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第32話 きっと緊張をほぐすためだろう・・・


「オーナー。緊急事態です」


 Xデーまであと一日、翔太郎は無心になってトレーニングをしていたところ、インストラクター役の船長ロボから告げられた。


「またか? まさか中止じゃないだろうな」


「いえ、侵入者だそうです。詳しくはブリッジで」


「わかった。シャワーの時間ぐらいはあるか?」


「はい。それぐらいなら。お急ぎを」


「ああ」


 翔太郎はシャワーを急いで浴び服もいい加減なままブリッジに急行した。


「うーさん、状況は?」


「はい。これを見てください」


 メインスクリーンに大穴の底の映像が映し出された。

 そこには大勢の人間が徘徊している。


「どこの国……って、あそこしか知らねえや」


「はい。おそらくブレスト王国でしょう。ですが、教会の人間と冒険者の姿もありますし、大半は奴隷のようです」


 映像が拡大され、翔太郎にも解説どおりだと判別できた。


「なんだってこんなときに……いや、こんなときだからか」


 作戦決行直前のアクシデント。

 だが、作戦のタイミングは魔物の大氾濫に合わせている。国側もそのタイミングでダンジョン対策を採ってもおかしくはない。


「オーナー、どうしますか? 通常通りコードネーム・メタルドラゴンを出撃させますか?」


 AIに確認され、考える翔太郎。

 実は翔太郎がこの宇宙船の所有者になってからおよそ一ヵ月後、アンドンがダンジョンを離れてから割りとすぐにブレスト王国の調査団らしきグループがここを訪れていた。

 そのときはマニュアル通りメタルドラゴンを出動させ、平常を装わせたのだが、今回は事情が違う。


「あいつら、ここの真上にいるよな。邪魔だな」


 今回は宇宙船が満を持して飛び立つのだ。その際、ダンジョン、大穴の底の瓦礫皆諸共に消し去る予定である。そうなると人間も、ということになるのだが。


「騎士はともかく冒険者と奴隷は殺したくないな。いや、騎士だって命令されただけだろうし、教会の連中もムカつくがプタルカに洗脳されてるようなもんだからなあ……うーさん、ピンポイントで奴隷の首輪だけ壊せるか?」


「可能です」


「じゃあ、メタルドラゴンに威力が小さくて見た目が派手な攻撃をさせることはできるか?」


「可能です。プラズマ砲の設定次第です」


「さすが神サマの遺産。

 じゃあ、ドラゴンは時間まで待機。どうせあと一日だからな。

 時間になったら近隣に派遣予定のドラゴン全機出動させて威嚇攻撃。そのとき奴隷の首輪も壊しちゃって。

 ドックの範囲から追い出したらドラゴンには予定通りに近隣都市に出撃してもらおうか。

 それから船を動かして、同時に魔力除去であいつらを気絶させてから動かせるロボット全部使って回収する。

 予定より仕事が増えたけど、問題ないか?」


「誤差の範囲内かと。それにこの作戦であれば敵に本船の姿を見せる前に意識を失わせることができます。侵略者プタルカに知られるタイミングも予定より早まるということはないでしょう」


 翔太郎にとってはプタルカがどんな方法でこの惑星を監視しているかわからない。信者の目を通してなのか、人工衛星のようなものがあって随時地表を見ているのか。

 前者ならプタルカにも何が起こったかは伝わらないだろう。

 後者であれば船がドックから出た瞬間に存在がバレる。


 といっても、元々宇宙船は囮予定で見せ付けるつもりだったのだ。兵士たちを回収する時間分予定が遅れることになるが、AIの言うとおり誤差なのだろう。


 翔太郎はアドリブの作戦に自信を持った。


「よし、じゃあそんな感じでよろしく。ロボはなるべく多く出してくれ」


「はい。現在残っているエネルギーをすべて回します。作戦が始まればエネルギー吸収も堂々とできますから逐次投入も可能です」


「エネルギー吸収か。何度聞いても謎技術だよな」


「オーナーも生体改造をすれば理解できますが」


「いや、それはやめておくよ。まだ普通の人間でいたい」


「オーナーの望むままに」


 翔太郎は訓練の合間に座学で超科学も学んだ。しかし、AIの勧める脳に直接知識をインストールするという方法に、肉体改造と同じこだわりを発揮して拒絶、原始的な読み書きの手段を採った。だが、これでは、たった数ヶ月では学習が大してはかどるはずもなく、理論は理解できないが実際に使えればかまわない、というレベルだ。


