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第39話 じゃあ、あばよ!


 ブレスト王国では時ならぬ騒動が起こっていた。


 千年に一度の魔物の大氾濫に対処すべく主だった戦闘員が王都を離れていた。

 その隙を突いてスラムの住人が暴動を起こし、貴族街や教会本部を襲撃した。


 騒ぎの中心が教会と聞き、国王は自ら虎の子の近衛兵を率いる。

 スラムの代表らしい男は、なんと、大穴ダンジョンで勇者とともに行方不明になり死んだものとされていたアンドンだった。


 神官の多くが人質に取られる中、強行策は採れず話し合いは一進一退。

 だが、そもそも国や教会に譲歩する気のなかったアンドンは、人質の司祭に剣を振り下ろそうとした。


 そこに突然登場したのが、やはり大穴ダンジョンで行方不明に名っていた勇者本人・金田翔太郎であった。


 久しぶりの邂逅に喜ぶアンドンだったが、旧交を温めている場合ではない。

 国王の相手は翔太郎にバトンタッチされた。


 翔太郎の対応はアンドンよりも苛烈だった。

 しかも、翔太郎からもたらされた情報は国王をして信じられないもの。

 この世界で邪神とされた存在が先史文明の神で、封印されていたはずがすでに死んでいると。


 実はこれはアーテラス自らが書いたシナリオである。

 翔太郎の役割は囮。

 目立つことは織り込み済み。

 宇宙船のエネルギー充填にも時間はかかる。翔太郎も最後に『ざまあ』はしておきたい。

 だが、目立ちすぎてプタルカ本人が乗り出してきたら一巻の終わりだ。

 アーテラスは同じ神としてファンタジー派の行動原理を分析し、人間を好き勝手に操ろうとはするが、自ら手を出そうとはしない、と見ている。

 例外は相手が同じ神。

 つまりアーテラスの生存を嗅ぎ付けられたらアウト。

 宇宙船の使用ぐらいなら様子見するだろうという結構危ない賭けなのだ。

 ならばプタルカが様子見をしているであろう場面で、この宇宙船は神の死後新しい主人を迎え入れるという設定を披露すれば半信半疑でもさらに情報を得ようとして手出しは控えるのではないかと若干神(プタルカ)頼みな計画を立てた。


