第30話 閑話3 アンドンの華麗なる冒険2
「……知らない天井だ……ここは……」
俺はアンドン。しがない冒険者だ。いや、冒険者だったというべきだな。
それは覚えている。それから……
「そうだ! タロー! タローはどうしたっ!」
俺は飛び起きた。
周りを確認すると廃墟のような場所。だが、天井も壁もしっかりしているので誰かが運んでくれたのだろう。
思い出したんだ。魔力食らいとの一戦を。
俺は確かに大穴の底のど真ん中で倒れた。こんな場所じゃねえ。
「誰かいないか……おーい、タロー……」
冒険者の勘か、ここはまだ大穴の底ではないかという恐れがあった。小声で呼びかけてみる。魔力食らいを呼び寄せたらたまらない。
が、何の返事もなかった。
恐る恐る外に出てみる。
ブルっと震えが来た。
寒い。よく見りゃ服がボロボロだ。靴もねえ。
俺はよく生きてたな。部屋ん中に運び込んでくれたヤツに感謝だ。
だが、俺は置いて行かれたようだ。
ここは確かに大穴の底だった。こんな光景がほかにあるはずがねえ。
俺を運んでくれたのはタロー? 俺を置き去りにした騎士どもなわけがない。きっとタローだ。
じゃあ、タローはどうした? まさか囮になって魔力食らいにやられたのか?
怪我でもしてるならダンジョンで休んでいるかもしれねえな。
仕方ねえ。逃げられるチャンスなんだが、首輪もあるし、合流してやるか。
俺は魔力食らいが出てこないことを願いつつ、ダンジョンに向かった。
何故か方向がわかる気がする。まあ、冒険者の勘だな。
おっ、剣が落ちてるぜ。鈍らだが、ないよりマシだ。
おっと、今度はブーツか。こりゃ以前ここに来た冒険者の成れの果てだろうな。気味が悪いといえばそうなんだが、今の俺にとっちゃありがたい。
おお。もしかしてと思ったが、ほかにも装備があるぜ。名も知らない先輩たち、ありがたく使わせてもらうぜ。
俺はボロ服の上から拾った防具を装備した。これなら王都でも何とか通用するだろう。
あとは食料があればいいんだが……
ああ、そうか。ここはダンジョンだ。食い物になりそうな魔物もいるだろうし、宝箱が出たら食いモンが入ってるかもしれねえ。何でもアリなのがダンジョンだからな。水場だってあるだろう。
そうと決まれば早速進入だ。
うまくいけば俺自身レベルアップできるからな。
ここは、なんとなく覚えてる。最後に野営したところだ。
おっ、荷物があるぞ?
おお! 食料だ。小麦粉に塩、水樽もまだ中身がありやがるぜ! なんだこりゃ?
こりゃたぶん、騎士どもが急いで帰っちまって荷物を捨てて行ったんだろうな。
タローはどうした? いないぞ。
荷物を置いて行ったってことは、かなり急いでいたな? タローの怪我はかなり重いんだろうか?
まさか死んだのか? あり得る。騎士ども慌てて報告に戻ったんだろう。
クソッ! また国と教会のせいで人が死んだ。
仇はきっと俺がとってやるからな!
だが、俺は生きなきゃならん。荷物はありがたくもらってやろう。
ああ。水がうめえ。
薪もあるな。俺とタローが苦労して運んだ残りだろう。俺が使って当然だな。
しかし、鍋が……探せばあるもんだな。重いから置いていったのか? 贅沢なやつらだ。
後は、おう! 服の換えもあるのか。これは着てやらないと。
湯が沸くまでちょうど時間もある。着替えてしまえ。
ああ……小麦団子の塩スープ。おいしゅうございました。
後は肉があればごちそうだな!
よし、狩りだ!
