第48話 僕だよ、僕
何枚目かの扉の前、メイドロボットの行動が変化した。
「この先はオーナーお一人でお進みください」
「わかった」
メイドロボの言葉から次がメインコンピューターだろうと当たりを付ける。
そう思い扉を開けると当てが外れて同じような通路が続いていた。どういうことかとメイドロボに尋ねようとしたが後ろの扉はすでに閉じられている。
仕方なく進むとこれまでの通路とは違いが見られた。通路の先に扉があるのは同じだが、扉の手前に椅子が置いてある。椅子といっても宇宙船の艦長席のようなものだ。地球人の感覚で言うと『歯医者さんの治療用の椅子』といってもいい。
「よくぞいらっしゃいました。最終チェックの後登録を行ないますので椅子にお掛けください」
メイドロボの声ではない、三層のベッドがある部屋で聞いた宇宙要塞自身の声だ。
翔太郎は聞きたいことが山ほどあったが、登録を優先させるため黙って椅子に座る。
「最終チェックは脳の隅々まで検査いたしますのでしばらく意識がなくなりますがご了承ください」
何か恐ろしいことを言われたが、ここまで来て怖気づく翔太郎ではなかった。だが、希望はハッキリと告げる。
「それはかまわんが、脳みそにダイレクトに何かをインストールするのはやめてくれ。俺のちっぽけなプライドだ」
「……わかりました。マイクロチップの拡張でアレンジします」
「よろしく頼む」
翔太郎が最終的な了承の言葉を告げると、翔太郎の頭に何か被せられた。チラリと見るとヘルメットよりも大きな半球状の機械だった。
(ははっ、歯医者さんだと思ったらパーマ屋さんだったか……)
そんなことを考えていると翔太郎の意識は薄れていくのだった。
◇ ◇ ◇
(もしもし? タローくん、聞こえるかい? 僕だよ、僕)
『……お前はネタに走らんと死んでしまう病なのか?』
翔太郎の意識が戻った。きっかけになったのがどこぞで聞いたようなセリフなのが目覚めスッキリといかない点だが。
(あははは。精神状態もバッチリのようだね)
『そりゃどうもありがとうよ。それより、もう会うことはない、とか言ってなかったか?』
(声だけなんだから会うとは違うよ。何だか遠距離恋愛みたいだね? キャハッ)
『世の中の遠恋してる人たちに謝れ! ところで、目も見えないし体も動かんが、また治療槽とかに入れられてるのか?』
(椅子に座ったままだよ。肉体と精神が切り離された状態だからね。意識はあっても身体は動かないさ。何というか、植物状態?)
『おいおい、まさかこのまんまってことはないだろうな?』
(あははは。それこそまさかだよ。登録は無事済んだけど正式再稼動のため要塞全体をチェックしたりしてるんだ。規模が規模だし、何万年も放っといたからね、時間がかかるのはしょうがないよ。チェックが済めば起こしてもらえるから少し待っててよ)
『……昔のコンピューターの立ち上がりが遅いようなもんか……』
(ヒドイなー。確かに古いけど、常にアップグレードしてるから古くないんだよ?)
『意味がわからん。それより、何万年って言ったか? 千年じゃなくて?』
(ああ、それね? 千年は僕がプタルカに封印されてた時間だよ。この要塞を造ったのは僕が神になる前なんだから軽く十万年以上前のことだね)
『軽くはないな。神サマ、ハンパねえ』
(あははは。僕なんかまだペーペーの新人だよ?)
『しかし、そんだけ昔のことなら何で後継者がいなかったんだ?』
(いやいや、要塞をポンとあげるワケないでしょ? まあ、隠し財産みたいなものかな? いざって時のために。ほら、今回がまさにそうでしょ? これがなかったら僕もタロー君も死んでたし)
『……確かに助かったが……助かったといえば、アーたんがここに来れたってことはプタルカは片付いたってことか? 俺への依頼はもう終りか?』
(あー、それね? 記録は見せてもらったよ。分体とはいえよく倒せたね? ステータスが見れたら『神殺し』なんて称号がついてたかもね?)
『そんな称号はいらん! それでどうなんだ? 本体はどうなった?』
(えーと、言いにくいんだけど、逃げられました……)
『は?』
(ほんと、「は?」だよねえ? 僕も同じ気持ちさ)
『くわしく』
(あー、うん。キミが結界を破って救難信号を流してくれたおかげで派閥の仲間に連絡が着いたんだ。僕はプタルカの本体が惑星に留まったままだったから出て行くことはできなかったけど、一番近くの星系の仲間が来てくれてね、キミが惑星の魔力を減らしてくれたおかげで惑星の結界もすぐには修復できなかったみたいで、異常に気付いてくれたんだ。で、さらに仲間が集まって来て惑星の結界を完全に取っ払ってくれてね、そこでやっと僕も合流できたんだよ。いやー、僕が生きてるって知ったプタルカの顔、タロー君にも見せてあげたい。あ、あとで映像データ送るね?)
『それは見たいが、それからどうなった?』
(あー、うん。そこからが情けないことなんだけど、プタルカのヤツ、生き証人の僕がいるからだと思うけど、さっさと逃げ出しちゃったんだよ。派閥の仲間も事情がわからないから追いかけてまで捕まえようとはしなかったしね。こんなことならプタルカが仲間に言い訳しているうちに完全包囲されるまで姿を現さなきゃよかったよ……)
『言い訳って、できるモンなのか?』
(ファンタジー派は口が達者だからねー。僕が死ぬ前に惑星を譲渡されたとか、ファンタジー派に寝返ったとか、死人に口無しだよ。そう言われてしまえばいくら派閥が違っても直接手出しはできないからねえ)
『なるほど。神にもルールはあるわけだ』
(それはそうさ。だからプタルカも惑星に結界張ってこそこそしてたわけだし。まあ、ルールというよりは大戦争になってもメリットが少ないからね、お互い関わらないようにしてるっていったほうがいいかな?)
『なるほどな。で? 逃げられた後どうすんだ? 俺への神殺しの依頼、継続か? 完了か?』
(うーん、どうしようかねえ? 曲がりなりにも神の分体を倒してくれたし、こうして僕も結界から脱出できて仲間と合流できたからねえ。依頼達成と看做していいと思うけど、もう少し手伝ってほしいかなあ……)
『かまわんぞ? 俺だってプタルカの野郎には頭に来てるんだ。最後まで付き合うぞ』
(ホント!? うれしいなあ。人手不足で困ってたんだ。じゃあ、二つから選んでね? あ、報酬も別に出すよ? 今度は惑星一ヶでどう?)
『惑星もらって俺にどうしろと? 人手って神サマたちのことか? 俺は神サマじゃないんだが? 自分で何を言ってるかわからん』
(あははは。まあ、いいじゃない。報酬の惑星ってのはプタルカの本拠地か僕の担当してた惑星アーテラスのどっちかだよ? 神サマの仕事はしなくていいから、単に土地の所有者ってことさ。星間連盟には惑星をいくつも所有してる『普通の人間』もいるよ?)
『それは普通とは言わん! 俺は宇宙船だけでも持て余しそうなんだぞ? そこに惑星級の宇宙要塞に本物の惑星? しかも住民付きなんだろ? そんな報酬いらんわ!』
(まあまあ。そんな興奮しないで。じゃあ、報酬は置いとくとして、新しい依頼を先に説明するね?)
【作者からのお願い】
「面白かった」「続きが読みたい」と思われた方は下記にある【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。




