第28話 何て隙のない作戦だ
「オーナーがあの人間の身の安全が心配でしたら、対策はあります」
宇宙船AIの言葉を聞いて、翔太郎は顔を上げ前方を見つめる。といっても宇宙船AIは人の姿をとっていないのだが。
「教えてくれ」
「はい。あの人間をレベリングさせます」
「レベリングってゲームのか?」
「はい。ゲームのような、です。この星の法則は侵略者プタルカによって変えられてしまいました。それを利用するのです」
「具体的には?」
「はい。ちょうどダンジョンがありますから、物資を手に入れるという名目で付き合わせましょう。パーティーに加われば自然に生活物資を供給できますし、レベルも上がるので一石二鳥です」
「しかし、魔族の偽装して助けるんだろ? 怖がられるんじゃないか?」
「それでは……『船長』のような人間に偽装したロボットも加えましょう」
翔太郎は船長ロボとゴブリンロボの二人を見比べる。
「余計に混乱しないか?」
「はい。最初はそうかもしれませんが、神の有り方に疑念を持った同志だと紹介すればあの人間もプタルカへの疑心が深まるでしょう。一石三鳥です」
「アンドンもモニターされてる可能性があるんだろ? ロボットたちが危険視されないか?」
「決定的なことを言わなければ、ある程度の不満不平を持つ人間は多いはずです」
「そういえばアンドン自身がそれで犯罪者になったんだっけ。じゃあ、あと問題になりそうなのは……アンドンが仲間になってこれからも行動を共にしたいって言ったらどうする? 俺としては最初はそのつもりだったし。あと、逆にすぐ国に帰りたいって言ったら?」
「そうですね……同志となる人間を探す名目で国に帰します。すぐに帰りたがった場合は当初の予定通りです。闇に乗じて海から人間の砦を迂回して解放します。当座の物資として少々の食料とサンプルとして回収していた魔石を与えればこちらとの接触が少ない分危険も少なくなるでしょう」
「う~ん、それで行くか……」
「オーナー、これまでの会話でデータが更新され、新たな方策が提案できます。しかし、オーナーが生理的に受け付けない可能性があります」
「ん? 聞いてみないと判断できないだろ? 教えてくれ」
「はい。洗脳です」
「洗脳?」
翔太郎は宇宙船AIの提案に眉を顰め、鸚鵡返しする。
「はい。言い方を変えて納得されるのでしたら、思考誘導といってもかまいません」
「思考誘導……具体的には?」
「はい。魔力を除去した奴隷の首輪が手に入りましたので、それに思考誘導装置を組み込みます」
そういえばと、翔太郎は自身の首に手を当てるが、すでにそこには首輪はついていない。アンドンの首輪も取れているのだろうと考え、再びAIの説明に耳を傾ける。
「レベリングは予定通り行いますが、ロボットには光学迷彩を施し、視界には映りません。音声による指示は他人の声ではなく自身の内なる声として認識させます。
不自然に魔物が弱体化するのは運がいいと錯覚させます。食料など生活物資が入手できるのはダンジョンだから不思議ではないと深く考えさせません。あくまでも自発的にダンジョンを攻略して生き延びたと思わせます。
その後十分物資を持たせて国境近くの海岸に誘導します。そこで幸運にも使用可能なボートが漂着しているのを発見させます。姿を消したロボットが航路を決定しますので、運よく無人の海岸に辿りつきます。その後ダンジョンの戦闘の影響でタイミングよく首輪が壊れ、奴隷からも解放されます。
これ以降は思考の誘導ができませんが、ほかに目撃者がいなければ、我々の存在は一切記憶に残らず、例え侵略者プタルカがあの人間を調べたとしても痕跡は残りません」
何て隙のない作戦だと翔太郎は思った。
思わず了承してしまいそうになったが、寸でで思い留まる。
「思考誘導という名の洗脳か……目的のためなら手段を選ばずの見本だな。どうすりゃいい? アーたんなら、何て言う? 自分で考えろ、だろうな」
翔太郎は悩んだ。
性格が変わったと指摘され、自分でもポジティブに、決断力が強くなったと感じてもいる。
しかし、決して傍若無人になったとは思っていない。日本での生活によって植えつけられた倫理観、価値観はそのままなのだ。