 だが、翔太郎は神・アーテラスが施した治療の内容を知らないだけであった。


「じゃあ、そういうことで。俺は最後の追い込みだな」


 知らぬが仏の翔太郎は、人間単独による宇宙船のリスタート訓練の最終チェックに移った。今は何かしていなければ緊張に押しつぶされそうになっている。

 性格が変わる以前であったら、すでにメンタル崩壊していたことだろう。


 そして慌しくも日付が変わり、Xデーがやってきた。

 ギリギリまでトレーニングをしていた翔太郎は、身なりを整えブリッジの艦長席に陣取っている。


「オーナー。決行まで一時間です。準備はすべて整っています」


「よし。うーさん、ありがとう。俺も何とか一人で動かせるようになったと思う。後はジタバタしないで時間まで待とう」


「はい」


「オーナー。創造主様からこれを。プレゼントだそうです」


 いつもそばに付き添っている船長ロボが何か手渡してくる。


「なんだ? 服か?」


「船長服だそうです」


「船長って、船長の服がこんな真っ黒……あのやろう、またネタに走りやがって……確かに船長だろうけど、これはキャプテンのほうだろうが……」


 広げてみると、細めのシャツ、細めのズボン、細めの膝丈ブーツ。そして高襟のマント。どれもが真っ黒でシャツには大きなドクロのデザインが。


 ゴブリンロボが服以外の装備を差し出した。


「うわ、これ戦士の銃だ。サーベル銃もあるし、眼帯もかよ。うわ、キズのイミテーションまでついてる。細かすぎんだろ……」


「オーナー。創造主様からメッセージが届いております。読み上げましょうか?」


「メッセージって、絶対この場を覗いてるんだろうが……まあ、頼む……待った! うーさんがあの野郎の口調でしゃべるとうーさんの上品なイメージが壊れる。アーたんの声で頼む」


「お気遣いありがとうございます。それでは創造主様の声で再生します」


『やあ、僕のプレゼント気に入ってくれたかな? ああ、お礼はいいよ。これはメッセージだからね』


「こんなコスプレ、頼んでねえよ……」


『おや、気に入らないかい? 今の君の体格じゃパツパツのコスチュームは似合わないよ? まだ細身だし、マントが似合うんじゃないかな?』


「だから、コスプレしたいわけじゃねえんだよ! メッセージの癖にいちいち反応すんな!」


『只のコスプレじゃないよ? 僕たちレベルの科学の結晶さ。防刃防弾だし、別売りのヘルメットをつければ短時間なら宇宙服にもなる気密設計さ。ああ、マントは真空中でもはためく仕様だよ。存分にダークヒーローしてくれていいよ?』


「無駄に細かい! 省エネはどうした! つーか、別売りってなんだよ!」


『あははは。それから、その銃、レプリカだけど銃としては本物だよ? 反動は今の君の体力に合わせているから安心して使うといい。訓練も順調そうだったしね?』


「やっぱり見てたんじゃねえか……」


 翔太郎は体力トレーニングの成果が出て、病弱レベルからアスリートレベルまでになっていた。恐るべきはAIのトレーニングメニューなのだが、その時点から戦闘訓練も開始した。ロボットたちとの格闘技、刀剣による白兵戦、そして様々な遠距離兵器の射撃訓練である。


『それからね、その眼帯、この作戦で一番役に立つと思うよ? 当然視界は遮らないし、超小型の魔力除去装置とエネルギー吸収装置、それからエネルギー放出装置がついてるんだ。傷跡に見える部分はアンテナだからはずしちゃダメだよ? 魔法攻撃なんかタイムラグなしで跳ね返すことも出来るよ。あ、バリヤー的にも使えるから狙撃されても平気さ。ね? これからのシナリオで使えるでしょ? あ、もう一つおまけで相手のレベルがわかるよ。眼帯型だから思わず付けちゃった』


「それってスカウター……」


『違うよ? それの名前はザ・素カウンターだよ。素でカウンターしてくれるからね』


「どうでもいいが、やっぱりメッセージじゃなくて本人が話してんだろ?」


『あははは。違うよ? 神のメッセージなんだから、こんなこともあるさ』


「反論できねえ。くやしい……」


 作戦決行まであとわずか。

 ブリッジは緊張とは程遠い、謎の雰囲気に包まれている。



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