第56話 翔太郎大地に降り立つ
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アーテラスの遺産を正式に受け継いだ翔太郎は早速住居施設の建造を始めた。
超科学を駆使すれば小さな家の一軒ぐらいは短期間で建てられると考えていて、まさにそのとおりだったが、翔太郎の予想する短期間とはスケールが違っていた。翔太郎は謎科学のデタラメさを理解したつもりになっていても実はまだまだなのだ。
だが、事実をあるがままに受け入れるということに関しては相当慣れてきたのだろう。30日が30時間だと聞いても一瞬驚きはしたものの、疑う真似はしなかった。AIの報告どおりスケジュールを立ててもらっている。
一軒目のマイホーム完成まで所有物となった宇宙要塞の観光をした。
名所古刹はないが、十万年以上放置されていた、まさに人跡未踏の大自然が観光の目玉である。誤差はあるだろうが地球の陸地に匹敵する面積を30時間で隈なく回り切るのは不可能だ。謎科学で高速移動すればできないこともないだろうとは翔太郎も思ってはいるが、まだ生身の翔太郎には早すぎる。いや、速すぎるのだ。
AIに頼んでお勧めを何箇所か訪れるに留めた。
以前AIの説明に出てきた第三層最高峰の山。モデルとなったアーテラスの故郷ではちゃんとした名前はあるが、ここでは当然無名山である。そのうち翔太郎が命名しなければならないだろう。そんなことをAIに説明されながらエアカーのスクリーン越しに眺める。エアカーはわざわざ低空飛行で無名山に接近してくれた。富士山のような独立峰ではないが、それだけに迫力があった。
降車はやはり許可されなかったので、已む無くエアカーで登山することに。楽々登頂に成功した。翔太郎が面白いと感じたのは、頂上から第二層の底面が見えることである。全面スクリーンになっていて青空が映し出されてはいるものの、これだけ近づけばスクリーンの継ぎ目も見えるというものだ。翔太郎は自分が要塞内部にいるのだということを改めて感じたのである。
次にAIがお勧めしてきたのは滝だった。
ナイアガラかビクトリアか。翔太郎はテレビで見たことしかないが、ここの滝というか瀑布も地球の名所に負けず劣らずの迫力である。ただし結局はエアカーのスクリーン越しなのでテレビで見るのとそう変わりはない。降車できればさぞマイナスイオンが豊富だったろう。
次は砂漠地帯だった。
ピラミッドやスフインクスはなかったが、砂砂漠に礫砂漠、岩砂漠と色々種類があって興味深い。AIによると、環境の変化は最低限に抑えていたつもりだが、十数万年放置していた結果砂漠地帯が広がっているらしい。今後は砂漠の緑化活動も翔太郎の仕事になりそうだ。
当然ここも降車禁止である。
「なあ、よく考えたら、船から降りられないんなら観光の意味ないんじゃないか? スクリーンでみるだけって……」
ようやく気付いたようである。
だが、翔太郎がエアカーに乗って移動することは必ずしも無意味ではない。
「申し訳ありませんが、現在監視カメラで撮影可能なのは支柱近辺と第二層からの俯瞰映像のみなのです」
「あ、そうか。正式稼動したばっかりだったな。悪かった。結局整備が完了するまで俺のできることはないから観光してるんだった。文句いうべきじゃないな。よし、観光を続けよう。厭きたらメシ食って寝る。わーさん、続きを頼んだ」
「了解しました」
こうしてマイホーム完成までの残り時間を観光という名の暇つぶしで過ごす翔太郎であった。
観光といっても、人工物である宇宙要塞の中の人跡未踏の大自然という矛盾。時折目に付く、天に届かんとするエレベーター支柱がSFというよりファンタジーに見えるから不思議なものである。
翔太郎は引き続き、湖やジャングル、花畑にサバンナ、氷河や流氷などを見た後、ついには海の中まで観光することになった。
一般に宇宙船は潜水艦より耐久性が低いといわれているが、そこはそれ、謎科学の重力操作で水圧もなんのその。大陸棚を過ぎ、深海まで達してしまった。
「……深海なのによく見えるな? 普通、真っ暗じゃないのか?」
「超音波やレーダー波を着色して映像処理しております」
「なるほど。科学の勝利だな」
翔太郎の謎の表現である。
世の中には理解は出来るが納得できなかったり、理解は出来ないが納得できたりすることもある。今回は後者だったようだ。
「うわ、グロいな……」
深海の生物は、地球産に負けず劣らずグロテスクなものが多かった。
ちなみに第三層地表を観光中に何度か生物を見かけたが、地球産の生物に酷似したものが多かった。厳密に言えば違うのだろうが、パッと見、地球の動物園にいても一般の人間は気付かないレベルの差だった。
AIに尋ねるとアーテラスが敢えて宇宙的にありふれた小動物をチョイスしたそうだ。理由は生命力の強さが基準らしい。
生命力というワードで思わず『宇宙G』を思い浮かべてしまった翔太郎は強引に話題を変えてしまい、以後は気にしないことにしていたのだ。
だが、深海魚を目にして別の興味が湧いてきた。
「なあ、わーさん。ここの魚って食えるんだよな?」
特にグロテスクなのが食べたかったわけではない。魚介類全般についての質問である。
「はい。大半は食用可能です。科学的処理をすれば毒でも食べられますし、万が一中毒したとしても治療可能です。また、味覚に関してはオーナーの味覚神経を調整すればすべてが美味しく食べられるでしょう」
「……そこまでして食べたくはないかな。今度、天然で美味しそうなのを捕まえておいてくれるかな?」
「はい。生活環境が整いましたら実行します」
「よろしくな。ところで時間は? 昼寝も2回も挟んだし、あっちこっち飛び回って夜だか昼だかわからなくなったしな」
「日付変更線などは決めておりませんので現地時間の表示は不可能です。ミッション開始からの時間経過は25時間余りです。すでに小島の環境調査は終了し、現在は地盤強化の最中です」
「お? 調査終わったんだ。それって安全が確認されたってことか?」
「はい。あの小島に関してはそのとおりです」
「じゃあ、島に降りても問題はないな?」
「……できれば第三層全域の調査が完了するまで待っていただきたいのですが」
「大丈夫だって。この船からそんなに離れるわけじゃないし、メイコもいるんだし、わーさんの調査を信じれば危険はないんだろ?」
「……わかりました。念のためバイタルはモニターしておきます。不調がありましたら早急に船内にお戻りください」
「わかった、わかった。わーさんて結構過保護なのな」
「十万年以上待ったご主人様ですので」
「ま、そういうことなら仕方がない。ありがたく世話になるよ。それより、小島に向かってくれ」
「了解しました」
翔太郎のわがままが炸裂し、エアカーは深海から海上に向けて浮上する。
その後、高速移動で目的の小島に到着した。
「到着しました。ただいま最終確認をしております。少々お待ちください」
小島のマイホーム建設予定地の周辺は木々が伐採されていた。エアカーはそこに着陸している。
AIの過保護さが滲み出ている最終確認とやらが終り、やっとエアカーの扉が開いた。
潮の香りを真っ先に感じる。
護衛役も務めているのか、メイドロボのメイコが先に降り立った。
一番乗りを取られた翔太郎は少し不満に思いながらも続いて大地に降り立つのだった。
「ここが俺の島か……」
スクリーン越しではない、自分の目で見る第三層の景色は感慨深いものがあった。
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