第41話 シリウスに向かって飛べ
「オーナー。報告します。艦載機一機帰還しました。このあと順次帰還予定ですが、タイムテーブル通りです」
「ごくろうさん。引き続き任せた。うーさんの手腕に俺の命は懸けたからな」
「おそれいります。オーナーのために全機能をもって尽くします」
「ああ。これからもよろしくな」
「はい」
翔太郎は、これまでの作戦でも偶然人死にが出ていたかもしれないが、今回初めて巻き添え死が前提の作戦にGOサインを出した。
当然楽しいなどと思うことはない。
せめて後悔しないようにと崩れ去る建物を見続けた。
そうしながら翔太郎は、免罪符というわけではないが、改めて自分に与えられた任務について考えた。
数ヶ月の待機期間中、何度かAIを通してアーテラスの思惑を聞いたことがある。
翔太郎の一番疑問だったのは、どうしてアーテラス自身が宇宙船を操ってエネルギーを集めて結界を壊さないのか、ということだった。
その答えは、出来ないこともないが、翔太郎が加わると成功率が一割から五割に急増する、だそうだ。
それでも五割なのかと不満に思いながらも詳しく聞くと、理由は大きく分けてソフトとハード二つあるという。
いくら製作者で前所有者だからといってバックドア的な利用法では十全に活用できない。生身の人間が所有者として登録することで最大スペックで運用できる、というのがハード面である。
ソフト面はというと、アーテラスが主張しているように神は全知全能の存在ではない。そこには人間と同レベルで心理的駆け引きが通じるのだ。
突然宇宙船が惑星を荒らしまわるとプタルカはアーテラスの生存を確信してしまい、嬉々としてとどめを刺しに来るだろうとのこと。これは翔太郎が姿を隠したまま行動しても同じ結果になる。
だからこその茶番劇だった。
プタルカ自らが召還させた異世界人。異端者となって使い捨てられたが偶然先史文明の遺跡を発見しそれを利用して復讐する。
この茶番にわざわざ神が登場する意味はないのだ。自ら道化になりたくないのならなおさらである。
そのため翔太郎は言葉にも気をつけた。
アーテラスが今まで隠れられていたのがプタルカの意図するところでなければ、ドックに篭っている間は安全である。
もしアーテラスが泳がされていただけなら、翔太郎も含めてご愁傷サマの一言だ。
しかし、ドックから宇宙船が飛び出した瞬間から目を付けられるかもしれない。
船内は魔力を完全に除去してあるが、神の力で覗き見られ聞き耳を立てられるかもしれない。
最悪は翔太郎の思考を読み取られることで、一発でアーテラスの生存がバレてしまう。
しかし、幸いなことに翔太郎の脳には地球でマイクロチップが埋め込まれており、これはアーテラスの派閥以外の神の力を遮るのだ。
ゆえに、ドックを出た後はアーテラスの話題は脳内会話で行なってきた。
ここまでこだわれば、元勇者候補にして復讐者の完成である。教会を荒らしまわるのも神への復讐としか見えない。
宇宙船の光学迷彩も保険である。
どの段階で翔太郎の存在がバレるかはわからない。もちろんブレスト王国で姿を現したのは確実にアーテラスの生存とは無関係を装うためだ。
それ以降も迷彩をかけ続けているのは、バレないようにしていますよ、というポーズである。心理的駆け引きだ。
翔太郎はここまで見事に囮の役割を果たしてきた。
いまだにプタルカの反応が見られないのが証左であろう。
翔太郎が想像するに、たかが人間、異世界人に神自ら鉄槌を下すかどうか悩んでいるに違いない。
だが、いくらスカしたポーズを決めたい神でも、逆鱗や地雷、堪忍袋や逆ギレのスイッチは持っているはずだ。
それがこの世界を維持する魔力と結界だろう。
その魔力は世界のすべてではないが宇宙船を満タンにするまでは奪った。
あとは結界を破壊するのみ。
「オーナー。時間です」
「わかった。よろしく」
「アイアイサー。カウントダウン、3、2、1、発進します」
お互い短い会話だが、実は脳内会話で状況の詳細説明とカウントダウンは始まっていた。
