第23話 食事中の雑談として聞いてもらってもいいかな
「どう? 身体に異常はないよね? 左腕以外」
翔太郎は一旦治療槽を出るためもう一度意識を落とされた。
次に目覚めた時はベッドの上だったが、目の前にいたのは、白い制服と制帽の、豪華客船の船長風の男だった。金髪で青い瞳のイケメン中年である。
「誰?」
「あははは、僕だよ。これ、船員ロボット。僕が操作してるのさ。あ、ビックリさせるためじゃないよ? 着替えとか食事の手伝いに便利だからだよ。ほら、とりあえずこれに着替えて。あ、応急用の義手を先に着けようか。キミの場合マイクロチップのサポートで簡単に動かせるから」
「お、おう……」
先ほどとは声の質が違うが話し方は同じなので違和感がすごい。
翔太郎はロボット神に言われるがままベッドに座った状態になり、義手を着け、肩や胸にベルトで固定してもらう。
「はい。これでOK。動かしてみて? 頭で考えればいいだけだから」
「お、おう。うわっ、何だこれ? 感覚がないから気持ち悪い」
「あははは。まあ、これは応急処置だから、少し我慢してね。例のものが完成したら感覚調整もバッチリだし、幻肢痛もないよ」
「例の……ああ、サイコガ「サイコーガンね」……ああ、サイコーな。覚えてるよ。楽しみだなあ」
「全くもう……でも、忘れないで? まだキミは相続権を持ってるだけって段階なんだ。僕が不適格と判断すれば、残念だけど何も渡すことはできない」
「わかってるよ。説明と面接だろ?」
「うん。その前に服着ようか。これぐらいはサービスだから」
裸のままだったことを思い出した翔太郎は慌てて渡されたお揃いの制服を身に着ける。義手を思うように動かせず、結局神ロボットに手伝ってもらった。
「同じサイズの服なんだけどブカブカだね。データでわかってたけど、キミ痩せすぎじゃない?」
「十年胃潰瘍で最後は胃癌だったんだ、痩せもするだろ。もう治ってるんだよな?」
「うん。完治してるよ。だからこれからはいっぱい食べてね。さあ、食堂に案内するよ」
その後神ロボットは翔太郎を連れてベッドの置かれている部屋を出た。
扉は翔太郎がSFアニメや映画で見たような、潜水艦にも使われていそうな気密性のある分厚い金属製で自動で開閉していた。通路を見ても似たようなイメージだ。
「ここって、やっぱり宇宙船なのか?」
「うん、そうだよ。相続が確定すればこれもキミのモノさ」
「へ、へえ……」
現物の一端を見て、思わずうろたえてしまう翔太郎だった。サラリーマン時代なら間違いなく精神がフリーズしていただろう。
マイ宇宙戦艦(予定)の内部は広かったが動く歩道なんかがあったりして割と早く目的地に着いた。その部屋はシンプルなテーブルが多数並べられていて大学の学食か社員食堂を連想させる。翔太郎の元会社にはそんな気の利いたものはなかったが。
神ロボに促され適当な席に座ると翔太郎の方にトレイを運んでくるモノがいた。
「ご、ゴブリン!? 違う、でっかいからホブゴブリンとかか? 何でここに……」
「安心して、本物じゃないから、これもロボットだから」
「……その口調……アーたんか……」
「うん、呼んでってお願いした時はスルーしたくせに今さら呼ぶんだ。神の意表を衝くなんてビックリだよ。
ビックリっていえば、この機体は別にビックリさせようと思って作ったわけじゃないよ? ほら、ここの場所『魔大陸』って呼ばれてるじゃん。外で活動する時に便利だからだよ。ミニメカ○ジラは手先が不器用だし。あ、早く食べて、獲れたてのステーキと焼きたてのパンだよ」
「獲れたてって、この世界はステーキが外を歩いてるのか?」
「あははは。面白いね。でも座布団は上げられないかな。せっかく千年ぶりのお客さんのためにわざわざ一狩りしに行ったんだよ?」
「あー、悪い。でも、獲れたての肉は固くて不味いんじゃなかったか? 熟成がどうのとか。それに、大きすぎないか?」
翔太郎の前に置かれたプレートには分厚くて大きい、胃潰瘍時代の翔太郎なら四分の一食べられるかどうかという特大のステーキが乗せられている。
「そこは科学の力で! 熟成なんて、要はたんぱく質がアミノ酸に変化することなんだからバイオテクノロジーで酵素の働きをこれでもかってぐらい促進させたんだ。まあ、自然熟成の方が美味いって人もいるだろうけど、キミってグルメじゃないよね? 大丈夫、そのレベルになると個人の好みとブランドの広告力の問題だから。
パンの方は保存庫の機能で千年でも万年でも品質は変わらないから。それ、また別の世界の小麦粉から作ったんだよ?
