↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/159

第99話 ぎゃああああああああっ!?!?琴音様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?

「うわぁ!?」


 株式会社ヤッテ・ランネー・プロダクション本社ビル、第4会議室。

 なぜか『TRY AGAIN』で二時間利用申請が入ってたけど、マネージャーに訊いても全く覚えがないって言うから、メンバーのレオちゃんと覗いてみたんだけど…

 私の前に立ってる白石レオちゃんが悲鳴と一緒にひっくり返った。


 メンバー最年長…常にみんなを引っ張るリーダーにしてファンから「王子」と呼ばれる彼女だけど…オフに切り替わったその瞬間から抜けたところのある可愛いお姉さんに変身するんだ。


 さて、そんなビビりでおっちょこちょいなレオちゃんでも流石に叫んでひっくり返るなんて事はそうそうない。

 一体何が……



 会議室のど真ん中でパソコンの前に全裸で正座した荻窪はぁとちゃんが居た。


「きゃああ!?」

「うおっ…ミライにレオ…どしたん、話聞こか?」

「話を聞く必要があるのはこっちじゃないかな!?」


 一体何を取り乱してるんだって言いたげなクソガ…違う、かわちいはぁとちゃんが目を丸くしてる光景にレオちゃんがツッコんでた。この二人の漫才はMCでも人気。


 それにしても…服装次第では中学生に見える童顔のはぁとちゃんが全裸で正座してる光景は凄いインパクトだなぁ。腰くらいまで届く金髪が前と後ろ、危ういゾーンを辛うじてガードしてる光景は奇跡の産物だよ。


「何してるのかな?はぁとちゃん。ここ事務所だよ?誰か入ってきたらどうするの?」

「使用中の会議室に入ってくるのなんてミライくらいだよ」

「私達で良かったね」


 レオちゃんが甲斐甲斐しくブランケットを肩からかけようとするのを何故か断固拒否してるはぁとちゃんが何を真剣に見てるのかと思ってパソコンを覗き込んでみたら…


「…これ、もしかして『FOOLS』のチャンネル?」


 配信待機画面。そこにはスタイリッシュな字体で『FOOLS』って文字が浮かび上がっては消えてた。


「『FOOLS』…?ああ、はぁとがえらく推してる琴音ちゃんのユニットだ…そういえばはぁと。マネちゃんから推し活は個人垢でやれって注意受けただろ?勘弁してよ。マネちゃんから小言言われるのはリーダーの僕なんだから…」

「うるせぇ。私は個人垢持ってねーんだよ」

「……このクソガキ」


 少年みたいなハスキーボイスと童顔、それに生意…じゃなくて反抗期みたいな性格は関わった人達に「クソガキ」の印象を抱かせる。

 それがはぁとちゃんの魅力。


 ……で?


