動物や小鳥の姿が無聊を慰めてくれた。
「オーナー。うーさんが第三層に降りてくるようです」
「ホントか! 戻るぞ!」
森に入って二時間ほど。ついに待ちわびていたときがやってきたのだった。
次回は8月12日0時投稿予定です。
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