第37話 そこまでにしろ、アンドン
「報告します! 王都北の森方面から早馬です! 魔力食らいが現れました!」
ブレスト王国では連日会議が執り行われている。
そこに伝令が駆け込んできた。
「なに! ついに恐れていた事態が……大穴に派遣した者たちからは連絡はないのか!」
「報告には続きがあります! 魔力食らいは魔物だけを狙い、倒した後にこれを食らう、とあります。兵たちに被害はありません。巻き添えで魔力切れになる者もいたが、放置されたともあります」
「なんだ、それは? 本当に魔力食らいなのか?」
「早馬からの報告ではそのようになっております」
「オットー。どう思う?」
「わかりませんな。かつて大穴のダンジョンの魔物を誘導し魔力食らいにぶつけたという話を聞いたことがあります。そのときは人魔物諸共に魔力を奪われたと。人間が食われたという記録はございませんな。魔力のみを食べる、だからこそ『魔力食らい』と呼ばれていたはずなのですが」
「人間の肉より魔物の肉が好みなのかもな。ダンジョンの魔物を食い尽くして外に食事に出て来たんじゃねえか? そうなると案外危険なヤツじゃないのかもしれんな」
「何を気楽なことを。戦いの最中魔力切れになることがどれだけ危険かわかっているでしょう」
「なんにしても魔物を倒してくれるなら好都合だ。魔物同士殺し合っててもらおう。北の森から人を撤退させろ。ほかに回せ!」
「魔力食らいが出てきたからには、今はそれしかないでしょうな。
しかし、大穴に派遣した者たちはどうなったのでしょう。作戦は失敗したのは明らかですが」
「報告どおりなら命の心配はないんじゃないか? 最悪魔力切れのまま放置だろうよ」
「……東北砦に捜索の人員を出させるほかないですな。どこも人手が」
「報告します! 王都東の『ロクサームダンジョン』方面より報告書が届いております!」
「読め」
「はっ! 読み上げます! ダンジョンから溢れた魔物との戦いは一進一退、そこに空からメタルドラゴンが飛来、戦いに乱入――」
「「なにぃっ!」」
「た、戦いに乱入するも味方に大きな被害はなし。魔物は跡形もなく消滅。魔力と同様に食われたものと推測。以上であります!」
「貸せ!」
「陛下。私が……」
「どうだ? 本物か?」
「報告書は本物でしょう。しかし、内容までは……信じなければ政治は出来ませんが……」
「魔力食らいは2匹いたのか? いや、飛来といったな。飛べるのか? なら北の森から東へ……」
「報告します! ラッケン男爵領から救援要請です! メタルドラゴンが現れたそうです!」
「「なにぃっ!」」
「こ、これが要請書だそうです……」
「オットー、詳細は書いてあるか?」
「いえ、伝令そのまま、メタルドラゴンが現れたので救援求む、だけです。これはあれですな、メタルドラゴンの出現に慌てて戦場の推移も確認せず第一報を送ったのでしょう。しばらくすると第二報が来ると思います」
「しかし、それでも3匹目ということになる。同じヤツが飛び回ってるとは思えん。どうなっている? これも大氾濫のせいか? メタルドラゴンが大繁殖したのか?」
「もし食料が魔物だけでは足りなくなって人間まで食らうようになったら、この国は、いえ、この世界は終わりですな」
「不吉なこと言ってるんじゃねえよ。お、また報告か? 続報か? また新しいメタルドラゴンか?」
「は? いえ。報告します! 民衆の蜂起により教会が襲われております!」
「なんだと! それは本当か!」
「はい! スラムの人間を中心にして冒険者の姿もあります。貴族街にも被害が出ておりますが、目的は教会のようです!」
「おいおい、オットー。裏の連中には協力を要請したんだろ?」
「はい。しかし、まさかこのような時勢に蜂起などとは……」
「スラムか……このような時勢だからだろうな。税は上がるし、奴隷として売られる。それが神の試練だと言われたら文句の一つも言ってやりたくなるだろうよ」
「陛下、それ以上は」
「なんだよ? 俺はそれ以上に文句があるぜ? とにかく、街の衛兵じゃ抑えられねえな。よし、近衛全員出す。俺も出るぞ」
「陛下! なりません!」
「今出ないで、いつ出るんだよ。魔物じゃなくて人に滅ぼされるほうがいいのか? なに、俺が直接頭を下げる。何なら土下座もする。せめて大氾濫が終わるまで待ってくれってな。人と人が争ってる場合じゃねえんだよ」
「陛下……私も付き合います」
「それは職務か?」
「はい。宰相として当然の職務です」
ブレスト王国で事態は急変する。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お前がパーナードか。うろ覚えだったが、当たりのようだな」
