第40話 最終フェーズにまもなく入ります
宇宙船にトランスポート機能で帰還した翔太郎はブリッジの床に蹲り身悶えていた。
ちなみに、護衛役に徹して一言もしゃべらなかった船長ロボとゴブリンロボも一緒に帰還している。
「あー……なにが、あばよ、だ。どこの大泥棒だよ。クソッ、とっつぁんが絶対笑ってやがる……」
翔太郎にとって幸いなのは、ロボットたちが生温い目で見てこないことだろう。
これはそんな機能がないのではなく、ご主人様のためあえて控えているのだ。謎科学のAIはどこまでも優秀である。
「オーナー、お楽しみのところ申し訳ありませんが、時間が押しています」
宇宙船AI『うーさん』の言葉に反応し、ノロノロと立ち上がる翔太郎。マントと装備を脱ぎ捨ててドサリと座席にだらしなく座った。
「……わかった。予定通りに頼む」
「最終フェーズにまもなく入りますが、第一格納庫に回収していた人間たちはどうしますか?」
「おっと、いろいろあって忘れてた。なあ、兵士と冒険者と奴隷って区別できるか?」
「可能です」
「じゃ、兵士や騎士は王宮の前に、冒険者も一緒でいいか。奴隷は首輪を外してスラム街で解放してくれ。運がよければ生き延びれるだろう」
「アイアイサー。処置終了しました」
「はやいな!? じゃ、じゃあ予定通りに計画を進行してくれ」
「アイアイサー。全大陸に派遣した艦載機はこれより目標を各国教会本部に変更します。本船は大陸中央、神聖プタルカ教国教会総本山を目指し、艦載機の合流を待ちます。よろしいですか?」
「任せた」
「アイアイサー。本船は大陸中央に向けて発進します」
ブリッジには窓がないが、360度周天フルスクリーンがある。やろうと思えば足元も透明にすることができるのだ。
翔太郎は景色が猛スピードで流れていくのを眺めていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「これは、何が起こったんだ!?」
教会の破壊という派手なパフォーマンスは王都の至るところから確認された。
人手不足といっても、王都からすべての兵士が外地に派遣されたわけではない。
こうして王都担当の兵士が様子を見に来ている。
「そこの兵士、もっと応援を呼んでくるのだ。魔力切れの者たちを保護してやらねばならん」
「りょ、了解しました!」
翔太郎が姿を消してから一番先に来た兵士に声をかけたのは宰相であった。
一介の兵士が顔を知るはずはない。
だが、服装で雲の上の人間だとわかる。仲間の衛兵や騎士、神官、巫女たちが倒れているのも事実だった。
兵士は一切の疑問を脇に置き指示に従って応援の兵士を探しにいった。
「おい、アンドンといったな。負けは認めるから協力してくれないか? 虫がいいのは承知の上だ。頼む!」
アンドンは呆然としていて逃げるタイミングを逃していたが、王族を守るための近衛兵も全滅している状況で国王は白旗を揚げた。
臆面もなくアンドンに懇願する。
宰相は苦い表情だが、何も言わない。
「バカ言うな。後から『きべん』とやらで理由をでっち上げて処刑するんだろ? なら、ここで口封じしても同じだよな?」
アンドンは愛用のダンジョンの剣を構える。
「……なあ、オットー。俺たちはいつから民の信用を失ったんだろうな?」
「詭弁ですか……それは王族貴族を名乗ったときからでしょうな。元々は戦乱から民を守るための大義名分だったのでしょうが、確かに詭弁ですな。結局は力で押さえつけていたに過ぎないということです」
「力か。今の俺たちは無力だな」
「はい。自覚できただけマシでしょう」
「お二人とも何を悠長な! 早く邪神の復活を伝えなければ!」
「おーい! アンドン、大変だ!」
諦観に満ちた二人と盲目なままの一人にアンドンが斬りかかろうとしたとき、不意に声がかけられる。
処刑は一旦中止にするようだ。
「どうした?」
スラムの一人が国王たちを気にしながら小声で情報を伝えた。