剣が心もとないが、さすがに騎士どもも置いていかなかったようだ。しょうがない。何とかなるだろう。
ダンジョンを進むと何か音が聞こえてくる。
そっと近づくとゴブリン同士で争っているようだ。
だが、体格が違う。
アレはホブゴブリンだ。ここはダンジョンでもかなり下になる。強い魔物がいて当然だ。
しかし、仲間割れとはチャンスだぜ。
俺はタイミングを見計らって……今だ! 飛び出した。
後ろを向いている二匹をほぼ同時に切りつける。
周りの連中も争いの手を止めて俺に目を向けた。
だが遅い!
俺はさらに二匹を切った。
残るは……確か残りは二匹だと思っていたが、一匹だった。余計に簡単になったぜ。
剣は鈍らだが、相手も一匹。
何とか倒した。
コイツ、俺よりいい剣使ってるな。交換してやる。
なんだかドンドン装備がよくなっていくぞ。これもツキが回ってきた証拠だな。
よし、ツキがあるうちに進むぞ。
おお! そんなこと言っていたら新たな魔物が出現した。こいつは普段は山に出てくるはずのマウンテンボア。さすがはダンジョン、脈絡がない。
しかし、ゴブリンと違ってこいつは美味い。絶対に仕留める!
「ブオーッ!」
いきなり転んだぞ? おっと、とどめだ。
いやー、ほんとについてるときはついてるもんだ。ダンジョンは足場が悪いからな。俺も転ばないように気をつけよう。
さて、早速獲物の解体だ。
水場は……むむ? あっちにありそうな気配が……おお! ほんとにあった。俺の勘スゲー。
重いが何とか水場まで運んだ。
一人じゃ食い切れねえほど肉がある。もうダンジョンを脱出したほうがいいんじゃないか?
いや、待てよ? 俺がどのくらい寝てたか知らんが、騎士どもまだ近くにいるかもしれん。見つかったら難癖つけられて殺されるかもしれん。
ほとぼりを冷まそう。その間にダンジョンに篭ってレベル上げしたほうがいい。
そんな気がしてきた。よし、そうしよう。
その後俺は、何日かけたかわからないが、ダンジョンで戦い続けた。
ゴブリンやオークたちと斬り合い、四足の魔物を狩る。時に宝箱から小麦粉やパンが出てくる。
おかしく感じるが、これは、ダンジョンの宝箱は大抵が質のいい武器が出るものだが、時には財宝も出るのは、ダンジョンが冒険者の望むモノをわかって、もっと挑戦するようにさせるためだといわれているのだ。
確かに、今の俺にとっちゃ、金銀財宝より一切れのパンが最高のお宝だ。ダンジョンに見透かされているとは恐ろしい。
だが、いけるところまでいってやろう。
こうして俺はダンジョンに篭っていた。
しばらくして、自分でもわかるぐらいステータスがあがった。
そろそろほとぼりも冷めただろう。
俺はついにダンジョンを出る。
行き先は、もちろん故郷だ。
だが、砦はどうする? この首輪があると問題になりそうだ。
海を渡るか。
よし、そうしよう。
俺は南下した。
海岸に出ると、まだツキが落ちていないのか、船が漂着していた。おそらく漁師が流してしまったのだろう。まだまだ使えそうだ。
すぐに乗り込む。
櫂も壊れていないようで懸命に漕いだ。
俺は海のことはわからないが、潮の流れというのがあって時間によって変わるらしい。今はちょうど人間の大陸に向かって流れているようだ。
日が暮れたころ海岸に到着した。たぶん東の辺境伯領だろう。西に行けば王都だ。
暗いし、人目はなさそうだ。早速上陸した。
おお! 我が故郷よ、私は帰ってきた!
そんな芝居を見たことを思い出した。
それぐらい感動した。
後はこの首輪がどうにかなれば……なにっ!
ちょっと引っ張ったら取れてしまったぞ?
なんで? ……考えても答えが出てこない。おかしい……
ま、外れたならどうでもいい。これで大手を振って……は無理だが、怪しまれずに済む。
さあ、奴らに一泡吹かせてやる。
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