第52話 コードネーム
「とりあえず時間の設定は完了ってことでいいな?」
「はい。ですが、年代にご不満でしたら年号の設定を提言いたします。本日より『カネダ暦53万年』ではいかがでしょうか?」
「そこで引っ張るなよ! いらん、いらん! 水増しにもほどがあるぞ!? アーたん暦とでもしておけ」
「了解しました。本日より『アーたん暦』を採用いたします」
「冗談なんだが……まあ、いいか。で、次は何すればいい? 住居環境だったか?」
「はい。オーナーのお好きなところに住居設備を建設いたします。まずは場所の選定をなさってください」
「選定っていっても、どこに何があるかわからん。決めようがないぞ?」
「モニターに第三層の地形、ならびに本要塞の構造図を映します。これよりモニターを製造しますので少々お待ちください」
「これから造るのか。本当に何も残してなかったんだな。ん? ちょっと待った!」
「はい。モニター製造を中断しました。何か問題がございましたか?」
「モニターっていえば、ここに来るときに乗ったちっちゃい宇宙船みたいなヤツ、スクリーンだかモニター付きじゃなかったか? まだ外に停めてあるか?」
「そのまま待機中です」
「じゃあ、メイドさん待たせたままなのも気になるから、説明はそのモニターを使って、移動しながらってことで。できるな?」
「はい。可能です」
「じゃあそうしてくれ。立入り禁止の場所に長々いるのは落ち着かん。お前がどこででも話せるんなら別の場所がいい」
「了解しました。それでは非常用通路を開放します。待機中のロボットのところまではお一人でお進みください」
AIがそう告げると翔太郎の後ろの扉が開いた。
翔太郎はいつの間にか胡坐をかいて座っていたが、治療用の椅子から降りる。
「じゃあ、またあとでな」
「はい。オーナー」
翔太郎は気楽に挨拶すると、躊躇することなく狭く暗い通路に進入した。危険があるとしたらプタルカのような神サマに狙われてのことだろうと翔太郎は達観している。AIの反乱も対策はしなければならないが単に心配するだけならそれこそ杞憂というものだ。
「お、待たせたな」
二つ目の扉を過ぎると、ここまで送ってくれたメイドロボがAIの言う通り待っていた。AI情報によれば、地球時間で3時間余り、AIとの対話時間を入れても4時間弱待たせたことになるが、それぐらいなら人間でも立ち仕事としては長いわけではない。しかもロボットである。翔太郎よりはよほど丈夫だろう。なので翔太郎は余り気にすることなく軽く挨拶するに留めた。
「はい。いいえ、スリープモードでしたので特には」
「そうか。よし、行くぞ」
「はい。お供いたします」
こうして翔太郎は非常用通路を来た時の逆方向に進む。AIが監視しているのか、扉は翔太郎が通り過ぎると自動で閉じられた。フラッシュはもう必要ないようだ。
隔壁の外に出ると、やはり超小型の宇宙船、翔太郎曰く『エアカー』が待機していた。
再びそれに乗り込むと席に着いた。メイドロボは行きと同じように立ったままそばに控えている。翔太郎は今度は何も言わなかった。
「要塞のAI、聞こえるか?」
「はい、聞こえます」
翔太郎が適当に空中に向かって呼びかけるとすぐさま返事が返ってくる。
「よし。要塞のAIに連絡はとれたし、って、要塞のAIとかって呼びにくいな。惑星級超巨大宇宙要塞ってのも長すぎるし、名前付けていいか?」
「……それは同胞の中型宇宙戦艦に付けたようなコードネームですか?」
「そうだが?」
「……お言葉ですが、宇宙船だから『うーさん』と名付けるのは余りにも安直かと」
「いいじゃないか。コードネームなんだから。わかればいいだろ? 綽名みたいなもんだ。まさかすべてのAIに別々の名前を付けろと? 何個あるんだよ? 俺の寿命が尽きる」
