第100話 ヅラ系アイドルとか聞いた事ねーんですけど!?
「はーちゃん、キングコブラって見た事ある?」
「え?…ないけど…紗良ちゃんあるの?」
「群馬にさ、世界中の蛇集めた動物園みたいなのがあんだよね」
「へぇ…」
「あいつってさ…なんか可愛いんだ。フード広げて威嚇してるとこ正面から見たらさ、なんかずんぐりむっくりなシルエットでね?頭が丸っこいのが可愛いんだと思うんだけど…で、目よ。あいつらチョーまん丸で円な瞳してんの。そのくせなんか凛々しい。主人公みたいな顔してんの」
「ほぉ…」
「まぁ何が言いたいかって言うと、丸ってのは可愛い」
「うん」
「…だからね?星熊さん。今の私達のシルエットも可愛い」
丸っこい頭を振りながらトンデモ理論を振りかざす紗良ちゃんに、星熊マネージャーのマングースみたいな鋭い眼光が突き刺さる。
天鬼りあ、華の女子高生。
クリスマスを前にして丸刈り。
『FOOLS』による鏑木琴音の説明兼謝罪配信で行われた連帯謝罪全剃りごめんなさいこれが欲しかったんでしょ?スーパー断髪式(せいちゃん命名)はたった一日でアーカイブの再生回数が12万回を超える快挙を達成して、我らが公式チャンネルでトップの再生回数を叩き出す。
伝説が産声をあげたわけ。
で。
「ライブどうするんですか?(怒)」
まぁそうなるよねぇ…
「明日ですよ?(怒)」
そうなんだよねぇ…
見事にツルッパゲな私達6人へもう怒りを通り越して笑いしか出てこない星熊さんが…
「あははははははっ!!」
笑ってた。
ちなみに星熊さんも野球少年みたいな頭してるんだよね。
「…新メンバー…加入、って事でどう?」
お揃い頭の紗良ちゃんが勧誘してる。しかし紗良ちゃん…丸坊主頭に眼帯はヤバいな。完全に丹下〇平だな。
「星熊さん、みんなを怒らないで…」
「無茶言わないでください鏑木さん(怒)私、昨日、コンビニの夜勤バイト中に配信観てひっくり返ったんですから(怒)」
「いや仕事しろよ」
かつてバイトをバックれた星羅がなんか言ってます。
「みんなは私に付き合って…こんな無惨な事に……」
「言い出しっぺは鏑木さんですか?(怒)」
「うん…………でもみんなでやろうって言ったのは紗良」
「おぉい!?紗良をサラッと売るんじゃねぇよ!!がははははは!!」
ああ紗良ちゃん…見た目だけじゃなくてセンスまでオヤジに……(悲)
「星熊、私がなんの考えもなしに全剃りアイドルなんかに転生すると思ってんの?」
その時、照り輝く私達の頭を照らす後光のような光明と共に万理華さんが立ち上がってた。この世の全てを諦めたような顔をしてる星熊さんは万理華さんが出してきたソレを見て…
「ああ、カツラですか…」
「桂じゃないヅラだ」
「錦野さんちょっと黙ってもらっていいですか?…なるほど。髪が生えるまでそれで誤魔化すと…」
「生えるまでって言うな。厳密には生えてるから。剃っただけだし。メンバー全員の髪の毛を意識して特注して作らせたわ。これならライブも大丈夫よ」
「夏祭さん…しかしですね?あなた達は配信で、視聴者の前で剃ったんですよ?」
「だから?」
「…いきなり髪の毛伸びてたらおかしいでしょーがっ!!」
キレた……
「いいじゃない、ビジュ変わんないなら」
「ヅラ系アイドルとか聞いた事ねーんですけど!?」
「ヅラじゃない桂だ」
「黙ってろって言ってんスよ錦野さん!0.5ミリしかないその毛髪毟り取るぞ!!」
私達だって今回の無茶は理解してる。常軌を逸してるとしか思えない所業。
でも…
怒られてしゅんとしつつもどこか晴れ晴れとした顔をしてる琴音ちゃんを横目に、まぁいっかと思った。
「大丈夫だよ星熊さん」
「何が大丈夫なのか言ってみろ天鬼ぃ!!」
「ちょっと!りあに当たらないでよ」
「違います夏祭さん!全員に当たってんですよ!!」
怒り狂う星熊さんの背中を擦りながら万理華さんから受け取ったヅラ「ヅラじゃないキャプテンカツーラだ」を被って見せる。
「ほら見て?元のまんま」
「全然?失ってんスよあなた達は。そして得たのはヅラ「桂じゃないヅラだァァァァァ!!」系アイドルという汚名だけですよ?」
「でも私達『FOOLS』だからぁ」
この決断をした時の紗良ちゃんの言葉をそのまま使わせてもらおう。
「お陰でバズったし…きっと明日も沢山の人が来てくれると思いますよ」
「…………バカヤロウ過ぎるんですけど」
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11月の寒くなってきた外気は0.5ミリには堪えるよママ…
POPプロダクションに最後に残された財産らしいアルファードに揺られながら私は想いを馳せる…
「…りあちゃん、緊張してるの?」
「違うよはーちゃん…期末考査の結果が酷すぎてさ……」
「姉さん直伝のテストでいい点を取る方法、教えようか?」
「それって勉強法?」
「ううん。まず先生を拉致「ごめん大丈夫」