「なんで全裸?」

「全裸待機してんだよ。もーすぐ琴音様の配信が始まるんだ」

「あ、そうなんだ…で?なんで全裸?」

「推しの配信は全裸待機だろうが!!」


 よく分からないけど、全裸である事が重要みたい。


「へくしゅんっ!!」

「風邪ひくってば。もう…喉痛めるよ?…あと、この前のライブちょっと音程ズレてた。ずっとズレてた。声も出てなかったし、ボイトレとかしてる?」

「うるせーなレオォ!!もう始まるんだから静かにしてお前も全裸待機しろや!!」


 リーダーとしての責任感と説教臭…違う。ちょっと真面目ちゃん過ぎるのがレオちゃんの魅力。



 ……そういえば『FOOLS』の人、握手会来てたな。

 この前の握手会は2万人くらい来てくれたらしい。

 私の所に来てくれなかったファンでも、足を運んでくれたファンの顔はなるべく見るようにしてる。

 その中でもあの子は印象に残ってる。

 もちろんはぁとちゃんがここ最近FOOLS、FOOLSって騒いでるのもあると思うんだけど…


 ……可愛かったな。


 あんな新人がポコポコ出てきちゃったら私達も危ういね…


「『FOOLS』ねぇ…たしか今度の秋葉原《アキバ》のライブでデビューなんだよね。星羅って子が凄いみたいだけど…」

「いやまじお前らもデビューライブ行くぞ!?『FOOLS』はマジで推せるから!!行くぞ!?てか黙れレオ!!もう配信始まってっから!!清聴しろ!!バカがよォ!!」

「……はぁとの推しは琴音ちゃん?だっけ?…たしか元Y〇uTuberの『ぽいずんちゃん』?」

「琴音様だろーがよォてめぇはよォ!!舐めてんのか!?」

「……(イラ)」


 …『FOOLS』の子この前握手会来てたよって言ったらはぁとちゃん絶対嫉妬するよなぁ…黙っとこっと。


『……皆さんこんにちは』

「来たァ!!琴音様ァァ!!」


 喉破裂するんじゃないかってくらいのテンションではぁとちゃんが騒ぎ出した。この子がいちばんうるさいや。

 私とレオちゃんも成り行きで配信を見守る事に…


 正面にはぁとちゃん推しの琴音ちゃん。その後ろにメンバーが並んで立ってる。


 みんな可愛いなぁ…眼帯の子凄い存在感。この背の高い子が星羅ちゃんだよね。歌凄いんだよな。


 …で、この白髪の子が……たしかりあちゃん。


 私に会いに来てくれた子はすぐに見つけられた。

 あの時の彼女の顔、反応…全部記憶に残ってる。初心で見てるこっちが恥ずかしくなるくらい緊張してたなぁ。


「……なんでみんなスーツなんだろ」


 レオちゃんが素朴な疑問を口にした瞬間「だぁってろ!!」ってはぁとちゃんのアッパーカットか飛んでた。


 確かに…アイドルグループの配信にしてはなんか雰囲気が固いな。みんな真剣な表情してるし…まるでなにかの謝罪動画みたい。


 …そこで気づいた。

 配信タイトルが『鏑木琴音の過去のY〇uTube活動と炎上の件について、かつてのファンの皆様へのご説明と謝罪』になってる。


 ……?


「はぁとちゃん、これなんの配信?」

「神の配信だっっ!!」


 はぁとちゃん…これ多分なんの配信なのか調べてないな。


 確か『ぽいずんちゃん』って炎上したんだよね。

 それでまたアイドルになろうって思うのは凄い勇気だと思う。それに…その時の事を配信で話すの?謝罪?なにかあったのかな?


 不安な心持ちで画面を見守る…


『本日は…私《わたくし》『ぽいずんちゃん』こと鏑木琴音の過去のY〇uTube活動に関してたくさんのご意見、ご質問を頂いておりますので、それについて当時のファンの皆様、そして今『FOOLS』を応援してくださってる皆様にご説明させて頂ければと思います』

「私は今も昔も大ファンだよぉぉぉぉっ!!」


 はぁとちゃんはもう喉ぶっ壊したのかな?ガラガラだな。


 …どうしてわざわざそんな事を配信で……


 頭に疑問符を浮かべながら配信を見守ってみた。

 その内容は『ぽいずんちゃん』がどうして炎上するに至ったのか、その経緯について。そして彼女が活動してたチャンネル『さいたまシスターズ』について。


 炎上の経緯については当時のY〇uTubeチャンネルのメンバーとの人間関係に問題が生じたと。

 その問題というのがどういうものだったのかはかなり曖昧な表現をされてて、正直説明になってなかったけど…まぁ多分グループ内のいじめなんだろうなってのは雰囲気から察した。

 はっきりした事言わないのは当事者達への配慮だと思う。事務所の意向だろうな。


『さいたまシスターズ』は無期限の活動休止状態だったんだけど、もうメンバーの誰も当時の事務所に所属してなくて、『さいたまシスターズ』の活動再開は無い事がこの配信で明言された。


 …はぁとちゃんはショック受けてるかも。


「琴音様…あぁ…ぁぁぁぁ……」


 恍惚とした表情浮かべてた。この子配信ちゃんと観てる?聞いてる?