SF派閥に属する神・アーテラスは基本的に人類に不干渉の立場をとっている。今回非常時につき翔太郎に応援を依頼したが、それは惑星からの脱出に関してで、決して派閥の方針に関わることではない。利敵行為でなければ翔太郎の自由にしていいとの言葉もある。
そもそも、神が人間ごときの生死に一喜一憂するはずもなく、計画の邪魔にならなければどうでもいいというスタンスなのだ。
翔太郎は倫理と任務の間で悩む。
これが中間管理職の悲哀か、などと皮肉を思いつくぐらいに精神が落ち着いたところで、実はこの選択が最悪のものではないと思いついた。
AIは一言も提案しなかったが、実はもっと簡単な方法がある。
それは、アンドンを殺すことだ。
自ら手を下す必要もない。寒空の中船外に放り出せばそれで終わりだ。無駄なエネルギーを使うこともなく、プタルカに察知される気遣いもない。正に完璧である。
オーナーとなった翔太郎の精神状態を考えなければだが。
それはAIもわかっているからこそ提案もしなかったのだろう。
そう翔太郎は考えた。
「あの、オーナー? お悩みのようですが、オーナーは病み上がりです。今必要なのは十分な栄養と休息です。考えるのはその後にしたらいかがでしょうか。あの人間も今すぐ危険な状態になるわけではありません」
「病み上がりか……」
今日はいろいろ有り過ぎて自分が癌だったことも左手を失っていることも忘れていた。
ふとその左手に目がいく。
そしてまたふとあることを思いつく。
「なあ、俺の左手のギミック、いつできる?」
「すでに製造は始まっていますので明日中には」
「早いな、おい」
翔太郎は決断するのにも少し時間をかけようとも思ったが、かけすぎても意味はないと、依頼していた義手の完成時を締め切りにしようと考えたのだ。思ったより早かったようだ。
「はい。言いにくいことですが、オーナーのイメージよりも少しばかり……かなり細めになりますので組み込む機能も少なくなってしまうのです」
「ああ……なるほど……」
珍しく言いよどむAIの答えに、翔太郎は隣に立っている船長ロボを見て、自分の腕と比べる。
そして、昔からファンだったSF作品に思いを馳せた。
宇宙を股にかける自由な海賊。毒蛇と呼ばれ鋼の精神と肉体を持ったスーパーヒーロー。
翔太郎は何の因果か宇宙船どころか宇宙要塞まで手に入れてしまった。
しかし、貧弱な身体は比べるべくもない。
ため息が出る。
「オーナー、ご安心ください。適切な栄養バランスと最新鋭の訓練メニューでオーナーも理想の肉体を手にすることができます。必要ならエネルギーを治療槽に回して短期で肉体改造が可能です。如何しますか?」
自分の黒歴史を完全に知られた上AIに気を使われたことを理解して翔太郎は結論を先延ばしにした。
「いや、今は身の丈に合ったものでいい。アンドンのことも、義手ができてから結論を出す。それでいいな」
「はい。オーナーの思い通りに。『船長』が案内しますのでお部屋でゆっくりとお休みください」
「ああ、わかった。あとは頼む」
「はい」
船長ロボに連れられ翔太郎はブリッジを出て行く。
ブリッジには静けさが訪れた。AI同士が会話するのに音声は必要ない。それぞれが創造主に与えられた役目をこなしていく。
*********
某国王宮にて。
「魔物の被害が増え始めているという報告が相次いでおりますな」
「もうかよ。いつごろになる? 勇者は間に合うのか?」
「早ければ一ヶ月。遅くとも三ヶ月だろうと予想されていますな」
「一ヶ月か……で? 勇者は?」
「さて、問題ばかり起こしていると苦情は来ておりますが、成果が出たという報告はありませんな」
「クソ餓鬼どもめ。何とかならんのか?」
「私の職務ではございませんので。ああ、勇者といえば、一人死んだという噂が流れておりますな。そのことも影響しているのではないかと」
「うわさじゃ済まないのが悩ましいな。クソ教会め。責任取りやがれってんだ」
「聞かなかったことにします。職務外なので」
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