第35話 計画実行
「オーナー。お楽しみのところ申し訳ありませんが」
翔太郎がアーテラスの神技術がすごいのか、それとも只の冗談なのか全く判断できずに思考の海にダイブしているとAIから声がかかる。
「別に楽しんでるわけじゃ……なに? うーさん」
「決行まで10分を切りました。これより1分ごとにカウントします」
「うわ! もうそんな時間? アーたんのおかげでジタバタはしなかったけど、ドタバタしちゃったじゃないか。まあ、緊張感はなくなったけどな。これも計算の内か?」
「オーナー。キャプテンスーツを着用してください」
「え? 名前付いてんの? てゆうか、これ着るのか?」
「安全性が高いので我々も安心できます」
「そういわれると断れないじゃないか……しょうがない。船長、ゴブさん手伝ってくれ。なんか宇宙服みたいでよくわからん」
「「はい。よろこんで」」
「これはアーたんの仕込みなのか、それとも普通の返事なのか……」
どうせこの宇宙船には人間が翔太郎一人なのだし、決行時間まで僅かだったのでブリッジでそのまま着替えだした。
「決行1分前です。これよりカウントダウンに入ります。50、49、48……」
「うわー。着替えに時間がかかる。うーさん、俺にかまわず作戦の実行を許可する」
「アイアイサー。30秒前、29、28……」
翔太郎は右に短銃、左にサーベルと装備に手間取っていた。
「10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、1。作戦開始します。コードネーム・メタルドラゴン全機出撃しました。モニターで確認。威嚇攻撃、開始します」
すでに作戦は開始されたが、宇宙船が飛び立つのはまだまだ先のようで、特にブリッジには何の影響もなかった。
翔太郎はといえば、やっとマントと眼帯をつけて完全装備にはなったものの、今度はこれでは座席に座ることができないと判明し、装備を見直している最中である。
なんともしまらない決行開始だ。
「アニメじゃそのまま座ってた記憶が……ご都合主義か、それとも尺の都合でシーンカットかな? どっちにしろ現実は面倒だな」
やっと席に着いた翔太郎はくだらないことを考えていた。
それでも目はスクリーンから離していない。
スクリーンの中ではメタルドラゴンの大群が人間たちを蹂躙していた。
もちろん威嚇射撃なのを知っているのは翔太郎とAIたちだけである。
そんな翔太郎から見ても、蹂躙しているようにしか見えない。目や口や指先からジグザグの光が走る。翔太郎の注文どおりド派手だった。
高性能な宇宙船は映像だけでなく音声も拾っている。
『うわーっ! 何で魔力食らいがあんなにいるんだよ! 聞いてねえぞ!』
『逃げるな! もっと引き付けろ! 誘き寄せるんだ!』
『おい! 首輪が外れるぞ!』
『俺のもだ! おーい! 逃げるチャンスだぞ!』
『あっ! 待て! 逃げるな! ぐわっ』
『おいおい。奴隷が逃げ出したぞ。俺たちも逃げようぜ』
『そ、そうだな。もう奴隷を囮にはできねえからな』
翔太郎に聞こえている音声はほんの一部だが、すべてを聞いていたAIが会話を分析して彼らの目的がわかった。
「どうやら彼らはコードネーム・メタルドラゴンを誘導し、北東方面、通称・魔大陸に進攻させようとしていたらしいです」
「ハァ……それがドラゴンの大群で驚いたと。まあ、一匹だと思ってたんだろうな。その上奴隷の首輪も壊れて囮がいなくなったと。作戦は失敗だったようだな。まだ範囲から出てないか?」
この大穴は直径がおよそ2kmで深さが1kmあるが、さらにその地下に宇宙船のドックがあるのだ。
ドックの大きさは縦1.5km横1km高さが500mある。
このドックにたった一台しか入らないというのだから翔太郎の継承した宇宙船の大きさがわかるというものである。
アーテラスの分類では中型船というが、翔太郎にとってはかなり大きいと感じていた。
それはともかく、追加された作戦はこのドックの上方開口部の範囲から人間を排除することである。幸いダンジョン方面からの進入だったので同じ方向に誘導すればいい。
「ドック上方から人間の離脱を確認しました。これより第2フェーズに移行します。同時にコードネーム・メタルドラゴンによる原計画に基づいた任務を開始します」
