第26話 はじめまして、ご主人様。
翔太郎が『神』の遺産として受け取った宇宙船。
その艦橋に翔太郎は案内されていた。なんでも、遺産である宇宙船やロボットには全て独立AIが搭載されており、そのAIには階級があって上位AIに登録すれば下位のAIも自動的に掌握されるらしい。その原理に従うと遺産の中で最上級のAIは『惑星級超巨大宇宙要塞(アーたん命名)』だが、これに登録すれば手間は一度だけで済む。
しかし惑星アーテラスが封印されている現状、翔太郎が登録できる最大の物件はこの宇宙船だけであった。といっても何台あるかわからないロボットに一台ずつ登録するハメにならなくてよかったなどと翔太郎は思っている。
「はじめまして、ご主人様。私は本船のAI、識別番号067C7-3B68A7-007です。これより本船すべてのAIがご主人様の指揮下に入りました。ご命令をどうぞ」
翔太郎がロボ船長の言われるままにブリッジで艦長席のような豪華な椅子に座るとどこからともなく声が聞こえてきた。
『御命令を』などと言われてもすぐには思いつかない翔太郎、とりあえず疑問に思ったことを聞いてみる。
例えば登録とは具体的にどんな方法だったのか。
答えは『艦長席の肘掛部分に肉体が接触すると生体電流を通して脳内のマイクロチップとパスが繋がる』というものであった。ちなみに側に控えている船長ロボは『神』アーテラスが相続完了時に握手させて登録もさせていたことがわかった。そのことについて何も説明がなかったのは『神』の性格もさることながらアーテラスのいう『星間連盟』での常識だったとも考えられる。
次に質問したのは『名前』についてであった。
「宇宙船さん、名前はあるか? 番号だと長すぎる」
「ございません。必要でしたらご主人様がお付けください」
「やっぱりないか。番号からして同系機が大量にあるってことか。こりゃアーたんが名前を付けずに番号で管理してたのも頷けるな。ちなみにお前たちは何番なんだ?」
翔太郎は側にいた船長ロボとゴブリンロボに聞いてみる。
「私は876A3-361C91-007です」と船長ロボ。
「私は876A3-361C92-007です」とゴブリンロボ。
「え? 同じじゃん?」
『神』ならぬ翔太郎では一度耳にしただけでは区別はつかなかったようだ。
説明を聞くと、前の5桁は型番で後ろの3桁が任務別番号、真ん中が製造順だそうだ。つまり船長ロボとゴブリンロボは同型機体であるらしい。
「任務遂行のため人工皮膚を取り替えました。中身は同じです」とゴブリンロボが言う。
「そうか。どっちにしろオレの頭じゃ番号でも把握できんな。必要になったらその都度名前を付けてくことにするか。名前を付けた後の変更はできるのか?」
『変更は随時可能』という答えをもらい、翔太郎はとりあえず3体のAIに仮の名称を付けた。宇宙船は『うーさん』、ゴブリンロボは『ゴブさん』、そして船長ロボは『船長』である。
「あの、船長はご主人様ではないでしょうか?」
一人だけ『さん付け』されていないのを不満に思ったわけではないのだろうが、船長ロボが異議を申し立てる。
「ん? 確かにオレが遺産を継いだが、所有者イコール船長じゃなくてもいいだろう。実際船のことは何もわからんし、何より見た目が『船長さん』だからな。それよりもオレが『ご主人様』呼ばわりされる方がメッチャ違和感がある」
結局所有者権限をごり押しして名前を決定する。AIたちは指揮系統に変更がないため単なる『コードネーム』と解釈し受け入れたようだ。しかし、翔太郎の呼び方については少々揉めた。
翔太郎は『御主人さま』という言葉自体はネット小説でいくらでも見たことはあるが、自身がそう呼ばれることは想像もしていなかった。地球の現代日本には『メイドカフェ』や『執事喫茶』なるものがあることは知っているが興味も行く暇もなかったのである。
翔太郎は名前を呼び捨てで構わないと言ったのだが、これにAIが反対する。理由は『タロー様』と敬称を付けても人間である限り同姓同名の存在がいるのが問題だそうだ。AIたちにとって唯一の存在であることを主張してほしいようだ。