「はぁと、『さいたまシスターズ』復活ないってさ」

「は?あんなグループ死ね。クソムシが。琴音様以外う〇こ。う〇こだから」


 レオちゃんへのレスポンスはこれでした。あくまで琴音ちゃん推しなんだね。



 …気づいたら同接が1000人に迫る勢いになってる。

 その数字に私は総毛立つ。


 無名の事務所のデビュー前のアイドルグループの配信で同接1000人…!?『ぽいずんちゃん』の知名度はあるだろうけど表舞台から消えて二年以上経ってるんだよ…!?


「……すごいねレオちゃん、同接1000人だよ。この子達もしかして凄いユニットなのかも…」

「……まぁ……うん…バズらせたのこいつだしね」

「琴音様ぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 ……あ、そっか。今観てる人達もしかして、ほとんどはぁとちゃんから流れてきた人?

 もしかして、身内がライバル育ててた?


 同接1000人にもなるとチャット欄も賑わってる。

 ただ、その内容は困惑と白けた反応ばかり。


 アイドルの配信観に来てこの内容だから無理もないよね…


「琴音様ぁぁぁぁ!!スパチャスパチャスパチャスパチャスパチャスパチャスパチャっ!!」


 …あとスパチャがとんでもない事になってるね。


 微かな増減を繰り返しつつ、全体的にお通夜みたいな雰囲気で進行していく配信。

 私の中で疑問符が大きくなる。

 これは『FOOLS』の公式チャンネルでやる事なの?後ろのメンバー達は、なんの為に…?



『理由はどうあれ、皆様が応援してくださった『さいたまシスターズ』が活動終了してしまったのは…私の軽率な行動の結果です。そして、その後なんの謝罪も説明もなしに姿を消すという無責任な行動を深く恥じ、そして反省しております』


 琴音ちゃんが真剣な口調で謝意を口にする。小さくて可愛らしい少女の全身から発せられる罪悪感と誠意は、画面越しでも伝わる。

 そして…痛々しい。


『私は…………今日この日の為に…戻って来ました。応援してくれた皆様に、ちゃんと謝りたくて……』


 正面を見れなくなった琴音ちゃんの肩に後ろから眼帯の子が手を添える。ここではじめて、風景に徹してたメンバーが動いた。

 そして琴音ちゃんが顔を上げる。


『私の謝罪の気持ちを今日…皆さんに受け取って欲しいんですっ!!』


 眼帯の子が取り出したのはバリカン。確固たる決意を固めた琴音ちゃんの頭の後ろからヌって、突然バリカンが生えてきた。


 ……ん?


「ん?」

「ん?」

「ぐすっ……琴音様ぁ…私は……そんな琴音様を尊敬しておりますぅぅ……」


 なんだ?このバリカンは。


『皆さん、『FOOLS』の紗良ちゃんです』


 眼帯の少女がなんか喋りだした。でも、手に持ったバリカンが気になりすぎて入ってこないよ。


 ……バリカン…まさか?


『鏑木琴音はアイドルとして生まれ変わりました。そして、アイドルのケジメといえば…これです』


 バリカンが…振動し始めた……


『そして、私達は仲間です。仲間の罪は、一緒に背負います』


 紗良ちゃんの言葉を合図に他のメンバーも無言でバリカンを取り出したんだけど…

 6人分のバリカンがブルブル振動してるんだけど…


「……え?へ?え?」


 これには感涙に咽びながらスパチャ連打してたはぁとちゃんの涙も引っ込んだ。その絵面はあまりにも不吉すぎた。


「……まさか…っ」


 私が戦慄する中で…琴音ちゃんが叫ぶ。

 それはあまりにもキマりすぎた覚悟だった。


『皆様!!申し訳ございませぇんっ!!』


 ヴィーーーー…ジョリジョリジョリッッ


「……っ」

「……っ」

「ぎゃああああああああっ!?!?琴音様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」



 新人アイドルグループ『FOOLS』連帯全剃り謝罪配信は、後日アーカイブにて再生回数12万回を記録して、世のアイドルオタク達を戦慄させた…



 ……あと、はぁとちゃんの喉がイカれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。