第46話 お目覚めですか? 新たなご主人様
「……知らない天井だ……」
「お目覚めですか? 新たなご主人様。それともオーナーとお呼びした方がよろしいですか?」
翔太郎は目を覚ますとヤケに意識がクリアだったのでベタなセリフを口にする余裕もあった。
そのセリフを言い終わるやいなや声をかけてくる者があった。
翔太郎は身体を起こし辺りを見回す。
が、ドアも窓もない広い室内に大きなベッドがポツリと置かれているだけで翔太郎以外に人はいなかった。
翔太郎はすぐに状況を把握した。
だてに何ヶ月も宇宙船の中で独りっきりで暮らしていたわけではない。
「AIか? うーさんじゃないよな? 要塞か?」
「はい。創造神様のお呼びになるところの『惑星級超巨大宇宙要塞』のAIにございます。新たなご主人様」
「ああ、オーナーで頼む。ここは要塞の中だよな。俺は何時間眠ってた? いや、そもそも、いつのまに眠っちまったんだ? 確か……」
「オーナー。その件は後で詳しく説明いたします。その前に登録をお願いできますでしょうか?」
「ああ、一番でっかい要塞に登録すれば一回で済むんだったな」
「はい。パフォーマンスも最大限向上しますからオーナーのお役にも立つと思います」
「わかった。まずはそうするか。ここでできるのか? それとも、ブリッジみたいなところに行くのか?」
「はい。現在休眠状態ですので、申し訳ありませんが初回登録は中央第一制御区画でお願いします」
「わかった。案内を頼む。おっと、服も頼むな」
裸でベッドに寝かされていたことに今更気付いた翔太郎だった。
「はい。ただいま案内役とお召し物を用意します。お召し物のリクエストはございますか?」
「とりあえずだから、なんでもいい。ていうか、今まで着てたのは?」
「申し訳ございません。分解処分いたしました」
「え? なんで?」
「我が同胞と創造主様からの情報により、悪神・プタルカからハッキングされるなどの可能性があると判断しました。外部からの物品はすべて破棄案件です」
「外部からって、俺も外部から来たんだが……」
「オーナーは脳内チップにより保護されております。生体部分だけですので義手は交換しております」
「え? あっ、抜けない?」
翔太郎が左腕を確認してみたところ、アーテラス謹製の『サイコーガン』は一般の義手に替わっていた。
そして翔太郎にある懸念が浮かび上がる。
「……ちょっと待て。外部からのもの全部処理って、うーさんは? 船長たちはどうなった!?」
「すべて分解処理いたしました」
「おいっ!」
翔太郎の悪い予感が当たってしまった。
人間ではなかったが、数ヶ月も一緒に過ごし、一緒にプタルカと戦った、いわば戦友なのだ。
それが翔太郎がのん気に寝ている間に分解処理とは。
納得できるものではなかった。
「ご安心ください。あくまでもハードウェアに関してです」
「ハード?」
「はい。AIの記録はすべてバックアップが取られています。現在私は休眠状態ですのでチェック機能も十全ではありません。何十にも隔離してあります。彼らの再構築を望まれるのでしたらオーナーの登録が必要です」
「ハーッ……まだ慣れないが、AIだからメモリーさえあれば、ってことか……」
地球レベルの科学力とのギャップが激しいのはこの数ヶ月で思い知ったが、凡人感覚が抜けきらない翔太郎であった。
「……わかった。うーさんたちのためにも早く登録しよう」
「我が同胞のためにそこまで思っていただき、ありがとうございます。ただいま案内役が到着いたします」
要塞AIが告げると同時に壁が開いた。というより、扉が壁に偽装されているのだろう。
そして翔太郎の感覚ではメイドとしかいえないような女性が入ってくる。
見た目からはとてもそうは思えないが、人間でないことはわかっている。
「ロボットか?」
「はい。お着替えをお持ちしました」
一応確認したものの、流暢に肯定してきた。違和感はもう覚えない。
翔太郎はメイドロボに手伝ってもらい新しい服に着替える。
服は地球人から見ても何の変哲もないシンプルなものだった。おそらく翔太郎の記憶でも読み取ったのだろうと細かな疑問はスルーすることにした。
「オーナー、その者が中央第一制御区画までご案内いたします。そこでお目にかかるのをお待ちしております。それではまた後ほど」
着替え終わると、要塞AIから声がかかった。
「ああ。今すぐ行く。じゃあ、メイドさん、案内よろしく」
「はい。ではこちらに」
メイドロボに従って部屋を出ると乗り物が停まっていた。地球人から見ると近未来的な超小型宇宙船といったところだ。
部屋の外も屋内だったが、ここが宇宙要塞なのは承知の上。アニメやSF映画で見たとおりなら何の不思議もないのだ。
「これに乗るのか? 転送装置的なのはないのか?」
「申し訳ございません。ただいま休眠状態ですので」
「ああ、装置はあることはあるんだな。いや、歩かなくて済むだけありがたいからこれで問題ない」
翔太郎は進められるがままにエアカー的な乗り物に乗り込む。
マイクロバスぐらいのサイズで、中は立って歩ける。前面は大きなフロントガラスがあるが運転席のようなものはない。代わりに、まるで応接室のようなソファーとローテーブルがあるのがシュールだ。これは完全コンピューター制御なのだろうと自己完結する。
ドアが閉まるとエアカーはすぐに走り出した。翔太郎はシートに座ったがメイドロボは立ったままである。おそらく独立したAI付きの乗り物なのだろう。
「おおっ? 森? 何で外? 要塞じゃないのか?」
しばらく屋内を走っていると突然視界が開け、翔太郎は意外な光景に驚きの声を上げた。
翔太郎が叫んだように、エアカーの窓の外には森が広がっていた。
翔太郎の声に合わせるかのようにエアカーは上昇する。
翔太郎の視点が上がっても、森は果てしなく続いているように見えた。
「メイドさん、どうなってる? ここは要塞の中じゃないのか?」
窓ガラスがスクリーンになっていて環境映像が映し出されているのでは、とも思ったが、自身の科学知識では判別できないことは素直に質問する癖がついた翔太郎だった。
「はい。オーナー。ここは間違いなく『惑星級超巨大宇宙要塞』内部でございます」
「じゃあ、やっぱり映像なのか?」
「その答えは『はい』でもあり『いいえ』でもあります」
「アーたんみたいな答えだな。説明してくれ」
「はい。この窓は確かにスクリーンになっておりますので、映像には違いありません。ですが、映し出されている光景は船外の風景そのままです」
「あ、そういうこと……え? じゃあ、要塞の内部に森があるってこと?」
「はい。そのとおりでございます」
「はー。たいしたもんだ。じゃあ、あの空は?」
「天井がすべてスクリーンとなっております。映像は合成されたものですが」
「スケールがでっかい! ん? あの細長いのは何だ? 軌道エレベーターか? それともカリンタワーか?」
「エレベーターも設置されていますが、外郭を支える支柱の一本です。目的地までのコースになっております」
「支柱なあ……ほんとスケールがでっかいな。あれ一本てわけじゃないんだよな」
「はい。1万本ほどあります」
「……ウニみたいだな。いかん、想像したら食いたくなってきた。メイドさん、ここに海はあるのか?」
「ございます」
「よし! 海の幸ゲット!」
翔太郎が喜んでいるとエアカーは支柱に到着する。
翔太郎が地球で見たどんな高層ビルよりも太く高い。
エアカーはその支柱内部に侵入していくのであった。
【作者からのお願い】
「面白かった」「続きが読みたい」と思われた方は下記にある【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。