「よろしく頼む」
画面では逃げ出した奴隷に襲われた兵士もいたようだが、AIが安全と確認したのなら大丈夫だろうと翔太郎はその言葉を信じた。
画面は四分割され、一つには逃げている人間たち、一つには元の任務のため飛行形態になって空に飛び立つメタルドラゴンたち。そして残りの二つは、翔太郎にとって信じられない光景が映っていた。
それはどちらもドック内部の映像なのだが、船を埋めていた瓦礫がどんどん崩壊していくのだ。AIたちからの座学によると、これが翔太郎が耳にしていた魔力除去の実態なだそうだ。
実はアーテラスが翔太郎にわかりやすく魔力除去と説明したが、それは能力の一部に過ぎず、言ってみれば『物質崩壊装置』或いは『物質崩壊波』だろうか。
原子以下の微粒子サイズまで物質を崩壊させる波動を照射するらしい。
翔太郎にとっては、魔力は物質なのか? という疑問もあったが、アーテラスの科学ではそうなのだという。まさに進歩した科学は魔法と区別できない、の言葉通りだ。
さらに翔太郎の頭をパンクさせかねない技術が『エネルギー吸収』だった。
これは崩壊した微粒子を取りこみエネルギーに変換する装置だという。
これさえあれば永久動力が可能だ。
しかも微粒子から物質を創り出すこともできる。まさに錬金術だ。
では、何故今までエネルギー不足に悩んでいたのか? という翔太郎の疑問には、プタルカに見つからないように大々的な使用は避けていたとのこと。
別方面からの理由に翔太郎は何もコメントできなかった。
瓦礫の崩壊は進み、ついに上部の瓦礫すべてが取り除かれた。スクリーン越しだがドックに光が差し込むのが見えた。
「ドック上方クリア。本船はこれより上昇を開始します。光学迷彩起動。以降創造主様に関することは脳内会話となります。ご注意を」
「わかってる。念には念を入れてってやつだな。謎技術に感謝だぜ」
AIの報告に身体を硬くする翔太郎。
シートベルトはないのかと周りを見るが、船長ロボもゴブリンロボも立ったままなので必要ないのだろうと思い直す。
スクリーンを見て、すでに上昇が始まっていたことにやっと気付いた。
翔太郎は、飛行機の離陸をイメージしていて、船内にもエンジン音が響き渡り、Gが掛かるのではと思っていたが、エレベーターレベルの揺れさえ感じなかったのだ。
アーテラスの科学力はまさに魔法のようだとこの日何度も思った。
「第3フェーズに移行します。ドックから船体を出すと同時に人間たちから魔力を除去します。実行してよろしいですか?」
「許可する。さっさと終わらせないとプタルカに見つかっちまうからな」
「アイアイサー。ダンジョン方面に向けて魔力除去波照射します……処置終わりました。これより第4フェーズ、人間の回収に移行します。よろしいですか?」
翔太郎の許可が出たとたん、スクリーンの中の人間たちはバタバタと倒れていった。
「許可する。最大人数で頼む」
「アイアイサー。ロボット兵全機出動。ならびに原計画に従い艦載機全機発進します」
味方の光学迷彩は無効化した画面には宇宙船から翔太郎にも馴染みのあるフォルムの戦闘機が何機も発進し、その後ワラワラと大量のロボットが飛び出していく光景が映っている。ロボットといっても皆人間に偽装している上光学迷彩をかけているので、万が一目撃されても不審な点は少ないだろう。まあ、神であるプタルカに光学迷彩がどこまで通じるかわからないが。
今の段階で翔太郎がやることはない。
人海戦術で兵士たちを船内に運び込むのを待つだけである。
「オーナー。ただいま倒れている人間すべてを回収し終わりました。第一格納庫にまとめてあります」
「早いな! さすが神の遺産だな。じゃあ、本来の作戦の実行だ。何分遅れだ?」
「アイアイサー。本船は原計画実行を開始します。本来の予定より20分遅れています」
「20分か。凶と出るか吉と出るか。それとも鬼が出るか蛇が出るか、かな? ま、出てくるのはクソ神なんだがな……」
翔太郎は本来の依頼に向けて心を引き締めるのだった。
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