3分間
どうして私が体育館の中央にいるのだろう?
さっきまで端にいてイソス・フランティーの騒動をひやひやしながら見守っていたはずなのに。
「制限時間は15分、あの娘をより上手く描けたほうが勝者ですわよ」
「簡単じゃない。あなた、今ここで降参してもいいのよ」
「誰が降参するもんですか、そういうあなたこそ負けを認めたほうがいいんじゃなくて?」
「あのー、何で私が?」
体育館の中央に椅子に座りその後ろにはロープで両手を縛られている私が嘆いていた。
それをひとみ様とイソス・フランティーは面白気に葛藤している。
「さっきの声は誰?」
「ただの虫じゃありませんこと?」
2人は私のことなんてどうでもいいんだ。
何故だか少し悲しい。
「2人ともひどいよー」
「とにかくあなたはそこで黙って停止してなさい」
私に対してイソス・フランティーはそう言った。
いや、絵の対象なんて私じゃなくて他のにしてよと心の中で叫ぶ。
「それで、始めますけど準備は出来てますの?」
「いつでもどうぞ」
まだ始まってなかったのか。
15分という時間が恐ろしく長く感じる。
「ころ、ストップウォッチを」
「はーい」
ポケットからスマホを取り出しストップウォッチの画面を出す。
「それじゃ、準備はいい?」
いつでもどうぞ的な表情でひとみ様とイソス・フランティーはころ様を見つめた。
「3,2,1、スタート」
ころ様が合図をすると待ち構えていた2人は猛烈なスピードで目の前の立てかけられた白紙に腕を動かしていく。
その素早さに体育館内の生徒たちは声を上げた。
せめて上手に描いてよと願う事しか出来ない。
「これをこうして、あの表情をとんがらせて…」
ひとみ様から不気味な声が聞こえたのは気のせいだろうか?
完成が怖い。
「ふんっ、あんな者、へのへのもへじから形を作っていけば容易いこと」
へのへのもへじって私はそんな簡単な顔してるのか。
そういうイソス・フランティーのほうが単純な顔してるくせに。
イソス・フランティーのことを心の中でバカにしてると、本人は描くのを止め、私のことを睨みつけてきた。
「今、私に対して失礼なことを考えてませんでした?」
バレたか。
もしかして心の中を読めるとか?
試してみるか。
イソス・フランティーは馬鹿で甘えん坊な泣き虫さん。
誰かを好きになっても恋愛には発展しない寂しがり屋なおこちゃま頭脳。
これでどうだ?
「やっぱり何か失礼なこと考えてましたわね」
近くにあった絵具を私に対して投げてきた。
「いたっ!」
「そこ! 集中して描いてるんだから静かにしてなさいよ」
ひとみ様は私達に対して注意をした。
集中ってもう既に白紙の裏から木の裏板から何か異様な色がにじんでるんですけど。
これは怖い。
「ふんっ、どうせ下手に決まってますわ」
イソス・フランティーはそういうとさっきまでなかった視線を感じた。
これは誰かと周囲を見渡すとそれはひとみ様であることに気づく。
「あなた、何で私を見つめてますの?」
「あなたの絵を描いてるのよ」
「対象は私じゃなくてあの小娘ですわよ」
小娘ってちゃんとした名前があるんだけどなー。
「あなたの怒った顔も参考になるのよ」
「なぁっ!? 参考にしないでくださいまし」
生徒たちはそのトークに笑いが漏れていた。
「こら、モデルは動かないこと」
「誰のせいで動いてると思ってますの」
ひとみ様とイソス・フランティーはもしかして気が合うのか?
体育館内ではこう騒がしいが私は外の小鳥の声に耳を傾けた。
あぁ、平和だなーと。
すると、ころ様はストップウォッチを確認した。
「ころ、残り何分?」
「あと12分」
たった3分しか経ってないことにみんなは不満を漏らす。
「あれだけの騒動があって3分しか経ってないってとても濃厚すぎじゃありませんこと」
その横でひとみ様は笑っていた。
「ふふふふ、覚悟しておきなさい」
その顔は何故か自信に満ちていた。
この勝負嫌な予感しかしない。
そして、私は気づいた。
この勝負、勝敗がどうなるかより完成した私の絵を見るほうが怖い。




