第24話 面接
神ロボが気を取り直して説明を始めた。
「コホン……キミの好きなネット小説だと、『神が気紛れでチート与えて、後は勝手にどうぞ』なんてよくあるパターンだけど、それって僕にとってメリットがなさすぎる。だから依頼と報酬という形式にしたし、『神』の事情を知ったからには今後の関係も心配になる。
『面接』と言っても、重要なのは『僕たちの派閥の方針に従う意思があるかどうか』なんだ。キミは受け入れるって言ったけど、敵対派閥について何の説明もしないのはフェアじゃない。勿論敵に対する配慮じゃなくて、キミに選択権を与えるためだよ?
キミは『神』を全くといっていいほど神聖視してないから説明が楽といえば楽なんだけど、先に言っておくね、僕たち神にも感情がある。自分の派閥は持ち上げて敵対派閥はネガキャンすることもある。主観的な説明にもなるかもしれない。そこはわかってほしいかな?」
「ああ。人間と同じだろ? わかりやすくていい」
「わかってもらえてうれしいよ。じゃあ、始めるね?
『神』の派閥はザックリ大きく分けて二つ、いや、三つかな? 一つは『ファンタジー派』。何度も口にしたね。もう一つが『SF派』。残りはどちらでもない、ほぼ個人主義の神たち。纏まりも何もないから派閥とも呼べないけど一応『中立派』。今回はあまり関係ないから無視していいよ。
さて、僕がどの派閥かわかるかい?」
「そりゃ『SF派』しかないだろうが」
「あははは。まあ、軽い冗談さ。ああ、呼び方も冗談みたいに思えるだろうけど、見た目のイメージで何となく使ってるだけだからあまり突っ込まないでね?
で、呼び名もそうだけど、『派閥』っていう言い方もちょっと現状にそぐわないんだ。本質は別だからね。
『派閥』ってさ、同じ組織内、国とか会社とかの内部で使う言葉なんだけど、昔は『神同士は仲間』って考え方があったから『派閥』という分け方も正しかったけど、今は完全に敵対してるからね。『主義・思想』で分けるのがいいと思う。地球でいうと『社会主義』対『資本主義』みたいな?
『神』同士の争いの一端はね、『人類に対する干渉を積極的に行うか否か』ってことなんだよ。僕がどちらかはわかるかい?」
「うーん、ファンタジーものには『神』が普通に出てくることを考えれば、不干渉なんだろうけど、そしたら今人間であるオレの目の前にいるお前は何なんだ、ってことになるんだが……」
「あはははは。わかりにくかったかな? 不干渉じゃなくて消極的って感じだね。文字通りの不干渉なんて不可能だよ。厳密に言えば『惑星の観察』も干渉に当たっちゃうでしょ? 知的生命体が存在しているかしていないか確認もできないと困るんだよ。まあ、中には『神』になってから自分の空間に閉じこもりっぱなしのヤツもいるけど、そういうのは今は無視。
そうだねぇ、人間の社会で例えると……『教育ママ』と『放任主義』かな? 不干渉というのは『育児放棄』といえるから別問題だね。
で、同じ町内にABCの家族がいるとします。Aが『教育ママ』。BとCが『放任主義』だとします。これまでは主義が違っても同じ町内同士普通に交流がありました。ところがいつの頃からかAの教育熱心のレベルがエスカレートしました。暴騰です。AはついにBCの家にまで土足で上がり込み勝手にBCの子供を教育し始めたのです。
これに対しBは怒りました。激しく言い争いになり、通報も訴訟も辞さない覚悟です。対してCは、こりゃまいった、とさっさと引っ越して行きました。
その後Aは『教育ママ』仲間を集めBを非難するどころか暴力に訴えてきました。Bも仲間を集めて対抗することに。
こうして『教育ママ』対『放任主義』の戦いは長く続くことになるのです。
めでたしめでたし」
「めでたくはないな。だが、すごくよくわかる。詰まるところ、争点は『各家庭でなら主義主張は勝手にすればいい。人様の家にそれを持ち込むな!』ってことか? よくわかるぞ。オレも前の会社で何度クソ課長に仕事に横槍入れられて手柄だけ横取りされたことか。うん! わかるぞ、その気持ち!」
「微妙に違うと思うけど……いろいろ溜まってたんだね……」
「というワケで、マジにアーたんの派閥に入る決心がついた! この世界に来て神の、プタルカに対する印象は最悪だったが、アーたんの説明を聞いて最安値更新した! プタルカの派閥なんか頼まれても入らねえ!」
「そう言ってもらえるのはうれしいし、こっちから勧誘してることでもあるけど、派閥には入れないよ? キミまだ神じゃないし、ただ方針に従ってくれれば自由で構わないわけで、別に敬虔な信者になれっていうわけでもないし、関わらないっていう選択肢もあるからね?」
「くどい! 確かに、異世界転移したときはスローライフも考えたがな、神が実在していて人間はその掌の上だって思い知らされた。記憶を消してもらって地球に戻ることができても異世界召喚の可能性はゼロになるわけじゃないし、何よりこのままだとプタルカに負けた気がする。何か、魂が叫んでるみたいだ」
「魂って、そんなタイプだっけ? あー、あれかな? 二十年以上腫瘍で脳そのものだけでなく精神も圧迫されてたのが解放されてナチュラルハイになってる感じだね。う~ん、でも、一時の衝動で決断されてもなあ~」
「いいじゃないか。衝動的にだって。オレだってガキじゃないんだから自分の発言に責任ぐらいは持つぞ。まさか今までの説明が全部出鱈目でお前が本当の邪神だったという展開なら、オレも前言撤回して反旗を翻すがな。大体、神サマなら未来にオレが裏切るかどうかぐらい予知とかできるんじゃないのか?」
「あははは。そんな面倒な嘘つくぐらいなら洗脳した方が手っ取り早いさ。まあ、『洗脳』って言葉も程度の問題で、強いて言えば『教育』や『広告』だって『洗脳』だろうけどね。『ネガキャン』なんて、僕たちの派閥的にはギリギリの線なんだよ?