「こ、これは神に対する不敬です! 剣を捨てなさい!」
「神? 俺が剣を突きつけてんのはてめえだ。つまりてめえが神ってことだな?」
「き、詭弁を弄するものではありません! 神に仕える人間に対する無礼は神に対する無礼と同じ、不敬極まりない!」
「教会のモンらしく難しい言葉使ってんな。『きべん』てのは要するに、自分に都合のいい理屈を捏ね回すことだろ? つまり貴族と教会がいつも口にしているのが『きべん』じゃねえかよ。何が神に仕える者は神と同じ、だよ! 誰がそんなこと決めた! 誰が認めた! 俺は認めねえよ!」
「あ、悪魔だ。貴様は神に反逆する悪魔だ! 邪神の手先だ!」
「これだよ。そうやってタローを異端者にしたんだろうが。タローがてめえに何かしたのか! 攫ってきたのも、ステータスも魔力も使えねえのもてめえらの責任だろうが!」
「な、なぜそのことを……」
「その様子じゃ後ろめたいって自覚はあるようだな」
「き、貴様は一体……」
「武器を捨てて司祭たちを解放しろ! 貴様はすでに包囲されている!」
「チッ、邪魔が入った……いや、あいつらの前で殺してやる! さあ、立て!」
「ひいいいっ!」
「おう! 待たせたな! 偉そうなのもいるが、まだ騎士どもがこんなに残ってたのか? 魔物はどうした! 冒険者ばかりに押し付けてんじゃねえよ! クソどもが!」
「貴様! 誰に向かって……」
「まあ、待て。そこの冒険者、何が目的だ?」
「話せそうなのが出てきたな。俺の目的か? 相棒の仇討ちだ!」
「仇とは厄介だな。その司祭が仇なのか?」
「仇の一人だな。小物だがな」
「詳しく教えてくれぬか? 話によっては力になれるやもしれぬ」
「ハッ、貴族の話を信じるほどおめでたくねえよ! だが、聞きたきゃ聞かしてやる。うわさは十分広めたが貴族どもにまでは伝わってねえかもしれねえからな。
いいか! 俺の相棒はな、異世界とやらから無理やり攫われて来たんだ!」
「なに! それは勇者の……」
「そうだ! 勇者サマなんて煽て上げられて魔物と戦わせられるためにな! いいから黙って聞け!
相棒はなあ、ステータスも見れねえし魔力もなかった。だが、何でそれが異端者になるんだ! それで何で大穴に放り込まれなきゃならねえんだ!
試練だと? ふざけんじゃねえ! 何が試練だ! 魔物に村が襲われたのも試練か? 税がべらぼうに増えるのも試練なのか? クソ高い税を払えず奴隷にされるのも試練なのかよ!
逆に貴族が奴隷を奪われるのは試練じゃねえのか? こうやって教会がスラムの人間に襲われるのは試練じゃねえのか?
おい、司祭サマよう、これも試練だ。喜んで殺されるんだろうな?」
「ひいいいいっ! た、たすけて……」
「待て! 待ってくれ! 確かにそなたの言うことはもっともだ。その件は教会が口を出しすぎだったのだ」
「わ、私は本山の意向に従ったまで……」
「司祭殿、黙っていてくれ」
「ふん、今度は責任の押し付け合いか?」
「いや、今回は千年に一度の大氾濫とあって、我らもどうしてよいかわからず教会に頼ってしまったのだ。責任なら余が取る。
もともと税や奴隷に関しては戦後何とかしようとは思っていたのだ。
だが、今は無理だ。今は国民力を合わせて大氾濫を食い止めねばならんのだ。
冒険者よ、聞けばかなりの腕だとか。敵討ちは一先ず置いて、協力してくれまいか」
「なるほど。これが本物の『きべん』か。協力ってのはてめえら貴族は後ろで高みの見物で俺ら奴隷を使いつぶす、ってことか?
そりゃ確かに戦後文句を言う連中はいなくなるから何とかなるわな」
「いや、違うぞ。そんなことは考えておらん!」
「うるせえ! こんな国滅べばいいんだ!」
「そなたにも家族も友人もいるだろう?」
「みんな死んだよ。国と教会に殺されたようなもんだ。俺だけ生きててどうなる?」
「……そなた、名を何と申す?」
「何をいまさら……まあ、これから暴れるんだ。最後に名乗るのもいいかもしれんな。
よく聞け! 俺はアンドン! 元冒険者で今は死人だ!」
「死人? オットー、どういうことかわかるか?」
「はい。記録にありました。勇者と大穴で一緒だった奴隷です。死亡扱いです」
「俺もそうじゃねえかと思ったよ。だからどうしたとしか言えねえが」
「何をゴチャゴチャ言ってやがる! さあ! やろうぜ! まずはてめえから血祭りだ!」
「ひいいいいっ! た、たすけて……」
「やめろ! 近衛! なんとかしろ!」
その場が騒然となったとき、急に人影が現れた。
「そこまでにしろ、アンドン」
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