第54話 進化論? とマイホームの候補地
「そうだな、条件といってもザックリとでいいんだろ? ここで駅チカとか買い物に便利だとか言っても意味ないからな」
「はい。無人ですので」
「ん? 10何万年放置してたんだろ? こう、新たな人類に進化したとかないのか? 森ばっかりだし、エルフとか」
「簡易調査では知的生命体の発生は見られておりません」
「簡易? 詳しくは調査してないってことか? マジで放置だったんだな」
「はい。休眠状態でしたので。環境維持が精一杯でした」
「ああ、そうだったな。だが、詳しく調査してないってことは、知的生命体とやらの存在もありえるかもしれないってことじゃないか?」
「可能性はゼロではないとしかいえませんが、今後の調査次第です。しかし、望みは薄いと思われます」
「別に望んでるわけじゃないが、何でだ?」
「創造主様が第三層を創られた当時、移殖した生物は小動物のみ、しかも宇宙の大部分の知的生命体の元になった『猿』系はあえて採用しなかったそうです」
「アーたんは何でそんなことをしたんだ?」
「ここはあくまでも『宇宙要塞』です。自然発生的な知的生命体は必要なしと判断されたようです」
「ふーん。でもさあ、人間だって元を辿ればネズミみたいな哺乳類から進化したって聞いたことあるぞ? 長い時間かければ人間が生まれるんじゃないか? サルからじゃなくても犬や猫から獣人になったりして」
「オーナーのご希望に添えなくて申し訳ございませんが、知的生命体への進化のプロセスは凡そ解明されています。ここではその要素が極力排除されていますから、可能性は低いと思われます」
「……さすが超科学ってとこか? 聞いても俺じゃ理解できないかもしれんが、一応聞いておこう。要素って何?」
「遺伝子に影響を与えるモノ全般です。代表的なのが『放射線』です。これはオーナーが実際に体験した『魔力』も含まれます。ここでは紫外線ですら最低限に抑えております。創造主様の方針に反する『魔力』などは一切受け入れません」
「ファンタジーの塊の神サマの癖に徹底してんな。サブカルとしては認めるっていうだけマシなのか? じゃあ、ここの生き物は進化できないわけだ」
「いいえ。故意に排除できる要素は物質のみです。進化に必要な要素はそれ以外にも『ストレス』や『淘汰』、『突然変異』などがありますから、進化自体を止めることは完全にはできません」
「ストレスって何だよ? そのせいで癌になった身としちゃ気になるぞ?」
「気温や湿度の変化、体調の変化や空腹などでもストレスが発生しますが個体差も関係しますので完全に排除は不可能です。また、完全なストレスフリーも逆に自律神経の失調に繋がりますので自然環境がもたらす分は放置しております」
「ふーん、ストレスも全部悪いってわけじゃないのか。あれ? じゃあ、やっぱり人類誕生の可能性も……」
「ですから、可能性はゼロではないと申し上げました。単に自然発生よりも確率が低くなっているだけです。今後更に百万年、何億年経過すれば確率は上がると予想されます」
「いや、俺はそこまで生きてられないから」
「オーナーが望めば不老処置も出来ます。意識を機械の体に移殖することも可能です」
「宇宙海賊から銀河鉄道に! って、いやいや、俺はそういうのはサブカルだけで十分だ。よし、考えると恐くなるから本題に戻そう。うん、そうしよう」
翔太郎は今更ながら超科学の恐ろしさを知ったのだった。
「そうだな、やっぱり住むんなら日本と同じ環境がいいな。季節がハッキリしてて、春は花見、夏は海水浴、秋は……なんだろ? まあ、いいや。それから冬は雪がないとな。ああ、豪雪は勘弁してくれ。たまにでいい。で、場所は海の近く。そうだな、崖の突端にポツンと小さいヤツが建ってる感じか? いや、崖の上といえば研究所か。バリヤー張って、プールがあってそこからロボットが出てくるのもいいな。今なら実現可能だし……」
「その条件に該当する箇所は1万以上あります」
翔太郎が建物について悩み始めると高性能AIはすかさず流れを戻そうとする。
「一万? 多いな。いや、無人だから少ない方か?」
「はい。ご希望の崖は造成も可能ですので、それも考慮すると更に候補地は増加します。それから大陸ではなく小島となると360度すべてが候補となります」
「あー。造成は無しの方向で。小島は……どうなんだ? なんかアドバイスは?」
「……崖の方向と景観を加味してはどうでしょうか?」
「方向か。どっち向きでも構わんが、どうせなら南向きでいいか。景観ってのは?」
「はい。例えば海に面する方向に島があるとか、山が見えるとか、支柱が目に付かないことなどです」
「……なるほど。えーと、島は無しか、遠くに小さく見える程度で。山は近いと圧迫感がありそうだから無しか、これも遠くに見える感じで。それから支柱な。地球にはなかったからな。考えもしなかったが、これも無しか遠くで。あれ? もしかして光化学迷彩とやらで見えなく出来るんじゃないか?」
翔太郎は数ヶ月の宇宙船暮らしで超科学を体験していたため、そんな発想が出た。
「はい。可能です。しかし推奨しかねます」
「何で?」
「安全性に問題があります。現在は鳥などに被害が出るだけで済むでしょうが、今後オーナーが単独で飛行する機会がないとも限りません」
翔太郎は想像してみた。
自分の知っている高層ビルより巨大な建造物。それが透明だったらどうなるか。
「……わかった。じゃあ、やっぱり支柱からは距離がある場所で」
「了解しました。以上の条件に当て嵌まる箇所は132箇所です。小島は一ヶ所計算にしました。スクリーンに表示します」
翔太郎がスクリーンを見ると、地図の上に赤い光点が表示されていた。
第三層には大陸と呼べる規模の陸地が大小五つ。翔太郎の感覚で日本より小さい島が無数に存在している。その中で、翔太郎の条件どおり北半球に当たる部分の赤道から三分の一北側に候補地があるようだ。大半は諸島である。
「……じゃあ、ここ」
翔太郎はこれ以上考えてもしかたない、或いは、ここはすべて翔太郎の土地なのだから好きなときに引っ越せばいいと考えて適当に指差した。
だが、ある大陸の東に位置する島を選んだのは郷愁のせいかもしれなかった。
「更に詳しい位置を決定するために地図を拡大しますか? ホログラムで立体映像を出しますか?」
「うーん……この目で見たい。ここから時間がかかるか?」
「一時間ほどです」
「早いな。それも超科学か?」
「いえ。ここは要塞の中心部です。目的地に一番近いエレベーターの乗り口までの距離が第三層に比べて短いのです」
「えーと……ああ、なるほど。じゃあそれで」
考えてみれば小学生レベルの問題だった。バカ正直に地表を進まずともいいのだ。まあ、今乗っている宇宙船モドキのエアカーなら光速も出せそうだが。
「了解しました。それでは発進します。スクリーンは前方の視覚情報に切り替えますが、ご要望がありましたらお申し付けください」
「わかった」
こうして翔太郎はここに来たときと同じように複数のエレベーターを乗り継いで第三層に向かうのであった。
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