 披露する場面は翔太郎に一任される。

 翔太郎が国王の前で神の遺産を手に入れたと茶番を演じているのは、ほぼ事実なのだが、その計画を遂行するためだ。


 当然国王は証拠を求めた。


 その反応も翔太郎の思う壺だった。

 呼び出したのは宇宙船ではなく、メタルドラゴンの群れ。


 国王を含む体制側は恐ろしい魔物に囲まれていた。


「さあ、お前たちの罪を数えろ!」


 翔太郎はノリノリだった。茶番は仕掛けるほうが楽しいに決まっているのだ。


「こ、これが神の遺産だったのか! もう一つ教えてくれ!」


「なんだ?」


「各地で魔力食らい、この魔物が兵を助けたと報告を受けた。それは本当か? 本当なら何故こんなことをするんだ?」


「兵に恨みはない。それどころか同情してるよ。俺と同じようにお前らに死地に送られてるんだからな」


「ハハッ。国を守るためだ、といっても理解しちゃくれねえか……」


「ふん、国という言葉を良いように使うんじゃねえよ。その言葉で何人の民を殺した? 民を守ってこその国だろうが。民より国を優先するなら滅んでしまえ」


「だがっ、その民を守るにも、誰かが戦わねばならんのだ! 頼む! 俺はどうなってもいい! 民を助けてくれ!」


「勘違いするなよ?」


「なに?」


「ちょっと熱くなってしまったが、俺はお前と政論を交わしに来たんじゃねえ」


「じゃあ……」


「忘れんな。復讐だよ! さあ、メタルドラゴンたち! まずは神官と騎士からだ! ああ、王様と宰相さん、それからこの司祭は残しておけ。やれっ!」


「GSYEEEEEEEEHN!!」


 実はAIから脳内チップを通じて逐一連絡を受けてる翔太郎がタイムテーブルに従い、長くなりそうな国王との話をぶった切ったのが真相である。


 そんな裏事情を知らない現場は大混乱だ。


「ぐわっ! ま、魔力が……」


「へ、陛下をぐわっ!」


「神よ! 魔物から守りたまえがっ!」


「あの異端者さえやればっ! ファイヤーボール!」


 中には翔太郎を狙う者もいたが、謎科学の前には無力だった。


「タロー! 危ねえっ! あ? 消えた?」


「アンドン、心配するな。俺に魔法は通じない。それより、そろそろ皆を逃がしてくれ」


「あ? なんでだ? 最後まで付き合うって」


「そうじゃなくて、この教会、更地にする。ホントに危険だから」


「お、おう。わかった」


「ああ。5分、300数える時間をやる。取るモン取って逃がせ」


「お、おう。わかった。コイツはどうする?」


 腕を締め上げていたパーナード司祭に目をやる。

 恐怖のため目が死んでいた。


「ほっとけ。どうせ逃げられやしない」


「わかった。じゃあ、あいつら逃がしたら戻ってくるからな」


「早く行け、時間がないぞ。あと二百と30秒だ」


「おう! すぐもどる!」


 アンドンはしばらく離れることになった。


 騎士と、もともと人質になっていた神官たちはメタルドラゴンのピンポイントな攻撃で次々とダウンしていく。

 実は一瞬で一気に倒せたのだが、タイムテーブルに合わせていたのだ。

 じわじわと味方が減る恐怖を国王に味わわせるという悪趣味な一面もあるが。


「どうだ? 今の気分は? 試練に挑もうとはしないのか?」


「俺の負けだ。これで満足したか?」


 倒れていないのは国王と宰相、半ば精神崩壊している司祭。

 国王は翔太郎のイヤミにまだ強気な態度だ。


「バーカ。それはこっちのセリフだ。こうなったのはすべてお前たちが始めたことだろ? 俺を異世界から拉致して、勇者と言っておいて異端者だぁ? 挙句使い捨てだぜ? そもそもスラムの連中が蜂起したのもお前らの苛斂誅求の結果だ。為政者ぶるなら他人(ひと)のせいにすんな!」


 翔太郎は、一々為政者が責任を取っていると政務が滞るという現実を理解しているが、茶番だと割り切り言いたいことを言っただけだった。


「俺にどうしろと……」


「お、アンドン、戻ったか。28号! 来い!」


 国王が何か言いかけたが、スケジュールが押しているためサクッと無視。

 ちなみに28号は小さいころの綽名だったらしい。


「おわっ……た、タロー、み、味方なんだよな?」


 アンドンが戻ってきたところに呼び寄せたのがメタルドラゴンの一体。

 アンドンは流れから翔太郎の支配下に置かれていると理解はしているが、恐怖心は残っているようだ。


「紹介するよ。この一体があのときのメタルドラゴンだ。28号、あいさつ」


「GSYEEEEEEEEHN!!」


「おわっ!」


「ハハハハ。大丈夫だ。それより、中に残ってないだろうな?」


「お、おう。たぶんな。後は自己責任てヤツだ。気にすることはねえ」


「まあ、一発目は威嚇にしておくか。28号、威嚇攻撃だ。派手に外側だけ狙ってくれ」


「GSYEEEEEEEEHN!!」


「うわっ……あんときこんな攻撃されてたら死んでたな……」


 メタルドラゴン28号は指示通り威力調節したプラズマ砲を教会外壁に打ち込んだ。

 光と音は派手の極致である。ただ、魔法のある世界、インパクトはあったが意外性はなかったようである。アンドンは結構冷静だった。


「もし残ってたとしても、これで逃げ出しただろう。さて仕上げだ。全機メタルドラゴン! 目標の完全破壊だ! やれっ!」


「「「「「「GSYEEEEEEEEHN!!」」」」」」」」


 必要はなかったが、全機投入させる。あらゆる方向から眩い光が教会に浴びせられた。

 これも茶番で、あえて物質崩壊波は使わなかった。瓦礫を残しておいたほうが嫌がらせにもなる。


 ただし、教会に溜まっているという魔力は人知れず回収しておいた。

 これが計画の要でもある。


「あ、悪魔だ。邪神だ。邪神の復活!? ご神託通り邪神が復活したんだ!」


 教会が破壊されたことでパーナード司祭が復活した。


「相変わらず身勝手な決め付けだな。まあ、確かに俺はお前らにとっての邪神の遺産を引き継いだからな。復活じゃなくて二代目邪神ってとこか?

 ま、なんにせよ、ここですべきことは終わった。

 アンドン、俺はもう行くぞ。達者で暮らせよ?」


「お、おい。行くって、どこにだよ。俺も連れてけよ」


「すまん、それは無理だ。お前はこの世界の人間で、俺は違う。言っておくが、俺の世界もこの世界に負けずクソッタレなところだからな。夢見んなよ?」


「……また逢えるのか?」


「お互い生きていりゃあな。じゃあ、あばよ!」


 翔太郎はマントを翻すと、その場から姿を消した。

 同時にメタルドラゴンの大群も幻のように掻き消えている。


 残された四人の反応はほぼ同じく、呆然としたままだった。


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