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第18話 メカゴジ○じゃねえか!

「では、これから作戦を伝える」


 ダンジョンで迎えた朝は翔太郎にとって最悪なものだった。

 檻の中も寝心地はよくなかったが、このダンジョンは洞窟型、凸凹した岩の上に横になるなど拷問に等しい。檻の中で使っていた毛皮も持ってくることができず、直寝だったのも不満の一つだ。凍死しなかったのが不思議なくらいである。翔太郎たちが担がされていた荷物の半数以上が騎士たちの寝袋だというのも悔しい話である。


 そんな寝起きの後朝食を簡単に済ませ、すぐに作戦開始となった。


 作戦の目的は、翔太郎が目当ての魔物・メタルドラゴンと接敵し至近距離で『咆哮』の攻撃を食らうこと。

 アンドンの役割は、『咆哮』が只の大声なのか『魔力食い』のスキルなのかを判定すること。故に常に翔太郎の近くに控えていなければならない。

『咆哮』でアンドンが魔力喪失状態になっても翔太郎には影響がない、という結果が出れば作戦成功である。


 翔太郎は小隊長とやらの説明を聞いていて憤慨した。人間の命を何だと思っているのかと。

 相手はドラゴンだ。肉弾戦で来るかもしれないし、他の魔法攻撃手段もあるかもしれない。なんと穴だらけでゴミのような作戦、しかもアフターケアについては全く触れられていない。仮に作戦が成功した後翔太郎とアンドンはどうなるのか。誰が助けてくれるのか。


 翔太郎は憤慨はしたものの反論も何もしなかった。

 首輪のこともあるが、何を言っても意味がないと、この世界に来て再学習したからである。日本のブラック企業とどちらがマシか、真剣に悩んだものだ。

 アンドンも似たようなもので、歯を食いしばりながら拳を握り締めている。


 そんな二人を他所に作戦は開始される。


「よし、それでは行動開始!」


 総勢12名。3チームに分かれる。

 翔太郎とアンドン、首輪の仮契約者になっている騎士が二人。これが前衛となる。大穴の底を歩き回り、メタルドラゴンが現れたら翔太郎とアンドンの二人だけで接近し挑発する。騎士二人はこれまでの研究でわかっている『咆哮』の範囲外に退避し二人を検分するのが役割だ。


 後衛となるのが騎士4人のチーム。この大穴にはメタルドラゴン以外は魔物はいないとされているが、偶に迷い込んでくるものもいるので護衛も兼ねている。

 残りの小隊長を含む4人はさらに後方で全体の監視と索敵をする。

 このような体制で大穴探索が始まった。


 大穴の底は一言で言うと『荒野』だった。

 おそらく地下が崩落する以前には地上に街の遺跡でもあったのだろう。千年前とはいっても所々近代的なビルに見える瓦礫が散乱していて、大きいものは数メートルある。材質はわからないがコンクリートに似ている。こんな瓦礫の山が豊かな自然で覆われるのは後何百年かかるか。今は雑草が所々に生えているだけだ。


「クソッ! ナマクラじゃねえかよ! 生きて戻ったらブッ殺してやるからな!」


 剣を振り回し雑草に八つ当たりするアンドン。

 作戦の都合上、翔太郎たちがメタルドラゴンを挑発せねばならず、手ぶらでは効果が低いからと始めから剣と盾が準備されていたのだ。突発的な別の魔物の襲撃に備えるという意味もあるのかもしれない。

 奴隷に剣を与えるのはこの世界では珍しいことではないらしく、アンドンが聞こえるように文句を言っていても騎士たちは何の反応もない。信頼、というのは奴隷の人間性ではなく首輪に対しての言葉なのだろう。


 探索を始めて数時間、既に大穴の上に太陽が見えるようになった。正午も近い。あの『異端認定』された日、理由はわからないが翔太郎は急き立てられるようにして檻車に押し込められた。結果日本から持ってきたカバンやスマホ、コートやスーツなどは全て部屋に置いたままだ。唯一身に着けていたのが腕時計である。

 謁見の間の茶番の後、さらに尋問や拷問があったならこの時計すら取り上げられていたことだろう。馬車での道中も服に隠れていて騎士たちには見つからなかったようだ。

 今も見つからないようにそっと時間を確かめてみると、やはり地球とシンクロしているようで午前11時前であった。


 もうすぐに昼食の時間であり、当然午後も探索は続けられる。というよりメタルドラゴンと遭遇するまで翔太郎はこのダンジョンから離れることは許されない。それが『試練』で『贖罪』なのだそうだ。


 もしこのままメタルドラゴンと遭遇しなければ翔太郎は生きながらえることができる。しかし、こんな待遇が生きていると、幸福だといえるだろうか。

 翔太郎は、いっそドラゴンと戦って騎士たちも巻き添いにしてしまおうかと考える。


『だったら、さっさと出て来い!』


 口には出さなかったが、その思考がフラグになったのだろうか。


「GSYEEEEEEEHN!!」


「出た! メタルドラゴンだ! おい! 作戦通りにやれよ!」


 瓦礫の陰から現れたのが目標の魔物だと見張りの騎士が叫んだ内容からわかった。

 その姿は、二足歩行で確かに金属の輝きに覆われていたが、翔太郎が想像したドラゴンよりはかなり小さく3メートルほどだった。そして翔太郎にとって見覚えがある、大昔の正月映画に出てきた有名キャラクター。