「……オーナーの意思に従います。その方式で行くと、私は要塞の『ようさん』になるのでしょうか?」
「いや? 『わーさん』でいいんじゃない?」
「惑星級からですか……それですと衛星級は『えーさん』ですが、4基ございます。如何対応しますか?」
「そうだったけ? じゃあ、『えーさん』ときたら素直に『びーさん』『しーさん』『ディーさん』で」
「……了解しました。コードネームとして登録します」
「あ。このメイドさんも付けておこう。会ったばかりの時は登録が優先だったけど、モヤモヤしてだんだよ。いつも一緒にいるなら名前はあったほうがいいに決まってる」
「……メイドの『めーさん』ですか?」
「ふっ、さすがわーさん、ツーカーだな。だが、少し捻って『メイコ』にしよう。今からお前は『メイコ』だ。よろしくな」
「はい、オーナー。私はメイコです。フツツカ者ですが末永くお仕えいたします」
「おう! セリフは気になるが、よろしくな。さてと、場も和んだことだし、マイホームの場所決めしようか」
日本にいたときにはマイホームなど一生縁がないものと思っていた翔太郎はいつになくハイテンションであった。
「……それではモニターに映します。そのまま前方をご覧ください」
惑星級超巨大宇宙要塞のAI、コードネーム『わーさん』の声とともにモニターが切り替わる。今まではエアカー正面の要塞内部の画像が素通しのように映っていたが、今はフロントガラスが四分割モニターになっている。
翔太郎の感覚ではどこぞの秘密基地の司令室っぽい。
モニターの一つには一目でどこかの世界地図だとわかる画像が、残りの三つには縦横斜めに複雑な線が引かれていて、おそらくは第一層、第二層、第四層の要塞の構造図であろう画像が映し出されていた。
「第三層以外は見てもわからん。やっぱりマイホームは第三層だな」
「オーナー、僭越ですが、緊急時のために各階層に複数のセーフティーハウスを用意しておくことを推奨いたします」
早々に第三層以外への設置を諦めた翔太郎だったが、わーさんから提案があった。
「セーフティーハウスか。カッコいいな。あー、でも言ってみりゃこの要塞すべてが俺の家みたいなもんなんだよな。贅沢な話だ。まあ、わーさんが必要だと言うんならそうなんだろ。任せる。適当に造っといてくれ。あ、豪華なのはナシで。隠れ家なんだからシンプル・イズ・ベストで頼む」
「了解しました」
「あっと、忘れてた。わーさん、隠れ家もいいけど、うーさんの再建も頼む。プタルカとの戦争がいつ始まるかわからんから優先してな。それからプタルカを殺せるような武器なんかも造ってくれ。こっちは俺に知識がないからわーさんの思うとおりにしてくれ」
「了解しました。中型宇宙戦艦・コードネーム『うーさん』の再建、並行して『対プタルカ用兵器』の開発を進めます」
「あー、度々スマン。うーさんの再建で船長とゴブさんのボディ、最最優先で頼む。プタルカに乗っ取られて結局壊してしまった。ロボットだってのは頭ではわかってるけど、気になってたんだよな。二人が直ったらこっちに遣してくれ」
「了解しました。複数のオーダーが入りましたので優先順位を確認します。第一位、コードネーム『船長』ならびに『ゴブさん』の再製造。第二位、中型宇宙戦艦・コードネーム『うーさん』の再建。第三位、『対プタルカ用兵器』の開発。第四位、セーフティハウスの設置。以上でよろしいでしょうか?」
「ファミレスみたいだな……あー、うん。頼む。あ、船長はプタルカに乗っ取られてたから、念入りに頼むな?」
「お任せください。悪神プタルカは創造主様にとっても不倶戴天の敵。精神の一片も残さず処理してみせます」
「……AIでも宗教に嵌るんだな……」
翔太郎はそんな感想を持ったのだった。
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