「なんだって? そんなことがあるのかよ」
アンドンは報告に驚き、しばらく思案した。
「気が変わった。信じちゃいねえが、こいつら運ぶのだけは手伝ってやる」
「何があった?」
国王は事態の急変に戸惑ったが、すでに命は諦めていたので割とすんなり反応できた。
「スラムに突然大量の奴隷が現れたとよ。気を失ったままでな。顔見知りがいたらしく、大穴に連れて行かれた連中じゃねえかって話だ。たぶんタローが連れてきてくれたんじゃねえか?」
「大穴の? では騎士たちも?」
「それは聞いてねえ。それより、取引だ。スラムの動ける連中集めてそいつらをどこへでも運んでやる。その代わり着る物と食い物寄こせ。
ああ、あと気休めだが、俺も含めて奴隷解放の手続きをしろ。ギルドに登録できるようにな」
「わ、わかった。善処する」
「おい。顔役にこのこと伝えてくれ。食い扶持はてめえらで稼げってな」
「わ、わかった。でも後で捕まらないか?」
「大丈夫だろ? 何かあったら相棒が魔力食らいの一匹や二匹送り込んでくれるだろうよ。なあ、お偉いさんたち?」
突然現れ突然消えた翔太郎のことを出されると、再び魔物の大群を連れて現れることを想像してしまった国王と宰相は頷くことしかできなかった。
「さあ、急げ。もたもたしてると先に衛兵が集まってくる。仕事がなくなっちまうぞ?」
「わ、わかった、すぐ呼んでくる」
こうして衛兵とスラムの住民の奇妙な協同作業が行われることとなった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方そのころ、翔太郎はすでに神聖プタルカ教国教会総本山上空に到着していた。
無論宇宙船には光学迷彩を施してある。
「でっかいな。王国の城よりでかいんじゃないか? こんだけでかいとエネルギー吸収に時間がかかるのもわかるわ」
翔太郎は誤解している。
計画の要であるエネルギー吸収は単に外観の大きさによるものではなく、名前通りエネルギーの大きさに左右されるのだ。
計画ではブレスト王国を除く各国の教会本部を破壊してエネルギーを吸収した艦載機をここで待つのだが、艦載機との合流にタイミングを合わせて総本山からもエネルギーを吸収しなければならない。
総本山というだけあって魔力エネルギーは桁違いだそうだ。
AIの、いやアーテラスの予想では、さすがに総本山まで手を出されたらプタルカ自ら介入してくる公算が高い。
早すぎるとバレる時間も早くなり、遅すぎると艦載機との合流後もここに留まらなければならない。非常にタイミングがシビアなのだ。
その辺はすべてAIの計算に任せているので翔太郎は気楽なものだが。
「オーナー。まもなく魔力除去装置の発動の時間です。今回は警告も出しませんから建造物の中の人間諸共消し去ることになります。よろしいですか?」
そう。ここではブレスト王国で行なったような茶番劇はない。
アーテラスの生存がバレる以前に、神の、プタルカの怒りを買うことになる。
囮冥利に尽きるなどと言っている余裕は翔太郎にはない。他人のことには構っていられないのだ。
「かまわん。(元はアーたんの信者の子孫かもしれないが、プタルカ側についたなら今は敵だ。)これは戦争でここに無関係者はいない。人死にが出て当然だ。うーさん、やってくれ。俺が許可する」
「アイアイサー。カウントダウン、9、8、7、6、5、4、3、2、1、魔力除去開始しました。並行してエネルギー吸収開始します。終了予定時間まで10分です」
「10分か。短く感じるが、プタルカが出て来ると考えると長すぎるぜ……」
スクリーンには荘厳な教会らしい建物が尖塔の端から塵になっていく様子が映し出されている。
音声は切ってあるらしく、無音のまま散っていくその様に翔太郎は世の無常を感じていた。
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