サイズだって身体は完治したんだし、大丈夫、食べてたべて」
そう言われて翔太郎も手を付ける。
義手でフォークを持って肉を押さえることは簡単にできた。あとはどんどん切り分けていく。食べるのは右手にフォークを持ち直してだ。
既に魔物の肉は体験済みの翔太郎はそれほど躊躇することなく肉を口に入れた。
「……美味いが、やっぱり魔物の肉なんだよな?」
話しかけた相手はゴブリンロボではなく対面に座っているロボ船長。
「うん。悲しいことにね。でも、『魔力』とかいうふざけた成分は徹底除去してるから動物の肉と変わらないはずだよ。地球の猪みたいなのかな?」
「そうか。で、結局『魔力』って何なんだ?」
「うん。それはこの後の説明で詳しく話すつもりだったけど、食事中の雑談として聞いてもらってもいいかな。疑問に思ってもらえてうれしいし。
そうだね、この世界で、ファンタジー派で使ってる『魔力』っていうのは、僕から見れば放射能、放射線の一種だよ」
「それって、危ないんじゃ……」
日本人にとって、敏感な話題である。翔太郎の手が止まった。
「そうだね。使い方次第だけど危険性は大きいね。でも安心して。その肉は勿論、船内は完全浄化。放射能汚染なんてさせないよ。さ、食べて食べて」
その言葉を信じ、翔太郎は食事を続ける。慣れない固めのパンに苦戦しているとゴブリンロボが水を持ってきてくれる。至れり尽くせりだ。
「話を続けるけど、この『魔力』、地球では勿論未知の物質だから名前はないね。でも、『ガンマ線』とか『X線』ぐらいは聞いたことあるでしょ? それに準じて『デルタ線』……は存在するから、『イプシロン線』とか呼べばイメージしやすいんじゃないかな?
それでもう一つイメージしてほしい。地球に存在する放射能だって被爆すると細胞が異常を起こし癌になりやすいよね、それと似たようなもので、『魔力』イプシロン線を大量に浴びると遺伝子レベルで変化を起こす。ううん、もう『進化』って言ってもいいね」
「じゃあ、やっぱり魔物って……あ、でも、ダンジョンとかでは何もないところからポップするって」
「基本は自然繁殖で間違いないし、僕もこの千年ダウンしてたから詳しくはわからないけど、どうせプタルカのヤツが『神の力』とやらで上手く誤魔化してるんでしょ。それぐらいのことなら僕たちの連盟の人間にだって、細胞一個から無限にクローン増殖できるし」
「それ、どこの人造人間だよ。じゃあ『魔人』も……」
「うん。ヒドイよね。元は人間がベースだったんだろうね。ファンタジー派は誤魔化すのだけは神レベルだし、『魔人』たちも世代が代わって本当のことを知らないだろうけどね?」
「でも、いくらファンタジーだからって、それぐらいのこと誰かが思いついてもいいんじゃないか?」
「思いつくだろうけど、キミも認定されたでしょ? 『異端者』にさ。『数は力』って、どの宇宙でも真理だよね」
「……納得はできんが理解した……それにしても言葉一つでイメージが変わるよな」
「わかってくれるかい? そうなんだよ。アイツらそうやって人間を煙に巻いて探究心を摘み取ろうとしてるんだ。それでも探究心に富んだ科学的思考の持ち主が現れると『神の意思』だとか『神の恩恵』だとか言い出して妨害して来るんだよ? 最後は『異端認定』でチョンだしね。ホント科学者の敵だよ」
「アーたんがファンタジー派を嫌ってるのがよくわかった……」
「うん、それはよかった。
おっと、話しすぎちゃったね。食事も問題なかったみたいだし、『面接』の本番、いってみようか」
「……わかった」
心配していた食事の量も、結局ペロリと平らげてしまった翔太郎。ゴブリンロボが食後のコーヒーらしき飲み物を出してくる。
特に場所を変えることなく『面接』が始まる。
「……その前に一ついいか?」
「何だい?」
「お前たち、ロボットじゃなくてアンドロイドっていうんじゃないのか?」
「そこ重要!?」
「いや、真面目に思った」
「えー……じゃあ、真面目に答えるけど、結局造語だからね? 技術が発展すれば種類も増えて定義が曖昧になってくるんだ。だから古典的かつ広義で応用が利く「ロボット」って呼んでるだけだよ」
「よくわからんが、わかったことにしよう」
「あれ? 僕の説明、ダメだった?」
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