第47話 ドンと来い
翔太郎は支柱までの空の旅を楽しんだ。数十分ほどだったが十分堪能した。たとえ森しか見えなくともだ。何しろメイドさんが聞いたことを何でも教えてくれる。楽しくないわけがない。
時間的に簡単な質問ばかりだったが、わかったことは、今いる森は第三層に当たり、二重の外殻に包まれている。第二層は格納庫や造船所などの軍事施設で、第一層は強固な防衛設備が満載だそうだ。
翔太郎が防衛設備といわれてもミサイルやレーザー、その他のトンデモ攻撃兵器を思い浮かべるのはアーテラスの人徳? のおかげだろうか。
要塞の大きさは第三層が地球サイズで第一層となるとその何倍にもなるという。『惑星級』の名に恥じない大きさだ。
何故翔太郎が第一層でも要塞中心でもなく中途半端な第三層で寝かされていたのかを聞くと、デフォルトで重力と大気成分が翔太郎に適しているのが第三層だったからとの答えだ。納得するしかない。
支柱の複数個所ある入り口の一つから侵入した翔太郎の乗る超小型宇宙船ともいえるエアカーは支柱内部の通路を進み、ある場所で停止した。
翔太郎がここでエアカーを降りるのかと思っていたら、すでにエアカーごとエレベーターの中で下降中だそうだ。
エレベーターといえば上昇時にはGが掛かり、下降時には一瞬内臓がヒュンとするものなのだが、翔太郎には何も感じられない。外の景色が見えないものだから動いているのかどうかさえ怪しいのだ。
そのことをメイドロボに聞くとエアカーにもエレベーターにも重力制御の機能があるとの何ともシンプルな答えだった。
翔太郎も「なるほど」とシンプルな感想しか出てこない。超科学に関しては、習得はまだまだだが、驚き、信じられないと拒絶する段階は克服している。あとは知識の差を埋めていく作業だ。
第三層から要塞中心までの距離は地球と同じというなら約6300キロだ。時速60キロの車ならノンストップでも100時間以上かかる。時速300キロの新幹線でも20時間だ。
だが、メイドロボによると1時間足らずで到着するという。
原理を聞いてみると翔太郎にも理解可能で、エレベーターはワイヤー式ではなく真空チューブの中を重力制御で進むらしい。理論上は光速に達する、高速エレベーターならぬ『光速』エレベーターであった。
しかし、これはあくまで理論値であって、距離の問題もあり精々音速がコスト的にもベストだそうだ。それに保安上直通のエレベーターはなく、何度か乗り換える必要もある。翔太郎は気が付かなかったが、翔太郎が目を覚ました部屋も支柱の内部にあり、そこは第二層に通じるエレベーターがある。下層に移動するためには一度第三層地表に出て別のエレベーターに向かう必要があったのだ。
それでも短時間に移動できるのはありがたいと思う翔太郎であった。
「オーナーが登録して正式稼動すれば転送装置も使えますよ」
「そういえばそうだった」
惑星アーテラスで中型宇宙戦艦『うーさん』の転送装置を実際に使った経験はある。しかしあの頃は絶賛エネルギー節約中だったので数えるほどしか使っていない。しかも茶番に出演することで受けた精神的ダメージが超科学テクノロジーのすごさを上回った。
宇宙船がワープするときもプタルカからの逃亡中だったので、のん気に「ワープすごい!」などとはしゃいでいる余裕もなかったのだ。
要塞中心到着までの1時間、翔太郎はメイドロボに更なる情報を求めた。第三層は森しか見えないとはいえ風景が見られるだけマシだったが、現在はエレベーターの壁しか見えなくて手持ち無沙汰なのだ。
まず聞いたのはメイドロボの名前だ。
答えはシリアルナンバーのみ。これは翔太郎の予想の範疇だった。面白いのはこのメイドロボは翔太郎が目覚めてから製造されたという点だった。
技術力の高さに感心はするが、何故わざわざ新造する必要があるのか? ロボットは常備していないのか? と聞くと、お定まりの『休眠状態だから』とのことだ。
話の繋がりが見えない翔太郎は『休眠状態』についても聞いた。何故『休眠状態』だとそうなるのかと。
メイドロボの答えは『休眠状態』は完全な停止状態とは違うとのことだった。宇宙要塞は定期的にメンテナンスされ常に最高の状態を保っているという。『人の住まなくなった建物は荒れる』理論だな、と翔太郎は納得した。
ロボットの新造については、稼動状態のロボットはそのメンテナンスに必要な種類のみで、それ以外はデーターのみ保存され機体はエネルギーに還元されたそうだ。この度翔太郎が来訪して世話係として必要になったので急遽製造したのだという。
翔太郎はその答えを聞いて人間との感覚の違いに愕然とする。先ほど翔太郎の乗っていた中型宇宙船『うーさん』と『船長』『ゴブさん』たちが分解処分されたと聞いたときも衝撃を受けたが、この宇宙要塞のロボットたちもそんな目に遭っていたのかと。
反射的に人間としての感情が顔を覗かせたが、翔太郎とて数ヶ月もAIと暮らしてきて理解したといえば理解しているのだ。AIに感情はない。仮にあったとしてもデーター至上主義で肉体ならぬ機体に執着しないだろう。やはり人間とは違うのだ。
翔太郎はアーテラスの説明を思い出した。
肉体を捨てて『精神生命体』になることがすなわち神だ、と。AIも似たようなものかもしれない。
そういえば、と翔太郎は更に思い出す。
「なあ、アーたんから……神サマから連絡は来たのか?」
「申し訳ございません。そのデーターは共有されておりません」
このメイドロボ、メイドらしく人間の身の回りのこと、ガイド的な要塞のスペック以外はインストールされていないらしい。随時中央コンピューターなどに問い合わせることはできるが、やはり『休眠状態』がネックらしく、得られる情報は最低限に抑えられている。
「結局登録してからか。まあいいさ。あとちょっとなんだろ?」
「はい。まもなく最下層に到着します。お手数ですがそこからは徒歩での移動になります」
「OK、OK。ドンと来いだ」
メイドロボの言葉通り最下層に着いたらしい。エアカーがエレベーターから出ると少し進んで壁際で停まった。
翔太郎は降車を促される。
翔太郎がエアカーから降りると壁の一部が音もなく開いた。高さ2メートルほど。エアカーは進入できそうもない。
メイドロボが先導し、翔太郎が後に続く。
壁の入り口の先はやはり高さが2メートルほどの狭い通路だった。要塞の大きさに比べ狭すぎるだろうと思ったが、緊急通路か整備用通路かもしれないと口には出さないでおいた。
通路には頑丈そうな扉が幾重にも存在していた。そこに差し掛かる度に翔太郎はカメラのフラッシュのような光を浴びせられた。
メイドロボによると侵入者チェックだそうだ。翔太郎が本当の翔太郎かを確かめるのもあるが、姿を消した侵入者がいないか、または精神生命体が潜んでいないかを確認するとのことだ。これは翔太郎も大げさだとは思わない。何せ逃避行中プタルカの分身とやらに『船長』ロボが乗っ取られた経験があるからだ。宇宙要塞の最重要区画に連れ込んだりして要塞そのものを乗っ取られたらコトだ。
気が済むまでチェックすればいい、と翔太郎は思ったのだった。
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