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第19話 王都では

 翔太郎がブレスト王国王都から強制連行され、13日が過ぎていた。


「陛下。例の実験が上手くいったようです」


 この国の宰相であるオットー・プリーシェク侯爵が国王デニス・クート・アラブムソン・ブレストに報告を上げていた。

 ここは国王執務室で限られた者のみ入室が許可されている。


「そうか。予定より早かったようだが、いつ戻ってきたんだ?」


「昨晩報告が参りました。小隊長と検分役二人の都合3名が騎馬により先に戻ってきたそうです」


「そうか。で、例の『異端者』はどうなった?」


「比較対象の囚人共々死亡報告が届いております」


「……そうか……また爺さんにうるさく言われるな。俺ァあの爺さん苦手なんだよ」


「陛下。お言葉使いが」


「かまわねえだろ。ここにはお前しかいないんだからよ。大体お前だって苦手だろ。一緒に扱かれた仲なんだし」


「職務には関係ありませんな」


「かーっ! 言ってくれるねえ。確かに教会の要請に従ったのは国王の俺だが、お前あの時ノリノリで死の宣告してたもんな」


「職務ですから」


「大体、何で教会はあんなに急いで『異端者』認定したんだ? 教皇の許可も取らずによ」


「またその話ですか? 終わった話です。あまり深入りすると問題になりますよ」


「終わったって、また起こるかもしれねえじゃねえか。同じ勇者がまだ5人もいるんだからよ」


「まあ、そうですが……わかりました。あくまで私の推測ですが、今回の『異端認定』は『思想』ではなく『存在』が問題なのだと考えます」


「存在? なんだそりゃ?」


「我が国にも神に不満を持ったり疑いを持ったりする者は少なくないでしょう。特に貧困者や犯罪者は『神は何もしてくれない』と神を恨むこともあります。それを一々異端認定していたらキリがありません。それに、口で何と言おうと、彼らもステータスという神の恩恵を受けているのです。勇者の称号『神の加護』ほどではありませんが。教会にとって彼らは危険というほどではありません。精々目障りというところでしょう。

 ですが、そこにステータスを持たない人間が現れました。教会の連中は驚いたでしょう」


「そりゃ、俺だって報告聞いて驚いたからな」


「私もです。教会にとってコントロールできない、古の『神選王』のような存在だと思ったのかもしれません」


「神選王って、そいつは結局偽物なんだろ?」


「実際にステータスが確認できない以上、神選王より危険と判断したのでは?」


「う~ん、その話、爺さんにはしたのか?」


「ええ、一応。ですが問題はそこではなく、不意打ちのような真似が気に食わなかったようで、信義に(もと)ると憤慨していました」


「じゃあ、『異端者』が死んだってことは?」


「いえ。まずは陛下に報告をと」


「あちゃー。まあ、しょうがねえ。この間の茶番のメンツ集めて報告しろ。爺さんとグレンのヤツも呼んでおけ。一応成果は出たってことで爺さんの説得は任せたぞ。職務なんだからな」


「……わかりました。善処します。職務ですから」


 宰相はこの後各方面に緊急会議を開くことを通達した。議題は『勇者候補による魔力食いダンジョン攻略の成果報告』である。


 緊急会議は午後になって執り行われた。

 出席者はブレスト王国側から国王、宰相、各大臣数名、宮廷魔術師団総長と騎士団長である。

 教会側からは、プタルカ教会ブレスト王国本部大司教ヘルラド・バルレラ、司祭パーナード、加えて本山から派遣されていた巫女長アンケ・ヴィミッセの3名が出てきた。

 報告者として翔太郎を『魔力食いダンジョン』まで護送して成果を見届けた騎士二人とその小隊長がいる。


「さて各位、会議を始める。

 結果から言えばこの度のダンジョン攻略は一定の成功を収めたといえますな。ただ、残念ながら勇者候補を一人失うことになってしまいました」


「なんじゃと! いわんことではない! じゃからあれほど中止せよと!」


「老師、お小言は後でお聞きします。まずは報告を。それに既に終わってしまったことですから」


「ふん、ええじゃろ。じゃが、後でわしからも報告があるからの」


「わかりました。お聞きします。では小隊長、報告を」


「はっ! それでは報告させていただきます。我が小隊は計画通り――」


 小隊長他検分役の二人も見たことをそのまま報告する。

 そして細長い木箱をテーブルの上に置いた。


「――作戦の成功を確認したあと、『異端者』はこちらに逃げて来ました。私はそれを支援すべくメタルドラゴン(●●●●●●●)に向かってファイヤーボールを撃ちましたが、その瞬間『異端者』の姿が下に落ちていくように見えました。

 メタルドラゴンが目標を見失い混乱しているのを機会に現場を調べましたところ、ダンジョンの罠らしきものを発見するも鉄の蓋があり中までは見えませんでした。そして側に鉄の蓋が閉まったときに潰されて千切れたと思われる『異端者』の腕を発見し、これを回収。再びメタルドラゴンの接近を確認しましたのでその場を撤収しました」