そばで聞いていたとしたら、突然の発進に見えたことだろう。
目標は成層圏。
謎科学の技術で一気に重力を振り切る。
『待て、異世界人よ』
スクリーンに巨大な人影が映った。どんな魔法か、声も聞こえてくる。
「とうとうお出ましか。プタルカ!」
「魔力除去最大照射します」
「うーさん、やれっ!」
『おろかな……』
「影ならびに結界の消失を確認しました。重力圏を抜けます」
「よし。本体かどうかわからんが、精神生命体だっていうし、完全には殺せないだろうが、抜けてしまえばこっちのもんだ!」
ここまでは計画通りだった。
寸前で必ず邪魔される。アーテラスの読みも外れなかった。
対策は力押し。
翔太郎には今一理解できていないが、物質崩壊波照射装置とエネルギー吸収装置のコンボは一見無限動力に見えるものの、実は物質崩壊にもかなりのエネルギーを消費するのだ。いわば自転車操業である。
そして、惑星を包み込む結界と神自身の魔力を打ち消すにはどれほどのエネルギーを消費するか。
アーテラス謹製の中型宇宙船のフルパワーでやっと相殺できるだろうとの見込みだった。
あとは僅かに残ったエネルギーを使って宇宙空間に漂う物質をエネルギーに変換しながら移動しなければならない。
翔太郎が危険を冒して大陸中の教会を襲っていたのはそのためであった。
「第三宇宙速度に移行します。目標はコードネーム・シリウス」
「よし。シリウスに向かって飛べ」
「アイアイサー」
これは只の茶番ではない。
宇宙に出ても盗聴の恐れがあったので極力目的地を出さなかっただけである。
脳内ではしっかりと確認していた。
翔太郎の任務はアーテラスがうまく惑星から脱出できるように囮になること。
しかし、犬死はしたくないし、アーテラスも手駒は多いほうがいい。
そこで囮として逃げながら翔太郎の目指す先は相続予定の惑星級超大型宇宙要塞だ。
中型宇宙船でも何とか神に対抗できたので宇宙要塞が手に入れば、たかが人間の翔太郎でも神と戦える。
勝つ必要はない。
アーテラスが首尾よく派閥に復帰すれば、もう翔太郎の出番は終わりだ。
後は神々の戦い。
ラグナロクの始まりだ。
「着いてきてるか、わかるか?」
「はい。センサーに巨大な魔力が観測できます」
「その魔力って吸収できないのか?」
「理論上は可能です。ですが、その前に確実に攻撃を受けます。攻撃もある程度なら相殺できますが、神の魔力は桁が違います」
「神の魔力って……まあ、わかった。ガチで戦えないのは元々だしな。逃げに徹するしかないな。うーさん、追いつかれないようによろしく」
「オーナー。その件ですが悪い報告があります」
「いい報告はないのか? なんだ?」
「進行方向に魔力除去波をかけながらエネルギー吸収を行なっていますが、星間物質だけでは間に合いません。このままですと推定30分で追いつかれます」
「それは……シリウスまでは?」
「到底持ちません」
「ど、どうすればいい? うーさんならいいアイデアがあるんだろ?」
「はい。船内にある操船に関わらない物資をエネルギーに変えます」
「……なるほど。腹の空いたタコが自分の足を食うのと同じか。よし、わかった。俺も覚悟は出来てる。要塞にも食い物は謎技術で保管してあるんだろ? それまで我慢する。服も要らないな。裸一貫だ」
「オーナー。それは宇宙服でもあるのです。マントと装備はともかく裸は危険です」
「あー。そうだな。裸は危険だな。いろんな意味で。まあ、とにかくいらないものを片っ端からエネルギーにすればいいんだろ? 俺も手伝うぞ!」
「オーナー。お気持ちはうれしいのですが、トランスポートで即実行可能です。許可だけいただければ」
「お、おう。わかった。実行を許可する」
「アイアイサー。これより余剰物資を崩壊、ならびにエネルギー吸収実行します」
ブリッジには操船に必要なものしかないといっていい。
翔太郎のマントと武器装備が塵となって消えただけだった。
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