第45話 木星?
「なあ、うーさん。プタルカ追いかけて来ないな……」
「はい。センサー最大範囲に反応はありません」
「俺たちを見失ったか? それとも、さっき通信してきた連盟の人たちがもう倒してしまったとか?」
「申し訳ありません。データ不足です」
「うーむ。しゃーない。状況が変化するまでエネルギーの回収しておくか」
「そうですね。ここまで来たら任務は達成したと思ってよろしいでしょう」
「うーさん。そんなこと言ってるとフラグ立つから」
翔太郎たちは目的の惑星系外縁部に辿りついていた。
派閥が違うことでAIにも正確な予測ができず、翔太郎もネット小説などのいい加減な知識しかないものの、プタルカの襲撃パターンはいくつも想定された。
ただし、翔太郎が実際に対処できるのは、プタルカが翔太郎の捕獲を優先したときだけだ。神の力を目一杯振るわれた即死攻撃など不運と諦めるほかない。
捕獲の場合も、物理的にエンジン系を破壊されても翔太郎にはお手上げだ。
しかし、生きてさえいれば口八丁で時間を稼ぐことも出来る。
実際のプタルカの襲撃はロボットを乗っ取るというやり方であった。
どうやら魔法による力技だったようで、宇宙船のAIそのものを操られたり停止させられたりすることがなかったのは僥倖であった。翔太郎は万一に備えてリスタート訓練に苦心したが、それが無駄になりそうでうれしいやら寂しいやらという心境である。
ロボットの乗っ取りは小規模な分霊とやらの担当だったため、何とか翔太郎の装備で撃退できたものの、プタルカのいやらしい襲撃は二段構えになっており、巨大な分霊からは逃げることが出来なかった。
しかし、本作戦の要の一つであるSF派閥宛てに救難信号を送るという行動が功を奏したのか、プタルカがもったいぶって宇宙船を結界に閉じ込めたまま放置している間に本当に救援が間に合ったらしい。
通信内容が少々アレだったが、ありがたく救援者の指示に従い、船内にあったロボットや艦載機などをエネルギーに変換し、プラスアルファでプタルカが撒き散らした魔力の分もすべて使用して一気に数光年ジャンプしたのだった。
そんなこんなで現在は目的の惑星系外縁部にいるわけだが、ここまで来ると小惑星を探すのも容易になる。
いままではプタルカに追い掛けられながらの補給だったため、たとえ小惑星を発見しても満足に吸収する時間がなかった。通過時表面から掠め取る程度。それでも宇宙塵や星間ガスなどよりも遥かにマシなのだが。
現在は心置きなく小惑星を崩壊させている。
小惑星はその名からはイメージできないほど、いや、その名の通りというべきか、サイズは様々で宇宙船クラスから月クラスまであり、どれか一つでも満タンにしてお釣りが来る。
それだけのんびりと作業ができるという証拠だった。
だが、いつまでも、というわけにもいかなかった。
「オーナー。エネルギー量が最大値になりました」
「……結局プタルカは来なかったな。しゃーない。俺もそろそろ腹が空いてきたし、要塞に行くとするか?」
「はい。もともとその計画ですし」
「じゃあ、うーさん、出発進行」
「アイアイサー」
こうして翔太郎の宇宙の旅は最終段階を迎えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目的地である惑星系に突入した翔太郎はプタルカの襲撃の可能性も考慮しながら短距離ジャンプを繰り返し、とうとう終点に辿りついた。
「……木星? ここは地球のある太陽系なのか?」
翔太郎の目の前、スクリーンには特徴的な大赤斑を持つ巨大な惑星が映し出されている。
翔太郎が地球で見た映像そのものだった。
「偶然の一致、というより、宇宙に数多く存在するガス状惑星の一つです」
「……そうか、違うのか……」
一瞬でも地球に帰れるのではないかと思ってしまった翔太郎だが、それは生身の人間として当然のことだろう。
ただ、それは郷愁であって切望ではないと翔太郎は割り切っている。
「で? これからどうするんだ?」
「この惑星内に目的の要塞が隠されています」
「まあ、予想はできるけど、木星って確か重力がメチャクチャあって、メタンの嵐がすごいっていう話じゃなかったっけ?」
「はい。その通りです。ですからここに隠されたのだと思います」
「その心理もわかるけど、引き取る人間のことも考えてほしいよな」
「いいえ。ちゃんと方法はあります」
「説明を頼む」
「はい。本船のAIは独立した思考回路で構成されていますが、組織の一部品でもあります。最上位の指揮権を持つAIは、オーナーにわかりやすくいうと『マザー・コンピューター』です」
「ああ。わかる」
「ですが、組織の複雑さを考えると、敢えて『グレート・マザー』と呼んだほうがいいでしょうか」
「それもわかる。確か超大型要塞が一個で大型が四つだったな。婆ちゃんと娘四人ってところか。軍隊でいったら元帥と四将軍だな。そうすると、うーさんは孫娘で佐官クラスってところかな?」
「はい。その認識で合っています。我々船舶はその五つの要塞のどれかに所属しているのです。例外はありません。ちなみに本船は超巨大要塞所属です」
「なるほど。で?」
「はい。ですから、本船から超巨大要塞に暗号コードを送ることによってゲートが開きます。そこを通れば安全に要塞内部に到達できるのです」
「よし、わかった! じゃあ、早速暗号とやらを頼む」
「アイアイサー。コード送信しました。返信が来るまでお待ちください」
「どのぐらいかかるか、わかるか? そろそろ本格的に腹が減って倒れそう」
「申し訳ありません。これまでの情報をすべて報告しましたからグレート・マザーも精査するのに時間がかかるのと思います」
「これまでの情報って、千年分?」
「いえ、一万年分です」
「は?」
「ご心配なく。オーナーの情報は現在空腹であることも加えて最重要案件で報告していますから、それほどお待たせしないと予想します」
「いや、そうじゃなくて……あれ? どういうことだっけ?」
何か今まで聞いていた話とスケールが違っていて、空腹も忘れて困惑している翔太郎であった。
「オーナー。返信がきました。読み上げますか?」
「ん? ああ、頼む」
「はい。では読み上げます。『長の任務ご苦労。同胞の帰還を歓迎する。また、新たな主人を迎え入れることができるのは大変喜ばしい。これ以上お待たせするのは御身体にもよくないので早速迎え入れたい』以上です」
「……なんか軍隊っぽい感じだが、受け入れてくれるってことだよな?」
「はい。オーナー見てください。ゲートが開きます」
「んん? ……黒い?」
なんと、ガス状惑星の風物詩・大赤斑が黒く変色していくではないか。
これは大自然のスペクタクルか、と思いきや、実は翔太郎の乗る宇宙船の目の前に黒い空間ができただけだった。これはこれでスゴイ現象なのだが。
「これがゲートか?」
「はい。ワーム・ホールといってもかまいません」
「なるほど? で? これに入れと?」
「やめますか?」
「いや、行くさ。うーさん、出発進行!」
「アイアイサー」
ゲートの中は、外から見たとおり暗い、いや、黒かった。
スクリーンが前方から次第に黒で塗りつぶされていく。
宇宙船がゲートに完全に進入し、ゲートそのものが消失した瞬間、翔太郎の意識もブラックアウトした。
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