「その腕は東北の砦で塩に入れました。天候も寒い日が続いていますから臭いはあまりありません。検分なさいますか?」


 小隊長の言葉に幾人かが顔を顰める。


「わしが見よう。開けるのじゃ」


「では私も」


 フェロメールとグレン騎士団長は、周りの人間に気を遣ったのか、席を立ち小隊長の前まで移動する。そして箱の中を覗き見た。


「……間違いないのぅ。ショータローのもんじゃろう」


「間違いない、ですか?」


「ああ。『うでどけい』とかいう腕輪型の時計を嵌めておる。まさか千年前の遺物が偶然落ちていたわけでもあるまい。たぶん中央の学院長も覚えておるはずじゃし、勇者どもも何人かが似たような物を持っておったはずじゃ」


「私も見覚えがあります」


「では、正式に『勇者』ショータロー・カネダを死亡と断定します」


「今更『勇者』扱いか。どうしてこうなったんじゃろうのう? パーナード司祭よ、おぬしはショータローを認めておったのではなかったか?」


「神の加護を拒否するなど許されません」


「聞いたじゃろ? 勇者の世界にも神がいるとな。それにおぬしもグレンとともに見たんじゃろ、召喚された時ショータローは他の勇者どもに襲われておったそうではないか。そんな状況で他所の世界の神に祈っている暇などなかろう。

 のう、巫女長殿。ショータローは自分の意思で神の加護を拒否したのじゃろうか?」


「いえ。わかりません。神は『拒否された』とだけ伝えられました」


「じゃから、何故それを確認もせずに『異端認定』になるんじゃ! 大体許すも許さぬもお主らの言葉ではないか! 巫女長よ、神はショータローを許さん、とでも言ったのか?」


「そ、それは……」


 巫女長だけでなく教会側の人間全員が沈黙する。

 教会との諍いはまずいと判断した宰相が口を挟んだ。


「老師、そこまでにしてください。お気持ちはわかりますが、死んだ人間は帰ってきません」


「ふん。確かにそうじゃわい。惜しい人間を亡くしたものじゃ」


「では、この度の作戦は勇者の一人が命を賭してメタルドラゴンに対する優位性を証明した、という結論でよろしいですな?」


「待った! それについてはわしからも報告がある」


「何ですか、老師……」


「黙って聞かんか。安心せい、同じ話を繰り返すほどボケちゃおらん。いや、安心はできんかもしれんがな」


「あまり不安にさせないでください……わかりました。報告をお願いします」


「うむ。わしも今回の作戦とやらを後から聞かされての、確実に中止させるために実験をしてみたんじゃ。結局間に合わなかったがの」


「何の話ですか?」


「残りの勇者どもがやっと魔法を覚えてのぅ、ほれ、おぬしらにもやらせたじゃろう? 魔力切れを実際に体験する訓練じゃ」


「あれは……思い出したくもありませんな。え? まさか勇者たちに? 聞いてませんよ!」


「昨日の今日じゃ。今こうして報告しとるじゃろうが」


「悪い予感しかしませんが、で、結果は?」


「5人とも見事にブッ倒れおった。幸い死んだ者はおらん。今朝も元気にしておった」


「困りますよ老師。勇者に無茶をさせて万一死なれでもしたら……」


「今更何を言っておる。魔術師なら誰でも通る道じゃ。そんなことより、わかっているじゃろうな、この結果の意味を」


「はい……残りの勇者たちではメタルドラゴンに対応できないのだと……何故そんなことに……」


「わからん、神にでも聞け。やはりショータローが特別だったのじゃろう。本当に惜しい人間を無駄に死なせてしまったのぅ……」


 会議の出席者は皆青褪めた。特に教会側の反応は顕著であった。


「陛下。この場で職を辞することをお許しください」


「ん? えっ! な、なぜだ?」


 これまで一言も発言のなかった国王だったが、いきなりのフェロメールの辞職願いに慌ててしまう。


「勇者の養成という名誉ある役目を仰せ付けられながら、結局一人失う結果となりました。責任を取って全ての職を辞し、隠居しとうございます」


「そ、それは困る!」


「老体が職を続けますと、『ショータローは教会と国に無駄死にさせられた』などとあらぬことを残りの勇者たちに口走るかもしれません。そうなれば勇者たちが疑念を抱く恐れもあります。他に老体の口を塞ぐには死を賜るしか……」


「わかった! 皆まで言うな。認めよう。だが、今後も相談には乗ってもらうぞ」


「どうでしょうな。今回の作戦に関しては相談はされておりませんがの」


「わかったわかった。イヤミは勘弁してくれ。教会もよいな。あまり無茶な要求はせんでくれ、断れないのはわかってるんだろ?」


「は、はい。教皇に報告して善処いたします」


「ははは。始めっからそうすればよかった……」


 こうして緊急会議は『後の祭り』『後悔先に立たず』を体現したかのような結果に終わった。


 一人の勇者の死亡と一人の老臣の引退とともに。


【作者からのお願い】

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新作始めました。二作品あります。是非よろしくお願いします。


『鋼の精神を持つ男――になりたい!』 https://ncode.syosetu.com/n1634ho/ 月水金0時投稿予定。


『相棒はご先祖サマ!?』 https://ncode.syosetu.com/n1665ho/ 火木土0時投稿予定。

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