秋葉原新人アイドルサーキットフェス…当日。
私達は秋葉原に居た。
……丸刈り頭で。
サーキットフェスっていうのは特定エリア内の複数のライブ会場をお客さんが行き来して、一日を通してライブを楽しむっていう趣旨のイベントの事。
ひょんな流れから出場が決まったライブ…
ここまで色々あった…あり過ぎてヅラ「ヅラじゃない桂だ」になった。
でも…ここまでみんなで来れたね。あ、一人(朋花ちゃん)は脱落したけど…
「私らの出番は何時だっけ?」
本番を前に全く緊張の色が見えないせいちゃんは流石だな。精密機械を扱うような目つきで爪を弄ってた。
でも丸刈りだった。
「『FOOLS』の出番は、ライブハウス『アキバStation』で15時半から15分間です」
「え〜っと…三曲で大体12分くらいだから…?げっ。3分も何喋んの?琴音ぇ、ちゃんと喋れまちゅか?」
「黙れ紗良」
互いの頬っぺをつねりあってる琴音ちゃんと紗良ちゃん…紗良ちゃんのいじりには緊張気味の琴音ちゃんをリラックスさせようって気遣いが見え隠れしててとてもてぇてぇけど、丸刈りだった。
「緊張するね……」
緊張してるはーちゃんも丸刈りだ。
「…まだ時間あるしどっか寄ってご飯食べる?ライブハウスでもお弁当出るみたいだけど…ってか星熊、社長来ないの?」
助手席でゴミゴミした秋葉原の街を眺める万理華さんも、やっぱり丸刈りだった。
「はい。このアルファードに乗りきらないので置いてきました」
そしてハンドルを握る星熊さんも、元から丸刈りだった。
そんなハゲ散らかした「丸刈りとハゲはちげーから」さっきから独白にまで口を出してくるせいちゃん含めたバカヤロウ共一行は、それっぽい雰囲気のライブハウスに到着。
「…わっ…すごい人……」
裏にアルファードを停めてる間にこっそり表に回った琴音ちゃんとはーちゃんが目をパチクリしながら戻って来た。
…確かに、表からたくさんの人の気配を感じる。
店の裏から続いてる階段を降りた先に従業員用の通用口があって、なんだか地下にあるって感じでライブハウス感があるなって思った。
私にとってのライブハウスって、地下にあって薄暗いイメージだから。
通用口から星熊さんを先頭に中に入ると、奥の方から賑やかな声援と音楽が漏れ聞こえてくる…
ライブハウスの中は11月なのに暑かった。
扉が開いた音に気づいた側面を刈り上げたツーブロックで黒髪のお兄さんが振り向いて顔を綻ばせる。その顔を見て私は思ったよ…
みんな剃ってるって……
「久しぶりね万理華ちゃ……え?」
「みんな、このライブハウスの店長さんで、このイベントの運営さんでもある漢さんよ」
「万理華さん、引いてるって」
実に淡々とした紹介に琴音ちゃんがツッコんでたけど、恐らく今ツッコまれるべきは私達。
「何その頭!?!?」
「深い事情があるのよ。訊かないで漢さん」
「……デビューライブ前に丸ハゲなんてよっっぽど深い事情なのね…」
「…星羅ぁ。なんでこの作品に出てくる男キャラはみんなオカマ口調なんだろ」「紗良ちゃん、今から真面目なライブ回なんだからメタ発言もその辺にしとかないとダメだよ」
漢さんに案内された私達はそのまま楽屋に入る。
楽屋って響きが自分達が芸能人だって事を実感させて、ワクワクさせてくれた。
ただ、いざ入って見るとライブハウスの楽屋って狭いんだなぁって思った。
なんか運動部のロッカー室くらいの広さ。鏡に向かい合う椅子が用意されてて、あとはロッカーとかハンガーラックとか…まぁ色々ごちゃごちゃしてた。
…でも外から見たらあんなに小さな建物なのに、楽屋にステージにって色々入ってるんだよね…
「今出演してるグループの子達の服とか荷物もあるから…こっち側使いなさいね」
「えー、共有なのぉ……万理華ちゃんタバコ吸っていい?」
「いい訳ないでしょ(怒)準備するわよ!陽はこっち来て」
星熊さんから荷物を引ったくって、そこからビニールのかかった黒っぽいジャケット衣装が引っ張りだされた。
「まさかそれが…っ」「私達の衣装…っ!?」
「そうよ。そんなわしゃわしゃ触らないの!せっかくコーチ達がシワにならないように持ってきてくれたんだから…これが琴音の。紗良はこれ。あと、ヅラ「ヅラじゃない桂だ」忘れないように」
私達の衣装…なんかかっこいいな。スーツみたいだ。武道館で観た『TRY AGAIN』の衣装とは対極な感じがした。
「着替えたらメイクね。陽、奥にトイレあるからそっちで着替えなさい」
「はーい」
……はーちゃん、そんなに肌見られたくないのかなぁ。
一人で出てっちゃったはーちゃんをせいちゃんが意味深な目で見つめてるのに気づいてハッとする。
はーちゃんはせいちゃんを警戒してるのか?
「……万理華さん万理華さんっ。やっぱり…この間の股間まさぐり事件はせいちゃんによるレイプの可能性が……っ」
「りあ」
「え?」
「今はその邪念を消して…集中して」
「邪念ってなに!?別に欲情してないよ!?」




