第101話 よし行くぞ!!『FOOLS』!!勝つぞっ!!
「時間よ、準備して」
漢さんに呼ばれた私達『FOOLS』はステージ袖まで移動する。
ヤバい…心臓がドキドキしてる。
マイク当てたら音が聞こえてきそうなくらい鼓動が激しい。
これから私は…私達はステージに立つ。
路上ライブで何度もやったのにこんなに緊張するのは、ちゃんとしたステージだから?
それともこれがデビューライブだから?
……もし全然お客さん居なかったらどうしよう。
鎌首をもたげる不安の中頭に過るのは『TRY AGAIN』の武道館ライブ。
あれと比べたら比較にもならない小さな舞台なんだろうけど…あれと同じ事を今からするって考えると、なんだか現実味がない。
規模はどうあれこれからあの子達と同じようにステージに立つ。
そう考えるとこれが夢か何かなんじゃないかって思えてきた。
……少しドキドキが収まる。
耐え難い鼓動が鎮まるのと入れ替わりに静かな興奮が底の方から湧き上がってきた。
私は初のライブどんな風に歌うんだろう…
自分の事なのに早く知りたい。
「琴音ちゃん?トイレ行った?しばらく行けないからね?」
「私は小学生かっ!!はーちゃんだってヅラずれてんぞ!!」
「琴音ちゃん?お腹痛くなったらおねぇちゃんたちに言うんだよ?」
「星羅も借金取りが居たら逃げるんだぞ?(怒)」
「琴音?「黙れ紗良」……サイコーの初ライブにするぞ!!」
「この流れで普通の事言ってんじゃねぇよっ!!」
……みんな、いつも通りだ。
みんなのじゃれ合う姿が緊張も興奮も吹き飛ばしてくれる。みんなが居れば、ピクニックにでも出かけるみたいな心持ちになれるよ。
「…でゅふふ」
「しつこいようだけど、あんたはデフォルトで笑い声それなの…?」
「万理華さん、ピクニック楽しみだね」
「ピクニックじゃないわよ!?」
呆れ半分、安心半分の顔で万理華さんが笑った。
「…緊張してるみたいだけど、大丈夫そうね」
「分かるんだ」
「私はプロよ?みんな緊張してる…普段通りなのは紗良くらいね」
「流石紗良ちゃん」
「……あの子のムードメーカーっぷりにはいつも救われるわ…」
万理華さんと目が合った。
「……あんたにも感謝してる」
「え……?」
「ここまでこれたのは、りあ…あんたが居てくれたからよ」
「私なんかしたっけぇ?」
「傍に居てくれた」
万理華さんのその一言が一滴の雫みたいに心に落ちて広がった。言葉を咀嚼して、意味を考える……
その一言に特別な意味を感じる。万理華さんからそんな気配を感じた。
「…………傍に居たのはみんな一緒だよ」
「……そうね」
万理華さんとの間に流れる束の間の沈黙。ステージの方から感じる人の気配が私達を現実に引き戻す。
「りあ」
万理華さんが口を開く。
なにを言うんだろ?気になる反面、今は聞きたくないなって気持ちもある。
「……ライブが終わったら話がある」
万理華さんのその言葉、この局面、この空気間でどう捉えるべきだろう…
「分かった……」
ひとつ、ライブを成功させなきゃいけない理由が出来た。
お通夜みたいな気分で聞きたくないからね。
「へいへいお二人さん」
二人の間に紗良ちゃんが割って入ってきて私の意識は現実に帰ってくる。
「あーゆーれでぃ?」
紗良ちゃんがニカって笑う。
「誰が解放の戦士じゃ」
それだけで安心するんだ。
「……紗良ちゃん大好き」
「えっ!?…お、おぅ…がははっ!!私には琴音が居るからなぁー」
「りあちゃんそんなんでよければ持ってって」
スパァァァンっ!!
「ぎゃっ!?万理華ちゃん!?なんで叩いた!?」
「……みんな。今日までよく頑張ったっ!!」
……お?これは……?
もしかして…よく見る本番前に気合入れるアレ?
「でも!ここスタートラインだから…」
「ちょっと、部外者は立ち入り禁止です」
「いや、マネージャーです(怒)」
スタッフさんに止められかけながら入ってくる星熊さんが雰囲気を台無しにするけど…まぁ続ける。
「みんなそれぞれアイドルになった理由はあると思う…でも、今日は!来てくれてるファンの為に…そして、今日まで頑張った自分たちの為に歌おう!!」
リーダーの声で気合が注がれる。みんなの顔が引き締まった。
「……私からは一つだけ…本番中絶っっっ対ヅラを落とさないで下さい。以上です」
……引き締まった気持ちも調子の外れた星熊さんの言葉ですぐに緩んじゃった。
でも…私達にはこれくらいが丁度いいよね。
みんなで顔を見合わせて笑った。
みんなで手を合わせて、万理華さんが号令をかける。
「よし行くぞ!!『FOOLS』!!勝つぞっ!!」
「いや何に?」
……私達の最初で最後のデビューライブが始まる。