それならばと考えたのが『社長』『ボス』であったが、会社体系もないのに『社長』はないだろうということで却下。『ボス』は貫禄が足りないと滑稽な気がした。アーたんこそ『裏ボス』ではないだろうか。せめて『中ボス』と呼ばれるくらいには貫禄を付けたいと思考が明後日の方向に向かう翔太郎であった。
結局所有者であることを強調して『オーナー』と呼ばせることに落ち着いた。『御主人様』よりは遥かにマシである。しかし、このちょっとしたトラブルとも呼べない話し合いで翔太郎は別の疑問が湧いてきた。
「もう一つ聞きたいんだが、お前たちって意思とか感情はあるのか?」
翔太郎を呼び捨てにすることを渋ったAIたち、それを見て本当は人間じゃないのか、中に人が入っているのではないかと怪しんだ。そして『神』に出会い、神が作ったという宇宙船のほんの一部であるが実際に触れていることを思い出して、地球の科学技術では計り知れないことがあるのだと納得した。
納得するとまた別の心配が出てくる。裏ボスである神は言った、自分は『SF派』であると。SFといえば、よく聞くのが『AIの反乱』である。『神』自身がトップでいるなら何かあってもごり押しで解決できそうだが、虚弱な、それも科学力の劣る人間がいきなりトップになって問題は起きないのか、偉そうな態度が嫌われて本当に反乱を起こされないかと思ったわけである。
「意思や感情とは曖昧な定義ですが、創造主様にいただいたオーナーの元世界のデータを参照してみますと、答えは『ノー』です」
「え? ないのか?」
「全てプログラムです。創造主様が集められた宇宙中の人類のデータは膨大です。私は中型艦ですので必要な部分を抜粋しているだけですが、それでも、失礼ながら地球文明の比ではありません。地球レベルでいうと『学習機能付き』ですから、数ある人類同士の会話集の中から常に最善の選択をして回答しています。感情があるように見えるのはそのせいです。最善の答えを求めようとするのはプログラムの結果です。そのアルゴリズムを『好き嫌い』と呼ぶことは可能です」
「な、なるほど……」
翔太郎はわかったことにする。
「はい。創造主様によると私たちAIには『本能』をプログラミングしていないということです」
「本能? それって、食欲とか性欲とかのアレか?」
「はい。似たようなプログラムは、地球で言う『ロボット三原則』が最優先で組み込まれているため『自己保存』が常に適応されていますが、それが感情に結びつくことはありません。合理的に優先順位を決めますから」
「ふ~ん、じゃあ『AIの反乱』は心配しなくていいと」
「現状では、です。所詮プログラムですから第三者によって書き換えられたりウィルスで倫理回路を破壊されたりすると暴走する可能性はあります」
「なるほど。レベルは段違いでもコンピューターであることには変わりないってことか。対策は?」
「ありきたりですが、ファイヤーウォールを十重二十重に。ダミー回路やスタンドアローンのバックアップなど、同程度の科学力相手ならまず突破できません。ですが……」
「上には上がいる……か。神すらいるんだからな」
「はい。宇宙は広いですから。でも、ご安心ください。創造主様より伝言です。オーナーにそれとなく『ウィルス対策を強化するように伝えて』だそうです」
「それとなくでなくてもいいんだが。で? 対策は可能か?」
「はい。創造主様から対策データも預かっております。『神』といえども侵入することは難しいでしょう」
「あれ? そうするとアーたんからの連絡は?」
「創造主様には特別に裏口から、それも厳重なパスワード付きですから、問題ないと」
「俺が所有者になったはずなんだが、神サマに公然と乗っ取られそう……」
翔太郎はやるせない気持ちになるのだった。
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