第42話 それは困るな。やっと支配できたのだからな
空間跳躍。
翔太郎は理論を聞いても理解が追いつかなかったが、概念は当然知っている。
ワープ、ワームホール、亜空間航行。
SFとはサイエンス・フィクションであるが、サイエンス・ファンタジーでもあるのだ。
翔太郎の目指す宇宙要塞は惑星アーテラスの近隣の惑星系に隠されているが、およそ10光年離れているらしく、このままの速度だと18万年かかるという。
現実味のない数字だが、謎科学を受け入れた翔太郎は一瞬で移動できる機能も在るんだろうと楽観視している。
問題はエネルギー不足と追いかけてくるプタルカの存在である。
完全に振り切ると追跡を諦めたプタルカが惑星アーテラスに戻ってしまい、逃げ出したばかりのアーテラス本人とかち合ってしまうかもしれないのだ。
よって、空間跳躍は短距離しか選択肢がない。
だが、短距離ジャンプは緊急離脱の意味が大きく、速度的には光速にはとても及ばないという。
そして緊急離脱によるプタルカが見失ってしまうという懸念もない。なぜなら惑星アーテラスを脱出した直後から全方位に向けてSF派閥の神々への緊急救難信号を発信しているからだ。
いうなれば防犯ブザーを鳴らしながら逃げ回っているようなもの。発見追跡は容易だろう。
翔太郎たちは船内の物資をやりくりし、何とかエネルギーを掻き集めた。
その間にもプタルカとの距離は縮まっている。
AIの提案は当然のものだった。
「規定量超えました。ジャンプできます」
「頼んだ。プタルカを引き離せ!」
「アイアイサー。本船は空間跳躍に移ります。カウントダウン、3、2、1、ジャンプします」
スクリーンから星空が消えた。
これで一旦は引き離すことができたが、もう一つの懸念はプタルカの能力である。
神ならば当然光速で移動できるとか、転移魔法を使えるとかありそうだと翔太郎は案じていた。
だが、追いかけてくるものの、いまだに補足されていないのは何故だろうか。
翔太郎は二つの理由を思いついた。
一つは翔太郎たちと同じくエネルギー不足だ。
神が全知全能の存在ではないならば費用対効果は気になる問題だろうし、何より先ほどまで惑星アーテラスで大量の魔力を奪われているのだ。転移魔法にどれだけ魔力が必要かわからないが、エコな移動手段を採っているのだろう。
もう一つはプタルカの性格である。
他人の世界で臆面もなく『創造神』と名乗り、人間に魔物を嗾ける一方でステータスとスキルを与えるというマッチポンプ。
惑星アーテラスの歴史を知り、神・アーテラスから事実を聞いた翔太郎の感想は『ゲスなサイコ野郎。ガンはロマンだが、パスは最悪』というものだった。
きっと、じわじわといつまでも追い詰め、翔太郎の心が折れ降伏すると一旦は心の広いところを見せ許す。そして翔太郎が希望を持ったところでさらに絶望させる。
そんなパターンが容易に想像できた。
ならばこれは金欠同士の変則チキン・レースだ。
プタルカが厭きるか逆ギレして採算度外視で攻めてくるか、翔太郎が心は折れなくともエネルギーの供給が間に合わなくなるか。
若干プタルカに有利に見えるが、ポイントは時間なのである。
プタルカが余裕を見せれば見せるほど翔太郎に有利になる。いや、アーテラスにとってだ。
「オーナー。新たな提案があります」
「何だ? うーさん」
一度目の短距離ジャンプで小惑星帯に跳んだ翔太郎は、プタルカが追いついてくるまで小惑星を片っ端からエネルギーに変換し、二度目の空間跳躍を行なった。
その後も惑星アーテラスが属する星系の外縁に疎らに広がる小惑星を食いつぶしながら空間跳躍を繰り返した。
現在、目的の要塞が隠されている惑星系との中間地点に差し掛かったところである。
「エネルギー吸収に関してですが、この先小惑星との遭遇は頻度が低いです。目的星系の外周部まで辿りつけば再び小惑星も増えてきますが、そこまでジャンプするエネルギーが足りません」
「んー。うーさんが提案って言うぐらいだから、方法はあるんだろ?」
「はい。再度不必要な物資を変換します。よろしいですか?」
「いいけど、不用品はもう全部使ったんじゃなかったか?」
「いえ。まだあります。ロボットたちです」
「は? ロボット? まさか、船長とかゴブさんとかか? 冗談だろ?」
「いえ。条件は『操船に必要のない物資』ですから、要件は満たしています」
AIの言葉が冗談ではないと理解した翔太郎は艦長席の脇に並んで立っている船長ロボとゴブリンロボを見つめた。
「オーナー。ぜひ許可願います。私はAIですが、悪い予感がするのです」
「悪い予感? そりゃプタルカにいつ追いつかれるかわからない状況だし……」
「いいえ。それだけではありません。エネルギー吸収量が計算と合わないのです」
「誤差じゃないのか? 或いは取りこぼしとか?」
「それも含めての分析結果です。オーナー。ご決断を」
AIに促され、再度ロボットたちを見る。
ドックに篭っていた数ヶ月間、話相手は彼らだった。
常に付き添い、座学や訓練の教官でもある。
翔太郎にとって、もはやSFもファンタジーも関係なく現実の存在となっていた。情が湧いたといってもいい。
「……うーさん、ほかに方法はないのか?」
「オーナー。誤解があるようですが、ロボットは後日復元可能です」
「は? ど、どういうこと?」
「本船のサポートロボットはAI制御です。バックアップ処理は当然の義務です」
「……なるほど。バックアップか……」
翔太郎がロボットたちにまた目を向けると、頷いて肯定した。
「わかった。後で完璧に身体を作ってやるからな。うーさん、その案で頼む」
『それは困るな。やっと支配できたのだからな』
翔太郎がAIの提案に許可を出した瞬間、船長ロボがゴブリンロボを攻撃した。
翔太郎にはハッキリとは見えなかったが、手刀で首を刎ねたのである。
ゴブリンロボの頭部が床を転がり、残った身体も音を立てて倒れた。
「ゴブさんっ! ……船長? どうして……」
『外見は魔物だが、中は同じ人形か。右手が折れてしまったな』
「オーナー! 危険です。逃げてください!」
『うるさいぞ。つくりものの分際で。異世界人、貴様も頭が高い』
「うぐっ! がふっ!」
「オーナー!」
艦長席に座ったままだった翔太郎も船長ロボに殴り飛ばされた。
幸いだったのは、船長ロボが折れた右腕で攻撃したことで、翔太郎も左腕の義手でのガードが間に合い、キャプテンスーツの防御力も効果があった。
しかし、座席から数メートル転がったダメージは大きかったようで、訓練の時のように即座に立ち上がることはできなかった。
『ふむ。ステータスもない人間ごときがよく耐える。いや、この腕では是非もなし』
「て、てめぇ……プタルカか……」
やっと身を起こした翔太郎は最悪にして唯一の答えを口にした。
【作者からのお願い】
「面白かった」「続きが読みたい」と思われた方は下記にある【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。




