第98話 私ら『FOOLS』なんだからっ
「明石ミライが私の事……認知してたっ!!」
は?うざ。
握手会翌日、恒例のASMRの日だからりあを部屋に上げたら早速これだった。
というか昨日の帰りからずっとこれだった。
「万理華さん、明石ミライちゃんが私の事認知してた……っ!!」
「あーはいはい良かったわね」
……私、夏祭万理華の胸に去来する何か。
目を輝かせて頬を紅潮させながら鼻息荒く語るりあの姿に、例えようのないイライラ感が募る。
例えるなら、久しぶりに会う地元の友人が出会い頭に別に興味もない奴の話題を永遠と聞かせてくるような……
例えられたわ。
「その話なら昨日も聞いたわ」
「私が帰る時にね、『FOOLS』って確かに言ったんだよぉ!!」
「聞いた」
「『TRY AGAIN』に認知されてるよ私達!!」
「聞いたってば。私が今聴きたいのはASMRなの」
「……もっと感動したら?国民的アイドルグループだよ?」
……この子はホントに…
「あのね?認知されてるのは既に分かってる事でしょ?荻窪はぁとにフォローされてんだから」
「明石ミライちゃんだよ」
「同じグループのメンバーなんだから話くらい聞かされてても不思議じゃないでしょ?」
「もう……なんか昨日から機嫌悪いよ万理華さん」
「……別に」
私の機嫌が今あんまりよくないのはりあがいつまで経ってもASMRを始めないから…じゃないはず。
りあが『TRY AGAIN』にお熱なのが気に入らないんだわ。
もっと正確に言うと、明石ミライにお熱なのが気に入らないんだわ。
別に明石ミライが嫌いとかそういうんじゃなくて、これが荻窪はぁとだろうが白石レオだろうが……
……くそ。
「……もうすっかり推しね」
「どうやらそうみたいなんだよぉ」
ファンというより、恋する乙女。ふにゃふにゃ笑うりあの手には大事そうに『TRY AGAIN』のキーホルダーが握りしめられてた。
「ライブ凄かったし……かわいかったんだぁ」
「……良かったわね」
「まさか私がこんなにのめり込むなんて……」
「……そんなにご執心なら『FOOLS』じゃなくて『TRY AGAIN』で百合百合したら?」
りあの顔がパッてこっち向いて……
ちょっと…流石に感じ悪かったか。
「ごめんりあ、今のは「え?『TRY AGAIN』って百合要素あるの?」
「……」
もうなんか……いいわ。
「りあ、言おうと思ってたけど……」
「ん?」
「あんた絶対女好きよ」
「かわいい女の子は大好きだよ?眺めて良し、百合させて良し」
「恋愛対象として」
「ないな。私は壁。私は尊死したいの、百合眺めて。百合したいんじゃなくて、眺めて」
「絶っっっ対嘘」
「自分の恋は……ちょっと考えられないなぁ」
どの口が言うんだ。ベッドに仰向けに倒れ込むセクハラ女を眺めながら、そう思ったわ。
「……そーいえばさ、万理華さん」
「なによ?ていうか、ASMRやる気あるの?ないなら…スタジオ行くわよ?」
なんか起き上がったりあがえらく真剣な顔を……
「せいはる、どう思う?」
「は?せいは……?」
「せいちゃんとはーちゃん…万理華さんから見て最近さぁ…なんか様子が違ったりしない?」
「……いや…別に……はっ!?まさか!?」
「しーっ!いや……別に確信があるわけじゃないんだけど…………」
星羅と陽ぅぅ!?まずい!!それはまずいっ!!絶対にまずいわよ!!
「……いや、あるんだけど…」
「あるのぉ!?!?」
思わず声が裏返っちゃったじゃないっ!!
