第55話 無免許スゴ腕外科医が住んでいる
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「いいんじゃないか? ここにしよう」
エレベーターで第三階層まで昇り、最も目的地に近い支柱の出口から地表に出た。人工の光の上、素通しのガラスではなくスクリーンからの映像ではあるが、日光が眩しい。
翔太郎のマイホーム建設地の条件は支柱からなるべく離れたところ、ということなので、数十分の空の旅をした。
また、選んだのは大陸ではなく、諸島の一つということで海の上も飛ぶこととなった。
翔太郎も日本にいたときは飛行機に乗ったことはないでもないが、一般の旅客機の飛行高度は通常海抜数千メートル。小さな窓からでは、とてもではないが『海がよく見える』などとはいえない。
それを考慮したのかどうかは翔太郎にはわからないが、宇宙船モドキのエアカーは低空飛行をしていたため文字通り海がよく見えた。
そして到着した候補地。実は、諸島であるため他の候補地も遠くないところにあるのだが、翔太郎は一件目で建設地を決定してしまった。
これは、もし日本で物件選びをするのなら、不動産屋が提示してきた候補物件はすべてに足を運んだことだろう。しかし、要塞すべてが翔太郎の所有物だと意識し始めると真面目に物件探しするのがバカバカしくなってきたのである。やろうと思えばAIが提示して来た1万件以上の場所すべてに別荘どころか街を造ることもできるに違いない。
理由はもう一つあった。
実は、翔太郎は始めは実際に自分の目で確かめたかったようでエアカーから降りようとしたのだ。だが、AIは第三層の調査不足から安全が保障できないと翔太郎の降車を禁止したのである。理由に納得がいったものの、映像でしか確認できないことに興が削がれてしまい、一件目で妥協したというわけである。
ならば一件目は建設スピード重視である。エアカーのシートも座り心地は悪くないが、寝泊りできる部屋もほしい。風呂やトイレも重要だ。
「候補地は他にもありますが、ここでよろしいですか?」
「ああ。わーさんのお勧めだろ? なら信用できる。住み心地はそれこそ住んでみないとわからん」
「信用してくださってありがとうございます。では、建物についてですが、デザインはいかがしますか?」
「でかくなる研究所は後回しで。小さくて最低限の機能がついてればいい。デザインは、俺にそんな才能はないな。外見は黒っぽい木造、って感じで、わーさんの方で決めてくれ」
翔太郎の脳裏には無免許スゴ腕外科医が住んでいるイメージが湧いていた。
「では、この中からお選びください。創造主様の惑星で一般的な住居のデザインです」
AIがそう言うと目の前のスクリーンが数十に分割され、様々な建物の写真が映し出された。
翔太郎の見るところ、地球に有ってもおかしくはないデザインが多数ある。AIは詳しく説明しなかったが、同時期の物件だけではなく歴史がある建物もあるようだ。
「宇宙っていっても人の住むところは似てるもんだな……ああ。これこれ、こんな感じの」
翔太郎が選んだのは、わかりやすい三角屋根のこじんまりとした建物だった。
そして間取りもAIに任せる。もし日本で物件選びをするのなら(略。
平屋の2LDK。玄関では靴を脱ぐ日本式。2つの部屋は1つが寝室、もう一つは、来客の予定は皆無だがAIの勧めで応接室っぽくしておいた。もちろん風呂とトイレも完備。一人暮らしには贅沢かもしれないと感じる翔太郎は、まだ宇宙要塞の所有者の自覚が足りないのだろう。
「決まったはいいが、完成するまではどうしたらいい? そろそろ腹も空いてきたんだが……」
「建物の設置と周辺の調査に現地時間で30時間の予定です。それまではオーナーにはこの機体でお休みいただくか、支柱の空き部屋を利用するかしていただきます。また、お食事はこの機体の後方に簡易調理室がございますのでそこのメイコにお申し付けいただければご用意できます。お教えするのが遅くなりまして申し訳ございません」
「……色々ツッコミどころがあるが、まあ、メシはいい。どうせ何千年だか何万年だか知らんが保存できるんだろう? それとも物質変換か? もう慣れたよ。それより、30時間って言ったか? 30日じゃなくて」
食料に関しては、何ヶ月も宇宙船で暮らして超科学の恩恵に与っていたため心配していなかった。しかもここには、もはや人工とはいえない原生林が広がっている。食べられるモノはいくらでもあるだろう。
だが、小さいとはいえ、家一軒の建築スピードを聞いて耳を疑うのは仕方のないことだ。
「はい。間違いなく30時間です。製造は第二層で行います。並行してこの島の地盤強化と安全対策を行います。第三層全域というわけではないですから短時間で済みます」
「……なるほど。俺はまだ超科学のスゴさを理解してなかったようだな……あー、メイコ。何か適当にメシを頼む」
「はい。かしこまりました」
翔太郎と要塞AIが話している間、身じろぎもせず黙っていたメイドロボだったが、翔太郎のいい加減なオーダーにうれしそうに返事をしてエアカー後部に移動していった。
そんなメイドロボの行動を見て、無視して悪かったかな、と少々罪悪感を持つ翔太郎であった。
しばし車内に沈黙が降りる。
翔太郎がしなければならないことは皆無だ。強いて言えば待つことだけである。
「お待たせしました」
幸い、沈黙の時間は短くて済んだ。
調理室といっても、メイドロボ自ら調理するわけではないことを宇宙船暮らしで理解している。豪華な自販機があると思えばいい。
「それじゃあ、いただきます」
ローテーブルに置かれたモーニング?セットに向かって手を合わせる翔太郎。宇宙の果てで食事できるだけありがたいというものだ。
「このあとどうしようか?」
翔太郎はトーストを食べながら誰にともなく話しかける。
「オーナーのご自由に」
やはり答えてくるのは要塞AIだった。
「自由っていってもすることがないぞ?」
「私が提案できますのは、工事が始まるまではまだ時間がかかるので、第三層の遊覧飛行でしょうか。どこも代わり映えしないと思いますが」
「工事はいつから始まるんだ?」
「現在調査用ロボットを優先して製造中です。まずはこの島の調査に20時間ほどかかると予測しております。調査完了後、危険生物の排除と地盤強化に数時間かける予定です。オーナー、新たに提案しますが、地下室は必要でしょうか?」
「地下室ねえ……あ、このエアカーの乗り場、崖の中に出来ないか? こう、秘密の扉が開いたりして。それから転送装置も置くんだろ? ハイテクは地下室にまとめようか。うん。地下室も頼む」
「了解しました。設計変更……変更完了しました。建設時間の変更はありません」
「さすがわーさん、優秀だな。よし、腹も膨れたし、遊覧飛行でもするか。わーさん、適当に回ってくれ」
「了解しました」
こうして翔太郎は自らが擁する宇宙要塞内部の観光旅行に出かけるのだった。
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