「メカゴジ○じゃねえか!」


「知ってんのか、タロー」


 見張りの騎士は下がったが、アンドンは翔太郎に付き従うように立っている。


「アンタ、逃げなくていいのか?」


「あ? 首輪(これ)があるからな。首が絞まってるところを狙われるよりは戦って生き残った方がマシってもんだ。で? 知ってんのか?」


「え? いや、見間違いだ。しかし、戦うって無理だろう」


 映画の設定では50メートルとも100メートルとも言われているので、それに比べれば目の前のミニメカゴ○ラは組しやすい。

 だが、翔太郎は戦いに関しては全くの素人、その上病弱だ。ここまでの道中の悪環境で具合が悪くならなかっただけでも奇跡のようなものである。戦いにも奇跡が起こるのを願うのはこの世界の神が既に信用できない翔太郎にとって願い下げである。


「タロー! 俺は絶対に生き残るぞ! おらっ! かかって来い!」


 アンドンは作戦の内容がわかっていながら果敢に攻めようとする。剣で盾を打ち鳴らし、メタルドラゴンの周りを右へ左へと動きながら少しずつ接近していく。


 翔太郎もアンドンの意志の強さに感動し、負けずと突っ込んでいった。


「うおりゃあああああ! くたばれクソガミーっ!」


「GSYEEEEEEEHN!!」


 翔太郎の雄叫びにメタルドラゴンの咆哮が重なる。

 はっとアンドンの方を見た。


「マズイ! アンドンーっ!」


 アンドンは糸の切れた人形のように倒れ込んだ。物理的な攻撃はなかったはず。これが『魔力食いの咆哮』なのだろう。服も盾も剣もボロボロになっている。気付けば翔太郎自身の装備も同じだった。


「クソっ! こうなったらクソ騎士の所まで引っ張っていってやる。モンスタートレインだこのやろう! ホラ! こっちに来い!」


 翔太郎はアンドンからメタルドラゴンの意識をそらすため、剣と盾の残骸を投げつける。地面には瓦礫がいくらでもあるので投げ放題だった。


「GSYEEEEEEEHN!!」


「映画と同じ声しやがって、この世界の神はホントクソヤローだ!」


 メタルドラゴンの気を引けた翔太郎は少しずつ見張りの騎士に向かって下がっていった。

 幸いメタルドラゴンの足は遅い。


「止まれ! こっちに来るな!」


「うるせえ! 結果は出ただろうが! さっさとアンドンを回収しろ!」


「そこで止まれ! 命令だ! 止まらんと撃つぞ!」


「止まれるかあっ! 手前らでアイツ倒しやがれ!」


「GSYEEEEEEEHN!!」


「来るなーっ! ファイヤーボール!」


「何だと! うわっ……ガアアアッ!!!」


 後ろからメタルドラゴンの咆哮がしたタイミングで、前から騎士が魔法攻撃を放ってきた。

 その瞬間、翔太郎の身体は突如開いた地面の穴に落ち込む。

 落下と同時に地面の扉が閉まり、何かに掴まろうと伸ばした翔太郎の左腕を無残にも引き千切った。


「おい! 撤退するぞ!」


「待て! 『異端者』の確認をしてからだ!」


「何言ってる! 実験は成功だ! 特別なのはアイツだけだ! 俺たちが『咆哮』を浴びたらあの囚人と同じ目に遭うぞ!」


「その囚人が囮になってくれるさ。見ろよ」


 見張り役の二人が瓦礫の陰から覗くとメタルドラゴンは騎士の方に向かうかアンドンの方に向かうか悩むようにウロウロしている。

 そしてついに騎士に背中を向けた。


「よし、すばやく確認して撤退だ!」


 騎士二人は翔太郎が消えた辺りを注意深く探る。


「おい、これ、アイツの腕だよな」


「ああ、たぶんこの鉄の蓋が落とし穴になってるんだろ。死んだな」


「じゃあ、証拠にこの腕持って帰って……これ、腕輪か? 盗ったってバレるとマズイか……ちっ、しかたねえな……」


「GSYEEEEEEEHN!!」


「おっと、またこっちに来るかもしれねえ。急いで戻るぞ」


「あの囚人はどうする?」


「もうやられただろうよ。生きてたってどうやって砦まで戻ってこれる?」


「そうだな。ここは魔大陸だからなあ」


 検分役の二人は後衛の騎士と合流し、さらに小隊長たちとも無事合流できた。

 作戦の成功をその場で報告すると小隊長から作戦終了が宣言される。


 騎士たちはすばやく撤退を始める。

 その後大穴の底にはメタルドラゴンを除き動くものは何もなくなった。


「GSYEEEEEEEHN!!」


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