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いつものダンススタジオに集まった『FOOLS』のメンバー…
でも今日はレッスンじゃない。
テーブルとパイプ椅子(みんなで割り勘、さっきホームセンターで買ってきた)、それに並べられる配信機材(ASMR動画で使ってたやつ)が用意された空間はいつもの雰囲気とは違う。
私…天鬼りあにも緊張が募る。
でも、一番表情が固いのは…鏑木琴音…そう『ぽいずんちゃん』だ。
デビューを目前に控えた今…
今日は琴音ちゃんの為の日だ。
「…このタイミングでいいのね?」
立会人、ケツアナ&ハナアナコーチが見守ってくれる。夜遅いので保護者です。
……ちなみに星熊マネージャーはコンビニ夜勤で不在。
ケツアナコーチが確認の問いかけを投げるのはリーダーの万理華さんだ。
「『FOOLS』は今ノってるわん」
ハナアナコーチが鼻毛を引き千切りながら(ちょっと鼻血出てる)今、このタイミングの重要性を語る。
「このままの流れで、あなた達の実力を披露すれば、まずまずな結果でデビューを飾れるはずよ」
「今、世間は『ぽいずんちゃん』の話題をいい意味で忘れてる…経験から言わせてもらえば、ここであえて『ぽいずんちゃん』時代の過去に触れるのは、琴音ちゅわん…いえ、あなた達をただ攻撃したいだけのつまらない人種に燃料を投下するだけに終わる可能性が高いわぁん」
二人のコーチはマネージャー以上にマネージャーみたいだよ。琴音ちゃんの…私達の事を心配してくれてる。
対する万理華さんは……
「せいはるせいはる……」
……なんか別の事考えてる…
こんな大事な日の前に余計な事言ったかなぁ。
「「聞きなさいよん」」
「聞いてます」
「はっきり言って今あなた達に注目してる人達は琴音ちゃんの過去になんて興味ないわん。そして、今日琴音ちゃんが何を語ろうが、それは炎上の種にしかなりえないわ」
「デビュー前にケチが付けば、あなた達のこの先は……」
「ありがとうございます。でも…」
万理華さんはきっぱり、二人のコーチに言ったよ。
「琴音はこのためにアイドルになったんです。だから、私達も逃げません」
そこには断固たる決意があった。万理華さんのその眼差しが私達を奮い立たせてくれる。
やっぱり『FOOLS』のリーダーは夏祭万理華だね。
今日始まるのは琴音ちゃんの過去の炎上とそれに対する説明、そして、かつてのファンに対する謝罪配信。
これは琴音ちゃんがアイドルを目指した理由であり、鏑木琴音を仲間とする私達『FOOLS』にとって必要な儀式になる。
「みんな、そろそろ始めるわよ」
万理華さんの号令でみんなが集まる。
ケツアナ&ハナアナコーチはカメラの画から外れた壁際で諦めたような、呆れたような表情で見守ってくれてる。
なんだか背中を守られてるみたいで心強いよ。
……星熊さん、大変な時私達を見守ってくれてたのは星熊じゃなくてコーチでした。
「準備はいいわね?」
数秒の沈黙の後、万理華さんがもう一度覚悟を問う。
……そう、これは大きな覚悟を問われる戦いなんだ。
数日前から何をしゃべるかみんなで話し合った。
配信内容によってはひどい炎上になる。
慎重な話し合いの中で一番尊重されたのは琴音ちゃんの意見なんだけど……
「……正気?」
琴音ちゃんの意見に万理華さんは度肝抜かれてた。
もちろん私も。
「……それはちょっと」
はーちゃんも難色を示し…
「デビュー前だよ?」
あのせいちゃんがドン引き。
「がははははっ!!」
紗良ちゃんだけ笑ってたな。
「琴音、あなたがそこまでする必要ないわ!!」
こういう場面では珍しく万理華さんが感情的に反論する。琴音ちゃんの提案はそれくらいのインパクトがあった。
「……アイドルのけじめといえばこれしかない」
「琴音あんた…デビューライブ捨てるの?」
琴音ちゃんは押し黙っちゃった。琴音ちゃん自身も理解してる。自分の言ってる事の無謀さ、恐ろしさ…
それでも琴音ちゃんは頑として退かなかった。
「みんなが付き合う必要ないよ。ただ、事務所にはバレないようにして。きっと止められる」
「当たり前じゃん。琴ちゃん、そんなに昔の自分に責任感じる必要ないんじゃない?」
「……星羅、ありがとう。でも…これは私自身の納得の問題でもあるんだ」
「……琴音のくせに革命家みたいな凛々しい顔だ。ロリッ子革命家…なんかY〇uTuderに居そう……」
紗良ちゃんはどんな時でも平常運転だ……
「私は、誰もが納得する、私なりのごめんなさいを…あの時裏切ったファンにしたい」
「琴音…私は……あんたが謝る事なんてないと思っ「琴音ちゃんがどうしてもって言うなら」
万理華さんの言葉を遮ってはーちゃんが言った。
「僕もやるよ」
「……陽っ」
「うぅぅ……でも…はーちゃん……」
思わず涙ぐむ琴音ちゃんをはーちゃんが抱きしめてるっ!!
はることだぁぁぁぁっ!!
「でゅふふっ!!てぇてぇ…」
「りあ、今は抑えなさい」
「でゅふふふふふふ。万理華さん」
私の笑い顔にドン引きしてる万理華さんに…
「いいんじゃないかな?」
「……本気なの?」
「琴音ちゃんを独りにはできない…仲間だから」
万理華さんの心に私の想いが少しは届いたのかも…
続く紗良ちゃんの言葉に万理華さんはもう何も言わなかったから。
「面白そーでいいじゃん。バカな事やろーぜ。私ら『FOOLS』なんだからっ」