知ってる? 『言葉』には『魔法がかかってる』って。勿論比喩的な意味だよ。雑談として話したけど、この世界の『魔力』って言葉だけじゃない、『神の恩恵』とか『御神託』なんてのは人間の思考力を奪う、正に洗脳さ。
アイツらは平気で人間を洗脳する。ううん、もしそれがアイツらの縄張りの中だけなら神同士で争うこともなかった。ムカつくけど。
他人の縄張りまで手を出されちゃ、売られたケンカは買わないとね」
「話がずれてるぞ? まあ、オレへの依頼ってのは、そのケンカに加勢しろってとこか? 只の人間が役に立つのか?」
「ああ、ゴメン。依頼の詳細はもうちょっと待って。あと一つだけ説明が残ってるから」
「何でもいいぞ。オレとしてはさっさと『面接』の合否を聞きたいがな」
「物事の過程はしっかりと踏みたい性分なんだよね。これも面接試験の内だと思って我慢してね。
さてと、派閥の抗争の原因はわかってもらえたと思う。でも、それは『抗争の原因』であって、派閥、主義ができた理由じゃないんだ。これから説明するのは更に根本のことになるよ。
そもそも『主義』なんて『方法・手段』にしか過ぎない。大事なのは『目的』。地球での『社会主義』とか『資本主義』とかも前段階に『富国強兵』のためってのがあって、更にその大元に『国民の幸せ』っていう建前や大儀名分があったはずさ。まあ、『目的のために手段を選ばない』が高じちゃって、手段のために目的を忘れちゃう人もゴマンといるけどね。
あ、ここまでが前置きね。それで、僕たち『神』の目的はというと、『更なる高みに至る』ってヤツさ。どう? 神たちの秘密を知った感想は」
「話が長い割りにどこかで聞いたことのあるセリフだな」
「あははは。そりゃそうだよ。だから教えたんだ。まあウチの派閥じゃ人間世界で大々的に宣伝するわけにもいかないけどね」
「ま、そういう方針なら仕方ねえか。で? 話はそれで終わりか?」
「もうチョイ、かな?
僕は『神』を名乗ったけど、ある意味本物の神じゃないかもしれない。キミには秘密にするつもりがなかったからポロポロしゃべっちゃってるけど、僕は、というかほぼ全ての『神』は人間、所謂知的生命体が進化した存在なんだ。
逆に人間の想像力ってスゴイよね? 地球だけでも各地にどれほどの神話があるか知ってるかい? 日本神道でいう『道端の石ころの神』から一神教の『絶対的で全知全能の唯一神』まで、ピンからキリ、これらの定義を全て兼ね備える存在なんて、正に『矛盾』してる。
ところで、いい言葉だよね、『矛盾』って。『パラドックス』なんて言葉より具体的な例をそのまま言葉にした点が最高だよ。
それかともかく、僕たち『神』は人間が想像できる『絶対的で全知全能の唯一神』じゃあない。精々『万能』ぐらいさ。こじつけ臭いかもだけど、万の力はあっても億はない。無限の力なんてそれこそ持ってないよ。それに『絶対的で全知全能の唯一神』が本当に存在しているのかさえわからないんだ。
でも、『人間』から『神』にまで到達できたからには、その先に到達できる可能性だってあるはず。可能性がゼロでないなら『更なる高み』を目指そう、というのが僕たちの存在意義だと思ってる。ゴールも見えずコースもわからない状態だけど、僕たちは長い間試行錯誤してきた。その一環が派閥の活動だったりするわけ。
どう? 改めて聞いて神秘性がなくなったかい?」
「いや、プタルカは胡散臭かったし、アーたんは最初から人間臭かったし、やっぱりなって感じだな」
「うん、うん。あまり『神』を絶対視されるのは困るからね。タロー君いいよ。合格だよ。まあ性分なんで最後まで説明はするけどね。とりあえず相続ね。ハイ、握手」
神ロボはテーブル越しに右手を差し出してくる。
翔太郎も特に違和感を持たずに神ロボの手を握った。
「やっとか。まあ、面白そうなんで話は全部聞くが、面接に合格したんなら、先に『依頼』の話にしないか?」
「ああ、そうだったね。じゃあ、正式に依頼するよ。プタルカを殺してほしい」
「は?」
翔太郎への依頼は『神殺し』であった。
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