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第51話 そこまで物知らずじゃないわ!


「まあ、これからは誰かお供と一緒にいるよ。あ、お供といえば案内してくれたメイドロボットはどうしてる?」


「あの機体でしたら通路内で待機中です」


「待たせてるのか。立入り禁止だし、ロボットだからしょうがないのか? あ、そういえば、どれだけ待たせてる? 俺、何時間寝てた? っていうか、うーさんがここに到着してからどれぐらい時間が経ったんだ? 登録してから説明するって言われた覚えがあるが……」


「住居環境を優先しようと提案しましたが、優先順位を変更しますか?」


「え? 時間を聞いただけで、そんなに大事《おおごと》なのか?」


「時間の単位は絶対的なものではありません」


「……もっと簡単に説明してください……」


「……惑星によって一日の長さが違うのです」


「……なるほど?」


「……オーナーは公転周期と自転周期をご存知ですか?」


「なんか哀れみを感じるが、そこまで物知らずじゃないわ! 知ってるわ!」


 超高性能のアーテラス謹製のAIの説明は翔太郎の知識に合わせて行われた。

 簡単に言うと、自転周期が違えば同じ一日という単位でも長さが違う。その上24時間制や12時間制、はたまたそれ以外の時間制を採用する惑星ごとに一時間の長さが違ってくる。公転周期が違えば一年の日数だって惑星それぞれで変わってくるのだ。


 生まれてから死ぬまで一つの惑星に暮らすのならその惑星の固有時間だけで事足りるが、宇宙に飛び出し他惑星と交流しようとすると時間の単位で齟齬が発生する恐れがある。交流する惑星の数が増えれば増えるほど齟齬は煩雑になるだろう。こうなると共通の単位が必要だ。


 アーテラスが属するSF派の管轄では、何度か話に出てきた『星間連盟』があるが、そこでもこの問題は過去に取り沙汰されて、現在は『星間連盟標準時間』、略して『連盟時間』と呼ばれる基準が設けられている。これは、いつか説明するかもしれないが、『星間連盟主要言語翻訳データ』ならびに『星間連盟加入星系座標データ』とともに連盟に属する惑星の星間航行可能な宇宙船に搭載が義務付けられている。搭載が義務付けられたデータは他にも数多くあるが、とくにこの『時間』『座標』『言語』は星間連盟で『三種の神器』として重要視されているらしい。


「なるほど、絶対的な基準がないなら、身内だけででも基準を作ってしまえ、ってことか。どこかに銀河帝国標準時間もありそうだな。で? 結局俺はどうすればいいんだ?」


「はい。この要塞はデフォルトで創造主様の出身惑星の固有時間に設定されています。オーナーは自由に変更できますが、お勧めの設定は三つあります。デフォルトのままか、星間連盟標準時間か、オーナーの出身惑星時間か、です」


「時間の設定ねぇ?」


 翔太郎はパソコンかスマホの新規購入を思い浮かべるのだった。


「その三つのメリットとデメリットを教えてくれ」


「はい。デフォルトのままでしたら再設定の必要がないという点と、第三層の原生林への影響もゼロだという点がメリットになります。デメリットとしてはオーナーの時間に対する感覚が違うので慣れるまで毎回地球時間に変換しなければならないということです」


「あー、確かに毎回毎回じゃあ計算が面倒だな。ちなみに俺の聞きたかった質問は三つの時間でいうと何時間だ?」


「はい。オーナーが到着されて第三層で目覚めるまでの時間は、地球時間で約8時間、デフォルトの現地時間で約7時間、星間連盟標準時間で約7時間30分です。ちなみに、偶然ですがどれも24時間制です」


「見事にバラけてるな。確かに基準を決めないとややこしい。あれだろ? 例えば地球のカップ麺、3分は3分でもこの要塞の3分だと伸びちゃうってことか?」


「……概ねそのとおりです」


「あ、カップ麺で思い出したんだが、俺、確か意識を失う前はかなり空腹だった気がする。8時間も寝てたら更に酷くなってると思うが。しかもここでも寝てたんだろ?」


「ご安心ください。オーナーの生体調整中に必要な栄養素を投与してあります。交感神経も副交感神経も正常ですから現在空腹を感じることはないでしょう」


「なるほど、納得いった。ちなみにここで寝てた時間は? ああ、地球時間だけでいいぞ?」


「はい。約3時間余りです」


「……コンピューターの立ち上がりに3時間は長いというべきか、巨大要塞としては早いと言うべきか。わからんが、とにかく俺がここに来てからざっと12時間ぐらいか? 結構時間が経ってないんだな。まあ、プタルカについてはアーたん次第になったからどうでもいいっちゃいいんだが……おっと、話の腰を折って悪かった。説明の続きを頼む」


「はい。かしこまりました。星間連盟標準時間を設定するメリットですが、現段階ではオーナーは加盟しておりませんので無意味です。ですが、将来加盟、もしくは交流の予定がありましたら少なくとも宇宙船に搭載が義務付けられます。その場合本拠地となるでしょう本要塞とシンクロしていると便利ではあります」


「なるほど」


「そして、先に地球時間を設定した場合のメリットの説明になりますが、これは完全にオーナーの精神的負担の軽減のみです。現時点で一番理解しやすいというだけですが、要塞内部で一生生活するとしたら一番の選択でしょう」


「いや、拠点はともかく今更引き篭もるつもりはない。ともかく、デメリットも教えてくれ」


「はい。連盟時間と地球時間に設定変更するデメリットは、デフォルトのままのメリットの裏返しです。つまり、第三層に広がる原生林の生態系に影響が出る可能性があります」


「アレか、日照時間が変わるとかだな? デフォルトの方が地球より一日が長いんだっけか?」


「はい。デフォルトが最長で地球が最短です。一年の長さもデフォルトが最長で地球が最短となっております」


「そうか。一年の長さまで違うんだな。ちなみにどれぐらい?」


「デフォルトの一年は432日、連盟時間での一年は360日です」


「結構差があるな。こりゃ確かに変更すると影響がありそうだ。恐竜の絶滅レベルか?」


「僭越ですが、今すぐ決めなくともよろしいかと」


「確かにな! だが、惑星ごとに時間が違うってのならそこを訪れる度に毎回毎回時間の翻訳? は必要なんだろ? じゃあ、この要塞も地球とは違う惑星だと思えば不思議じゃないな。よし! 決めた! 第三層はデフォルトのままで! 環境破壊は恐いからな!」


「わかりました。ですが、第三層は、ということはそれ以外も採用するということでしょうか?」


「さすがAI。ツーカーだな。ああ、宇宙船とかは連盟時間を採用してくれ。いずれ慣れなきゃならない。地球時間は封印して二つの時間を使っていこう」


「了解しました。現時点より第三層以外は星間連盟標準時間を採用します……再設定、完了しました」


「早いな! まあ、それで頼む。で? 今は何月何日とかあるのか?」


「はい。デフォルト時間は創造主様が設定されたものです。現在は132022年3月21日16時22分になります」


「は? 13万とか言ったか? 万!?」


「はい。本宇宙要塞が建造されてからの年数になります。年号などはございません」


「……マジでスケールでっかいわ。13万年って地球の何十万年だよ? 53万か? 超古代文明にしてもブッ飛びすぎじゃね?」


「オーナー、地球時間に換算して17万年余りです。53万年ではございません」


「……冷静な回答、ありがとう?」


 アーテラス並みの反応がなかったのが少し寂しい翔太郎だった。


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